就職氷河期は、バブル崩壊によって、企業が軒並み新卒採用を抑制した1990年代半ばから2000年代前半を指す。本稿では過去のニュースを参照しながら、その影響を受けた就職氷河期世代や、政府の支援策について見ていく。

就職氷河期とは?

 就職氷河期とは一般的に、1990年代半ばから2000年代前半を指す。バブル崩壊によって企業は軒並み新卒採用を抑制。1990年代後半には一旦、採用数が持ち直したものの、97年のアジア通貨危機などによって再び景気が冷え込み、企業が採用を絞ったという経緯がある。当時は新卒一括採用全盛期。その影響を受け、新卒で正社員になることができないと、その後は契約社員として40、50代を迎えるという人も少なくない。

就職氷河期世代の支援に600億円超、「ピントずれている」と専門家

 そんな就職氷河期世代を支援するために、政府は600億円を投じると、2019年6月にまとめた経済財政運営の指針である「骨太方針」で打ち出した。政府が掲げた目標は、正規雇用者を3年で30万人増加させることだという。しかしこの方針に、批判の声が相次いでいる。2019年12月8日に閣議決定した「新しい経済政策パッケージ」では、就職氷河期世代を対象として、ハローワークに専門窓口を設置することや、氷河期世代に特化した特定求職者雇用開発助成金の創設、3年間の国家公務員中途採用促進などを盛り込んだ。

 一方で、特定の世代を対象とすることに対する疑問の声もある。長年、雇用問題やキャリア論を調査・研究してきたリクルートワークス研究所の大久保幸夫所長は「2つの違和感がある」と話す。まず、同氏が挙げる違和感の1つ目は「特定の世代を対象にすることに対する違和感」だし、この問題を、特定の世代に関する問題と捉えることが間違っていると続ける。

 そして、大久保氏が挙げる2つ目の違和感は、新卒採用に必要以上の焦点が当てられている点だという。実際、「就職氷河期」が新語・流行語大賞で審査員特選造語賞を受賞したのは1994年。ただ、新卒に限らないで見てみると、この年の求人倍率は1.2倍。1倍を割ったのは2000年3月卒の1回だけなのだという。

 「問題の本質は、新卒採用という入り口ではなく、むしろ会社に入った後にある」と大久保氏は強調する。会社に入った後、給料は上がらないし大きな成果を求められる。職能を鍛える時間も機会もない。転職も厳しい。キャリア形成のプロセスに乗れなかった人たちが、40代、50代になっていく。氷河期世代が直面しているのは「キャリア形成の問題」だと捉えた方がいいというのが、同氏の主張だ。

氷河期世代は能力が低い?人生“再設計”の大いなる矛盾

 そんな中、2019年3月28日には、日本経済新聞の朝刊に掲載された「『氷河期世代』に能力開発を」という記事が、SNS上で炎上したのを覚えているだろうか(webでは27日公開)。内容は27日の内閣府の経済財政諮問会議で、氷河期世代は正社員でないため「能力開発や所得の壁」があることから、安倍晋三首相が「氷河期世代」の支援に、国を挙げて取り組むことを指示したことを報じたものだった。本年度の骨太方針に位置付け「能力開発」を国がサポートしていくという。これに対して40代に突入した氷河期世代から、「今さら? 遅すぎ!」「もうとっくにブラック企業で使い捨てにされて壊れてるつーの!」という声が聞かれた。

 報道によると、政府は4月10日に開かれた経済財政諮問会議で、今後3年間氷河期世代への教育支援を集中的に行うことで、就職氷河期の初期世代が50代になる前に雇用の安定化を狙うという。具体的な支援策は、夏までに固めるとされていたが、その支援計画のたたき台になるであろう「就職氷河期世代の人生再設計に向けて」と題された資料の内容に、多くの疑問が残る。

 そこに書かれているのは、「氷河期世代支援策」という名の企業支援策。企業の勝手な都合で厳しい状況に置かれたのに、企業ががんばるのではなく、厳しい状況に追い込まれた人たちに「がんばれ!」と、個人の問題にすり替えが行われているのである。

正社員化でも報われない氷河期世代の無間地獄

 また、「正社員になっても、報われない」そんな就職氷河期世代の人もいる。2016年に厚生労働省は、就職氷河期世代の人たちを正社員として雇った企業に対する助成制度を2017年度からスタートさせると発表している。助成制度は「過去10年間で5回以上の失業や転職を経験した35歳以上」で、現在無職の人や非正規社員を正社員として採用した企業に対し、中小企業には1人当たり年間60万円、大企業では同50万円支給するというもの。また、求職者が高い意識で就職活動に臨めるように、ハローワークなどにおける就職促進セミナーにも力を入れるとされていた。

 氷河期世代の救済策も、当事者たちにヒアリングすると批判の方が多かった。例えば、「数年後には“お荷物確定”である40代の正社員化を進める企業なんてない」、さらには「企業に助成金出して、それって賃金にちゃんと反映されるのか?」などだ。一方で、「やっと氷河期にスポットがあたった」と、評価する識者たちとは対照的だ。労働の二極化が進んでいる。そう。あらゆる面で確実に二極化が進んでいるのだ。

元・大卒引きこもりの叫び「学歴と幸せは無関係」

 実際、本稿で取材に応じてくれたCさんは、就職氷河期世代でも正社員になれたが、不遇な時代を過ごしている。Cさんは、地元の高校を卒業し、国立の一橋大学に入学した。在学中、サークル活動に精を出した。恋人もでき、順風だった。卒業後の進路に関しても、いわゆる就職氷河期だったとはいえ、就活に苦闘しながらも出版社から内定を得た。小さい頃から本を読むのが好きだったCさんにとって、希望していた進路だった。暗転したのは、社会人生活が始まってからだ。

 出版社では、小学生向けの書籍の編集部に配属され、仕事は楽しかったが、とにかく忙しかった。土日や深夜を問わず働き、同僚の中には心の病になった人もいた。Cさんは当時の職場の様子を「氷河期だったので、きっと転職などしないだろうと(会社に)足元を見られていたのかもしれない。若者は使い捨ての駒のようだった」と振り返る。

 過酷な職場環境にあって、入社5年目の冬、ついにパニック発作を起こした。数カ月会社を休んだ後、復職したが、再び発作を起こした。そして入社8年目、会社を辞めた。大学時代から付き合っていた恋人とも別れた。

 もちろんその時点で希望を捨てたわけではない。別の出版社で派遣社員として働くなどし、なんとか社会とのつながりを保った。別の男性と結婚もした。将来のためにと司法書士の学校にも通い始めた。だが、人生は思い通りに転がってくれない。働きながら学校に通う日々が1年ほど続くと、再びパニック発作を起こした。「忙しくなると再発する。この病を抱える限り働くのはもう無理だ」。仕事を辞め、夫とも離婚。そして実家での「引きこもり生活」が始まったのだという。

増える月曜朝の中高年の縊死と就職氷河期の果て

 2018年には「月曜日の朝、中高年の自殺が増える」という研究結果が話題になった。調査では1974年から2014年までの41年間に日本国内で自殺した20歳以上の日本人のうち、死亡時刻が記録されている87万3268人を用い、死亡時刻と曜日を、性別、年齢別に分析した。その結果、40~65歳までの中高年男性の場合、月曜日に自殺で死亡する頻度は、土曜日の1.55倍。出勤前の時間帯に自殺する頻度は、午後8時以降に比べ1.57倍で、最も少ない土曜夜(午後8~午前0時)の2.5倍だったことがわかったのである(早稲田大学の上田路子准教授や大阪大学大学院の松林哲也准教授らのグループによる)。

 これを見ると、電車での自殺を思い浮かべると思う。しかし、実は今回の調査結果でわかったのは「月曜の朝の中高年の自殺=電車の事故」ではなかったということ。中高年男性の自殺者が最も多かった「朝4時から7時59分まで」の時間帯の自殺は、「縊死(いし)」。家族が寝静まったあと、「強い意志」で命を絶っていたケースが一番多いことが明かされたのだ。

 彼らの中には、90年代後半から00年代前半に就職活動を行った「就職氷河期世代」で、非正規雇用を余儀なくされた人たちも含まれているだろう。同じ非正規でも20代、30代の正社員化が進んでいるけど、40歳以上は別だ。むしろ、派遣法の改正で今までより厳しい状況に追いやられた人も少なくない。

サイバーエージェントが経営人材を輩出するワケ

 もちろん、就職氷河期世代全員が不遇なときを過ごしたわけではない。実際、サイバーエージェントの曽山哲人取締役は1974年生まれで、就職氷河期世代ど真ん中だ。同氏は、バブル崩壊後の不良債権問題と金融危機があって、会社はつぶれるものだという理解が一般的になったと、当時の世間の空気をこう振り返る。また、国全体で見ても、成長率の低下と高齢化でポジティブなストーリーが描けなくなった時代だったと語る。そんな中、曽山氏自身も、様々な危機感があったという。しかし同氏は、今の若者はそれ以上に危機感を持っているだろうと語る。

最後に

 ここまで、就職氷河期について、過去のニュースを参照しながら紹介してきた。この時期に就職活動をした就職氷河期世代の中には、バブル崩壊によって企業が軒並み新卒採用を抑制したことによって就職難に喘ぎ、その後も厳しい生活を強いられた人も少なくない。政府も、そんな彼らを支援するために様々な方策を打ち出したが、不満の声も多く聞かれている。今後も、就職氷河期世代を巡る世間の動向を見ていく必要があるだろう。

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