科学・技術・工学・数学を横断的に学ぶことで、考える力や問題解決能力を養うSTEM教育。米国発祥の教育システムはすでにアジアの新興国にも広まっているが、日本での本格的な取り組みはこれからだ。今回は過去記事を通して、STEM教育の必要性を考え、実際の事例を紹介していく。

AI社会に対応する人材を育てる「STEM教育」

 STEM教育とは、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)に力を注ぐことで国際競争力のある人材を育てる教育システムのことを指す。

 STEM教育では「教師が教えたことを生徒が覚える」という従来の教育スタイルではなく、生徒自らがパソコンやインターネットを利用して情報を収集し、問題を解決していくという実践的な教育が行われることが多い。こうすることでIT社会(特に人工知能=AIが活用される社会)に必要とされる自発性や創造性、判断力、問題解決能力を養うのが狙いだ。

 STEM教育は世界各国で重要なテーマとなっており、オバマ政権時代の米国に始まり、成長著しい中国、シンガポールやマレーシアといったアジアの新興国でも熱心に推進されてきた。日本でもSTEM教育への注目は集まっているが、他の先進国や新興国に大きく後れを取っているのが現状だ。

 この記事はSTEM教育に注目すべき理由や世界と日本の事例について、過去記事からピックアップして紹介する。

子供に残すべきはカネより「STEAM教育」だ

 2045年ごろと予想されるAIのシンギュラリティー(AIが人類を超す技術的特異点)に向けて、東京大学・慶応義塾大学教授の鈴木寛氏は「その頃の大人はSTEMを理解している必要がある」と語る。「分かっている人だけがAIを使う側に回り、分かっていない人はAIに使われる側に回る」ためだ。

 そんな時代に求められる知性を身につけ、創造性を生かして「使う側」として活躍するために必要なのが、STEAMだ。

AI時代を生き抜きたいなら「STEAM」を学べ

 一方で鈴木教授は「STEMだけでは不十分」とも語る。AIを利用した仕事をするには善と美への理解が必要、というのがその理由だ。今後はSTEMに加え、哲学や倫理、社会学、そして社会性をつかさどる脳の研究により「善や美を科学で解明しようという試みが進む」という。

 「STEM+アートとデザイン」が欠かせないという考えが注目されている。そうした包括的な概念として「STEAM」という言葉を使う人もいるが、まだ少数派だという。

日本の先を行くマレーシア・ペナン島のプログラミング教育

 「新しいことを学んで人生を変えたい」という子供たちの意欲に応えて、制度の拡充を進めているのが東南アジアの国々だ。日本とは、社会の状況が大きく違い、教師の雇用形態や教育方針の決定プロセスも異なるため、そのまますべてをまねすることは難しいだろう。それでも、学べることは少なくない。

 プログラミング教育で日本に先行するマレーシア。人口174万人のペナン州では小中学校の教師にメイカー教育(STEM教育)の方法を指南する常設のトレーニングセンターが設置され、メイカー教育用の教科書とマイコンボードなどの教材が提供されるなど、充実したプログラミング教育の環境が用意されているという。

プログラミング教育は官僚主義を超えるか タイNSTDAの挑戦

 同じくSTEM教育に力を入れるタイ。科学技術省の傘下にある国立科学技術開発庁(NSTDA)ではプログラミング用のマイコンボードを中学・高校に20万台配布するとともに、課題解決のコンテストを数多く開催。学校に3Dプリンターなどのデジタル工作機械を備えたメイカースペースのような場所もつくっているという。

IT人材大国・中国のSTEM教育と「塾禁止令」の衝撃

 小学校から大学まで、積極的にSTEM人材を育成している中国。1984年に鄧小平氏が「コンピューターの普及は子供から着手せよ」と語ったことをきっかけとしてプログラミング教育に力を入れており、放課後に数学塾やプログラミング塾に通う小中学生も多い。各種数学オリンピックやITコンテストでの受賞歴が名門大学の入試選考でプラスに考慮されることも、中国でIT人材が育つ理由のひとつだ。

豊田市で実感、イノベーションの訓練としてのハッカソンの重要性

 先進国やアジア各国に後れを取る日本だが、民間や自治体レベルでは先進的な取り組みも行われている。

 例えば、愛知県豊田市で開催された「HACK the TOYOTA@SENTAN」(2020年2月7~9日)はその一例だ。ハッカソンは、1日から数日といった短期間で何かをつくり上げるお祭りだ。イベントに集まったメンバーで即席のチームをつくり、何かしらのテーマに沿って短期間でつくるものを決めて、締め切りまでにつくりきる。

創造性を育む注目のSTEM教育“稼げる教育”に堕する危うさ

 一方でSTEM教育は「即戦力・稼げる仕事ができる人材」を育てる教育システムではない。あくまで自発性や創造性、問題解決力といった能力を高めることがSTEM教育の目的だが、一部の教育現場ではこの点を「履き違え」ているケースもあるという。

最後に

 AI時代の必須スキルを養う手段として注目されるSTEM教育。IT先進国の米国はもちろん、IT人材を豊富に輩出する中国、そしてマレーシアやタイ、その他の先進国でも熱心なSTEM教育が行われている。

 近年プログラミングが必修化された日本も同様だが、国際的にはまだまだ取り組みが遅れている。日本が国際競争力を維持し続けるためにも、国、自治体、企業の今後の取り組みに期待したい。

 さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「テーマ別まとめ記事」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。