江戸時代から日本全国で活躍した近江商人の経営哲学とされる「三方よし」。商売を通して自分と相手、そして社会に貢献しようという考えで、現代でもこれを社訓とする企業は少なくない。今回は三方よしを実践する経営者たちの考えや行動を中心に過去の記事からピックアップしていく。

CSR、ESGにもつながる「三方よし」の精神

 三方よしとは、江戸時代から明治にかけて全国で活躍した「近江商人」の経営哲学とされる言葉だ。その意味は「売り手よし、買い手よし、世間よし」というもので、商売において売り手と買い手が満足し、そして社会に貢献できることを「よし」とする。

 近江商人だった創業者、伊藤忠兵衛氏の原点に戻るべく、2020年にグループの経営理念を「三方よし」に改めた伊藤忠商事をはじめ、三方よしを経営理念や社訓とする企業は少なくない。また三方よしの精神はCSR(企業の社会的責任)やESG(環境・社会・企業統治)につながるとの指摘もあり、これに注目する経営者も少なくない。

 なお研究者によると、「三方よし」という言葉は実は近江商人が唱えたものではなく、近年になって作られたものだという。しかし「三方よし」という表現ではなかったとしても、「一方的にもうけない」「公益を重視する」といった気質は確かに近江商人のものだ。

 この記事では三方よしと現代の経営の関係、三方よしを理念とする経営者の考え方や経営手法について、過去の記事から振り返ってみる。

CSRと日本型経営の関係とは 求められる発信型の「三方よし」

 米ハーバード大学の経営学者、マイケル・ポーター教授が唱えるCSV(共通価値の創造)経営は「お客様や従業員、地域社会、取引先などのステークホルダー(利害関係者)とメリットを分かち合う」という考え方だが、これは三方よしと共通する点がある。また「売り手」とは自社ではなく、働き手を意味し、今風に言えば、CS(顧客満足)よりもまずES(従業員満足)という考え方につながる。

成り金は認めず ESGにもつながる近江商人発「三方よし」の原点

 三方よしの精神を現代風に解釈すると、従業員と取引先を満足させ、地域社会や地球環境に貢献することと考えられる。これはESGやSDGs(持続可能な開発目標)の考え方と親和性がある。

 これを受けて滋賀経済同友会では「より多くの利害関係者から『サステナブル(持続可能な)・ステークホルダー』として支持を得られるよう努めるべきだ」として、従来の三方よしに持続可能な地球(世界)を守る行動をする「明日によし」を加えた「NEO三方よし」を提唱している。

関経連・松本会長の嘆き、世界から周回遅れで米国をまねする日本

 関西経済連合会の松本正義会長は、三方よしの精神を企業が取り入れるべき理由として「公益的な考え方をしないと社会に不安をもたらし、社会全体が活性化していかない」と語る。経営者の意識が公益主義なものの見方をすれば、株主への行き過ぎた資金流出に歯止めがかかるとする。

 このような公益資本主義的な考え方を企業が取り入れたとしても、「今の投資の流れはSDGsやESGなど長期目線」になっているため、企業の株価が下がることはないと松本会長は語る。

経団連の十倉会長「崖っぷちの資本主義を救え」

 21年に経団連の会長に就任した十倉雅和氏が掲げるのは「サステナブルな資本主義」だ。これは前任の中西宏明氏が新たな成長戦略を出したときのキーワードでもあった。広い意味での生態系の破壊や気候変動の問題は、市場原理主義では解決できない。日本には三方よしという考え方があり、「社会性の視座を持って取り組んでいく」とする。

伊藤忠商事・岡藤会長CEO「慢心すれば、一瞬で落ちる」

 伊藤忠商事は20年にグループの企業理念を「三方よし」に改訂した。代表取締役会長CEO(最高経営責任者)の岡藤正広氏は「会社は株主のもの」という考え方は変わってきているとするが、それを「ステークホルダー資本主義」と言っても、言葉として分かりづらいとする。「結局、言いたいことは『三方よし』だ」と言う。

コロナで悩める経営者 苦しい時こそ「三方よし」

 日本では「三方よし」の考えが浸透している企業も多い。ESGやSDGsの広がりも踏まえ、日本式の企業経営を再評価する動きも出てきた。それに立ちはだかったのが新型コロナウイルス禍だ。経営環境が厳しくなり、社会貢献の継続か、打ち切りかという問題に企業は直面している。

 こうした状況下では、三方よし経営は理想にすぎないという見方もできる。だが、多くの危機を乗り越え、三方よしを実践してきた近江商人由来の老舗企業を取材すると、決してそうとは限らない姿も見えてきた。

最後に

 「三方よし」は、CSVやCSR、ESG、SDGsなど、現代企業のトレンドと親和性の高い経営哲学だ。しかし新型コロナの影響で世界経済が打撃を受ける中、社会貢献と従業員、取引先を同時に大事にすることは簡単ではない。三方よしを実現するにはどうすべきなのか、従来の資本主義とは異なる新たな経営手法を企業が見つけ出せるのか、注目したい。

 さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「テーマ別まとめ記事」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

11月30日まで日経ビジネス電子版の「無料開放ウィーク」を実施中

 日経ビジネス電子版は2022年11月24日(木)14時から11月30日(水)16時までの期間、「無料開放ウィーク」を実施します。通常は有料会員のみが見られる記事をすべて開放。どなたでもお読みいただけます。

 2022年10月に読まれた有料記事のランキングを以下のリンクに掲載しています。この機会に、日経ビジネスの有料記事をぜひご覧ください。

※雑誌と同じレイアウトで読める「誌面ビューアー」など、期間中でも有料会員限定の機能があります。

2022年10月の有料記事ランキング
https://business.nikkei.com/atcl/info/19/00132/