個人や世帯の収入のうち、自らの裁量で自由に使える「可処分所得」。生活水準の向上や日本経済の活性化にも大きな影響を及ぼすだが、日本では企業の給与水準は低迷しており、可処分所得もほとんど増えていない。ここでは可処分所得に関する過去記事から、注目すべきものをピックアップする。

「可処分所得」とその現状

 可処分所得とは、「税込み収入」から「非消費支出(税金や社会保険料など)」を引いた金額のことだ。可処分所得が多いほど衣食住や余暇に使えるお金が増えることになり、それだけ豊かな生活を送れる。また可処分所得の増加は、消費支出を高めることになり、国の経済を活性化するうえでも重要だ。

 可処分所得を増やすには、収入そのものを増やすことが欠かせない。しかし日本では企業の給与水準が低迷しており、可処分所得の増加とはほど遠い状態にある。それどころか、若者世代を中心に貧困世帯も増えている。政府も経済界に給与引き上げを要請しているものの、これまでのところかんばしい結果は得られていない。

「風呂に入らない若者」が増え、個人消費減少?

 若者世代の個人消費が落ち込んでいる。2016年の調査によると、20代の若者の4割以上は湯船に「ほとんど入らない」そうだが、その理由の1つと考えられているのが「コスパが悪い」……つまり費用として「もったいない」という感覚だ。

 個人消費は国の経済活動を構成する大きな要素だけに、政府も注目している。麻生太郎財務大臣は個人消費を増やす方法として、以下の2点を指摘した。

  1. まずデフレを止める
  2. 次に勤労所得層の可処分所得を増やす

 とはいえ、このとき麻生財務相は、「消費者の心理がどのように影響していくか」が一番見えないとした。可処分所得が増えても、消費性向(可処分所得のうち消費に回される金額の割合)が低下すれば、消費は減少してしまう。個人消費が景気をけん引する絵図を描くのは、構造的な面から今後も極めて困難だと言わざるを得ない。

子供の貧困、損失は43兆円 企業は踏み込んだ支援を

 日本では「子供」の貧困も少なくない。ここでいう貧困とは、貧困線(全世帯の可処分所得の中央値の半分)を下回る可処分所得しか得られないことを指す。12年時点で3人家族の場合、日本の貧困線は約210万円で、子供の貧困率は16.3%だった。およそ300万人超の子供たちが貧困世帯で暮らしていることになる。そして20年に発表された最新データでは、18年の貧困線は127万円、子どもの貧困率は13.5%となっている。

 貧困は子供の教育機会を奪っている。貧困世帯の子供は相対的に進学率が低く、中卒や高校中退で働く者も少なくない。日本の未来のためにも、政府や企業による支援が求められる。

総理が「3%の賃上げ」を要請、「給与増」は実現した?

 18年の春闘を前に、「3%の賃上げを実現するよう期待する」と述べた安倍晋三首相(当時)。17年の引き上げ率は2.34%だったが、政府として、それを上回る賃金アップを求めた格好だ。

 こうした要請を受け、大和証券グループ本社はすべての社員を対象で月収ベースで3%を上回る賃上げを実施するといい、特に20代から30代前半の世帯については最大5%程度の賃上げを行う方向だという。またサントリーホールディングスも年収ベースで平均で3%の賃上げを目指すとした。だが、最新のデータとなる20年の引き上げ率は8年ぶりに2%を切っている。

賃金低迷のカラクリ

 日本企業の賃金が低迷する背景には、企業が「株主還元」と「ため込み利益(内部留保)」を重視していること、賃上げよりも雇用の増加に重きを置いていることが挙げられる。さらに「働き方改革」の推進により労働時間が短くなっていることも関係している。

 特に働き方改革をめぐっては、生産性が向上して労働時間が減ったぶん給料が減ると指摘されている。専門機関の試算によれば、日本で削減された残業代は合計5兆円に上る。この「利益」は社員に還元されないまま、消費市場から消滅しているという。

 働き方改革による労働生産性の改善は企業にとって継続的なメリットを生むものだ。残業代減少で企業だけが果実を得るのではなく、働き手に還元する仕組みをつくることが企業には求められる。

手取りは20年で11%ダウン

 会社員の可処分所得は、この20年間で11%も低下している。総務省統計局の家計調査によれば、「2人以上の勤労者世帯」では年収900万~1300万円程度の最上位グループでさえ、ピーク時の76万円(1998年)から67万円(2017年)と大幅に減少した。

 理由として挙げられるのは、まず「そもそも給与が上がっていない」という問題、そして「急速な高齢化」による社会保険料の増加だ。加えて、消費税が3%から8%に上昇したことも無関係ではない。

 さらに、高齢化が進むにつれて相続の年齢も上がっていることも影響している。親からすると、自分が何歳まで生きるか分からないので生きている間は子供にお金を渡せない。結果、資産が高齢者に滞留する『老老移転』が起こっているのだ。

最後に

 可処分所得は生活の豊かさや経済の強さに影響する。しかし日本では可処分所得が減少傾向にあり、若者世代や子供の貧困を招いている。可処分所得を増やすには給料水準の向上が必要だ。政府も企業に給与増を呼びかけるが、期待に十分応えられる企業は多くない。また、個人事業者よりも、収入がガラス張りになっている給与所得者など、課税しやすい層の負担が高まっている。これからの官民の取り組みがどう進むのか、効果的な施策が求められている。

 さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「テーマ別まとめ記事」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。