カジノを含む統合型リゾート(IR)の先行きが不透明になっている。新型コロナウイルスの感染拡大や汚職事件の影響で、国が2020年1月に策定するはずだった基本方針も示されないままだ。地域活性化などのプラス効果が期待される一方で、カジノによる悪影響を心配する意見も根強い。ここでは過去に掲載された記事の中から、関連するトピックを振り返っていく。
誘致をめぐってさまざまに分かれる意見

2016年12月に成立した「IR推進法」。カジノ施設をはじめ、会議場、レクリエーション施設、展示場、宿泊施設などを一体的に整備する統合型リゾート(Integrated Resort)設立を推進する基本法だ。施設を誘致できる場所(認定区域)は現時点で国内3か所。認定区域の数は、最初の認定から7年後に再検討されるという。
関係者や国民の間からはインバウンド需要の拡大や地域の活性化、税収の改善に期待する歓迎の声も聞かれるが、治安の悪化やギャンブル依存症の増加といったマイナスの影響を懸念する声も少なくない。
日本版IRの行方は、誘致候補地となる自治体の関係者や地元住民、そして海外の「カジノ運営会社」から大きな注目を集めている。この記事では、2013年ごろから現在までの関連する過去記事をピックアップしていく。
次の矢は「カジノミクス」!?
カジノ誘致による効果として期待されているのは、地方経済振興をはじめ、雇用創出、財源確保、国際競争力確保といったメリットだ。経済への波及効果は最大で7兆6619億円に達するとの試算もあり、政府関係者からの期待は大きい。
とはいえ「犯罪の温床になるのでは」「国民がギャンブル漬けになるのでは」という懸念の声もある。また現行法ではカジノは違法とされるため(2013年7月当時)、刑法の改正や関連する法律の整備、さらに各省庁との調整も欠かせないという。
カジノ法案という“増税策”
2016年12月、「IR推進法」が衆議院本会議で可決した。与党や維新の会などの圧倒的多数に支持されるが、カジノのマイナス面を指摘する声は大きい。例えばカジノの収益が「客の負け分」であることから、「賭博による経済効果は必ず相殺される」という指摘もその1つだ。収益の大半がカジノ業者や土地の仲介業者などに流れるため「国民経済が潤うのかどうかは分からない」という声もある。
中でも多いのが「ギャンブル依存症」への懸念だ。日本にはすでに「偽装賭博」のパチンコが存在するが、華やかな「カジノ」の登場によって、より多くの人がギャンブル依存の危険にさらされるという。
誰もがパチンコ・ギャンブル依存症の予備軍に
日本版IRが具体化するにつれ、ギャンブル依存症についての議論が活発化している。「カジノの合法化の議論を大きなきっかけとして、国全体でギャンブル依存症という問題に取り組む機運が高まればいい」と語るのは社団法人・ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子氏だ。
2016年12月に「IR推進法」が成立したことを受け、通常国会では「ギャンブル依存症対策に関する法案」が提出される見込みだ(2017年1月当時)。だがその内容が骨抜きにならないよう、そして「単なる努力義務」にならないよう注意が必要だ。
法律でしっかりとしたギャンブル依存症対策を行うには、それなりの予算が必要だという。現在(2017年1月当時)の予算は厚生労働省を中心に1億円程度だが、今後は「最低でも50億円は必要」と田中氏は語る。専門知識を持った人材の育成も必要不可欠だ。
米カジノ大手「本業以外も日本進出」で賭ける
「IR推進法」成立から約1年半が経過し、いよいよ「IR整備法」の成立が間近に迫っている(2018年6月当時)。この動きを興味深く見守っている民間企業の1つが「MGMリゾーツ・インターナショナル」だ。すでにラスベガスでカジノを手掛けている同社は、日本市場への参入を前提に事業戦略の検討を始めている。
同社CEOのジェームス・ムーレン氏は、日本のカジノ法案は「運営会社にとってパーフェクトではない」ものの、「透明性が高く、安心して足を運べるIRを作ることができる」と自信を見せる。具体的には、カジノ施設に加えて「レストラン部分では47都道府県の料理を提供」するほか、「日本人建築家と協力し、全施設にショウエネ(省エネ)やセツデン(節電)のコンセプトを組み込み、観光客に紹介」するという。
カジノのメインターゲットは海外からの観光客だが、同社ではカジノを含む統合型施設を「日本人にとってもエキサイティングな施設」にすることで、日本人も顧客として取り込む考えだ。
大阪、止まらぬ「インバウンド依存」
いよいよ各自治体による誘致合戦が始まろうとしている(2018年12月当時)。中でも誘致に前向きなのは大阪府・市だ。大阪府は2025年の万博開催が決まったが、その準備とカジノ誘致を並行することで「大阪再興の起爆剤」とする狙いがある。
海外のカジノ運営会社も大阪に注目している。マカオなどでカジノ運営を手掛ける「メルコリゾーツ&エンターテインメント」社(香港)のCEOは「富裕層が急拡大している中国からの交通アクセスが良い大阪は、ポテンシャルが極めて大きい」と語り、参入に意欲を見せる。
大阪の「インバウンド依存」が深まる一方で、地場産業の製造業は低調だ。調査会社によると「大阪府に本社を置く企業は17年まで36年連続の転出超過」だといい、回復の兆しは見えないという。
カジノ誘致で揺れる横浜、「過去の遺産だけで未来は開けない」
横浜市も、カジノを含む統合型リゾートの誘致を表明した自治体の1つだ。大型クルーズ船が寄港する横浜はインバウンドが多いイメージが強いが、「実は横浜港で下船した外国人の多くはそのままバスで東京や箱根に行ってしまったり、新幹線で京都などに向かったりしてしまう」(横浜岡田屋社長・岡田伸浩氏)という。
カジノは、そうした外国人観光客を取り込むための「観光に必要な装置の1つ」という位置付けだ。
関西財界、IR事業に名乗り上げたオリックスに不安と期待
2019年12月、全国に先駆けて事業者の公募を始めた大阪府・市。すでに「MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同チーム」「シンガポールのゲンティン・シンガポール」「香港のギャラクシー・エンターテインメント」の3陣営が応募に向けて動き始めている(2020年2月当時)。
中でも有力と見られているのが、MGMとオリックスの企業共同体だ。MGMはラスベガスで豊富な実績を持っている。一方のオリックスも、すでにフランスの企業と共同出資で「関西国際空港」を運営している。しかし関空では、2018年の台風21号で浸水被害やタンカーの衝突事故などが発生した際に、運営会社の対応が後手に回ったという経緯がある。このため関西財界の中には、オリックスの資質を疑問視する声も出ているという。
最後に
日本版IRをめぐっては、メリット・デメリットをめぐりさまざまな意見が飛び交っている。中でも無視できないのは「ギャンブル依存症」の危険を指摘する声だ。不安を払拭するには、法整備とともに十分な予算の確保や専門人材の教育が欠かせない。
一方で、地方の活性化や税収増額が見込めるというプラスの効果にも期待がかかる。自治体と事業者による誘致合戦の行方からも目が離せない。
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