英国国内、EU、そして世界中に衝撃を与えた「ブレグジット」。EUという単一市場からの離脱は、特に英国に拠点を置く製造業や物流業界に波紋を広げている。今回の記事では、過去に掲載したブレグジット関連の記事を振り返っていく。

そもそも「ブレグジット」とは?

 「ブレグジット」とは、英国を意味する「ブリティッシュ(British)」と退出を意味する「エグジット(Exit)」を組み合わせた造語だ。「英国のEU(欧州連合)からの離脱」を指す言葉として、特に2016年以降さまざまなメディアで盛んに使われている。

 ブレグジットの背景にあるのは、EUのシステムや近年の世界情勢に対し不満や不安を抱く英国の国民感情だ。ヨーロッパ27カ国(2020年1月までは英国を含む28カ国)で構成されるEUは加盟国全体が「単一市場」で、米国に匹敵する経済規模を持つ。また域内ではヒト・モノ・カネが自由に行き来できるため、企業や労働者の経済活動にもメリットが大きい。

 一方で、加盟国が独自のルールを決められないことや各国のGDPによって決まる負担金などは、英国のように高い経済力を持つ国の「不満」の種となっている。加えて「移民」の自由な移動により、経済面でも治安の面でも「不安」を感じている地域住民も多いという。こうした事情を考えると、英国国内でしばしば「EUからの離脱」が議論の的になってきたのも無理はない。

 英国で「EU離脱の是非」を問う国民投票が行われたのは2016年6月23日のこと。結果は離脱支持が約52%、残留支持が約48%という僅差だった。国民投票後に首相に就任した保守党党首のメイ首相は2019年3月29日を離脱日としてEUと協議を開始したものの、作成した協定案が3度にわたり下院で否決されたこともあり、協議は難航。離脱日も3月29日から4月12日、10月末とたびたび延期されたが、最終的には2020年1月末をもって離脱が成立した。

 ブレグジットの影響は英国国内やEUはもちろん、日本など他の国にも及ぶ。特に英国をEU向けの生産拠点としていた製造業の中には、工場をEUの他の国に移す動きも多い。世界の金融センターとしての、ロンドンの影響力低下を心配する声もある。ここでは、ブレグジットを巡る政治と経済の動きを取り上げた過去記事の一部を紹介する。

拡散するブレグジット・リスク

 国民投票から約7カ月がたち、ようやくEUからの完全離脱、「ハード・ブレグジット」の方針を発表したメイ首相(当時)。その内容は、移民流入規制と司法権限独立を柱にEUの単一市場や関税同盟から離脱するというものだ。

 方針が明らかになったことで、EU全域で自由なビジネスをしてきた企業、特に金融業界などでは「戦略の見直し」が迫られている。事業を継続するには英国とEUの交渉が必要だが、メイ首相は金融に特段の興味を持っていないとされ、交渉の先行きは見通せない。英国に拠点を置く金融会社の中には、すでに「脱英国」の準備を進めている企業も少なくないという。

 経済界の混乱を避けたいメイ首相としては、EUに対して2019年3月の離脱日以降も「段階的な移行措置」を求める方針だ。しかしEUがそれに応じる保証はない。それどころかメイ首相が発表した方針に猛反発するEU加盟国もあり、交渉の行く末は楽観できない。

英議員の保身が招いた展望なきブレグジット再延期

 ブレグジットの期限が10月31日に延期された(当時)。当初の離脱日は3月29日だった。それが4月12日に延期され、今回が2度目の延期となる。度重なる延期の原因は英国の議会だ。メイ首相が提示した離脱協定案を3度も否決する一方で、何の方向性も示さないまま紛糾が続いている。

 このような「機能不全」の原因とされるのが、国益より保身を優先する議員たちの態度だ。もともとEU残留派だった議員たちも強硬に離脱を主張する地元選挙区の声に影響され、メイ首相の提示する「穏健な離脱案」を否決。野党議員の多くも明確な方針を持たず、ただ「メイ首相の案」に反対するばかりだ。

英テスコ、ブレグジット対応で冷凍食品を増やす

 英国のスーパーマーケット最大手「テスコ」は、貯蔵できる冷凍食品の量を増やすためにコンテナのレンタルを開始。ハード・ブレグジットによって、EU域内からの流通が停滞することを見越した動きだ。

ドイツ企業の8社に1社はブレグジットで投資の移転計画

 ドイツ商工会議所の調査によると、英国に拠点を置くドイツ企業のうち8社に1社は、ブレグジットに備え「他の市場に投資を移転する計画がある」という。

PSA、ブレグジットで英国から生産移転も

 プジョーやシトロエンなどのブランドを手掛けるフランスの自動車グループ「PSA」も、今後の状況によっては英国の工場の閉鎖と、生産拠点のEUへの移転を検討している。

英国日産も? 不振事業見直しの口実に使われるブレグジット

 日産が、欧州向け次期スポーツ多目的車「エクストレイル」の生産を日本で行うと決定した。もともと英国最大の生産規模を誇るサンダーランド工場で生産されるはずだったが、ブレグジットによって生産計画が変わったという。

 しかし、日産の決定はブレグジットだけが原因とも言い切れない。2018年にEU域内で登録された新車のうち、最も減少台数と下落率が大きいのが日産車だ。こうした販売不振も生産計画の一因と考えられる。

 英国のジャガー・ランドローバーや、米国のフォード・モーターも同様だ。両者ともブレグジットを理由にリストラを発表したが、そもそもブレグジットとは関係なくEUでの業績低迷が目立っているという。

 一方でブレグジットを控えてもなお販売台数を伸ばしているトヨタ自動車の例もあり、ブレグジットによって「企業の競争力の差」が浮き彫りになっている。

ブレグジットでも金融センター・ロンドンは死なず

 ブレグジットによって多くの企業が「ロンドン離れ」をしている。これによってロンドンの「金融センター」としての地位低下を懸念する声もあるが、前ロンドン証券取引所CEOのザビエル・ロレット氏によると「優位性は変わらない」という。

 その根拠として挙げられたのが、ロンドンに蓄積された知見や情報だ。ロンドンのクリアリングハウス(金利スワップ決済機関)はデリバティブ取引のリスク仲裁ノウハウが豊富で、これがEU域内の資本市場に対するアドバンテージになっている。

 とはいえニューヨークのように、ロンドンに匹敵する金融センターの存在は無視できない。長期的な視点では油断は禁物だという。

最後に

 英国・EUを中心に、世界中で大きな話題となったブレグジット。メイ首相の辞任・ジョンソン首相の誕生のように政治への影響も大きかったが、それ以上に経済への影響、とりわけ英国に拠点を置く外国企業の動向が注目を集めた。
すでに英国のEU離脱は完了したが、企業などへの影響はこれからが本番だ。日系企業や日本経済にとっても無関係ではないだけに、今後の動きにも要注目だ。

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