語学力をはじめさまざまなスキルを備えた「グローバル人材」。各企業はもちろん大学などでも育成の動きが活発だが、さまざまな課題や障害のために育成は進んでいない。この記事では、グローバル人材を巡る過去のトピックを振り返る。

「グローバル人材」に求められる要素と課題

 企業組織の多国籍化が進む中、複数の国をまたいだビジネス分野で活躍する「グローバル人材」の重要性が増している。文部科学省がまとめた資料によると、グローバル人材には以下のような要素が求められている。

  • 語学力・コミュニケーション能力
  • 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
  • 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
  • 幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力
  • チームワークとリーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー

 このようにグローバル人材には、語学力以外にもさまざまなスキルが必要だ。このため国内の大学でもグローバル人材の育成を目指し、英語による授業やワークショップ、海外の大学との合同プログラムなどを実施するところが少なくない。加えて企業でも、自社の社員をグローバル人材として育成するため研修を行う動きが活発だ。

 とはいえグローバル人材の育成はなかなか進んでいない。さまざまなスキルを習得するには時間がかかる上、近年では海外で働くことに抵抗を感じる若い社員も増えているためだ。研修の内容が語学力に偏り過ぎてしまい、他の要素の育成が進まないという問題もある。

 企業のグローバル化が急速に進む中、海外の事業展開を円滑に進めるにはグローバル人材の確保が不可欠だ。今回は過去記事から、グローバル人材育成のヒントを探っていく。

グローバル人材の宝庫、フィリピン

 海外の鉱山にダンプカーなどの鉱山機械を納入しているコマツ。顧客に選ばれるためにはサポートの充実が欠かせないが、同社によると「年々、日本人要員が確保しづらくなっている」という。理由は「若者の内向き志向により海外で働くことへの抵抗感が強まっている」ことと、「英語力が身に付かない、鉱山勤務の適性がないなどの理由で人材が育たない」ことだ。

 人材不足を補うため、同社はフィリピンに「人材開発センター」を開設、座学や実習を通してサービスエンジニアを育成している。3年前に受け入れた一期生は、すでに世界中の鉱山に派遣されている(当時)。

 コマツがフィリピンに目をつけた理由は、国民の大半が「英語を自由に操れる」ことと「海外志向」の人材が多いこと、そして年間約30万人の工学系人材を輩出する「勉強熱心」な国民性にある。いずれ発生する中国系企業との競争を考えると、フィリピンの国民感情が「親日的」であることも決め手となったという。

 フィリピンで人材育成に取り組むのはコマツだけではない。米IBMのようなIT企業、さらには製造業や事務系でも優秀な人材が育ち、世界中で活躍している。

グローバル人材育成はなお途上

 近年、企業による若手社員の海外派遣が活発になっている。背景にはグローバル化が企業にとって避けて通れない課題になっていること、そして現地法人を経営できる人材が圧倒的に不足しているという事情がある。

 派遣されるのは主に入社1〜2年目の若手社員で、若者ならではの柔軟性や吸収力に期待がかかっている。しかし派遣する企業には「OJT(職場内訓練)」という意識が強く、専門機関と連携した「体系的に学ぶ環境」が十分に用意されていないのが課題だ。

グローバル人材欠乏症

 国内外の一流企業が、グローバル人材の育成に力を入れている。例えばソニーが2000年に設立した社内大学「ソニーユニバーシティー」がそれだ。毎年世界から25人を選抜し、4~5カ月の厳しい研修を行う。

 研修の狙いは「組織や地域の壁を越えて人材のネットワークを構築すること」と「優秀な人材に次のキャリアを与えること」だ。具体的には、「プレゼンのやり方、スキル、ネットワーク(人脈)を身に付け、実際のビジネスで活用してもらう」という。

 ソニーと同様の人材育成プログラムは、三井物産、日立製作所、武田薬品工業、日産自動車、資生堂、旭硝子(現AGC)などにもある。しかし11年9月の調査では、回答を寄せた354社のうち、「40歳以下を対象にしたグローバル人材育成プログラム」を持つ企業は12.7%、「グローバルリーダー育成プログラム」に至っては10.7%というのが現状だ。グローバル化を進めている、もしくはこれから進めると回答した企業が全体の約60%を占めることを考えると、人材育成の遅れは深刻だといえる。

グローバル人材への「誤解」

 「グローバル人材は選抜して育成するものではない」と語るのは、米ハーバード大学研究員の渥美育子氏。そもそもグローバル人材の育成とはエリートを養成することでも、英語を学ばせることでもないという。

 日本企業の多くがこうした「誤解」をしている原因の1つは、「国際化」と「グローバル」の混同だ。国際化は「日本を基準に世界を見る」ことだが、グローバルは住んでいる国や地域に関係なく「地球単位で物事を考える」こと。世界規模の広い観点から「日本がどう見られているのか、日本はどうすべきか」という感覚を身に付けることが、グローバル人材になるためのポイントだ。

 渥美氏によると、現在の日本にはグローバル人材を育成できる教育者がほとんどいない。企業経営者には、人材育成にもっと興味を持つことが求められている。

グローバル人材より「商人」作れ

 約150年の歴史を持つグローバル企業、ネスレ。これまで世界中の約34万人の社員から400~500人をグローバル人材として育成し、各国の事業会社の社長に任命してきた。しかしネスレ日本の高岡浩三社長(当時)によると、日本法人ではこれまでの方針が変更され「稼げる人」がトップに置かれたという。

 日本を代表するグローバル企業、伊藤忠商事では事情が異なる。岡藤正広社長(当時)は「稼げる人が上に立たなければダメだと分かっている」ものの、伊藤忠では人材が育つ前に潰れてしまうことが多く、結果として「守りの固い人が上になりつつある」と話す。「稼げる」ことと「人事評価」が必ずしも一致しないことが理由の1つだ。

 グローバル化が進む世界の中で、稼げる人材をどれだけ作れるかが「日本全体にとって本当の勝負どころ」といえる。

今からでもグローバル人材になれる

 専門家によると、日本でグローバル人材が育たない理由の1つは「教育のやり方」にあるという。日本では「明確な答えがある問題」について「そこへたどり着くための道筋」を学ばせることが多いが、社会、特に国外では常に明確な答えが用意されているとは限らない。

 一方で日本企業と外国企業の提携が増えるにつれ、グローバル人材になるよう迫られる社員が増えている。外国人の社員と一緒の仕事に、日本的な以心伝心は通用しない。グローバルな人材になるためには「自分の考えをはっきり言えるように訓練」し、否定的な内容であっても自分の意思をはっきり示すことが必要だ。

最後に

 ビジネスの世界で急速に進むグローバル化。日本企業が世界を相手に戦っていくには「グローバル人材」が必要だが、人材の育成がグローバル化のスピードに追いついていないのが現状だ。

 グローバル人材となるためにはさまざまなスキルが求められ、最近では社内に人材育成機関を持つ企業や、育成プログラムを提供する教育機関も増えてきた。今後のグローバル人材育成に期待がかかっている。

 さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら

この記事はシリーズ「テーマ別まとめ記事」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。