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日本航空や日本マクドナルドなど、深刻な経営状態から「V字回復」を遂げた企業はいくつもある。ほとんどの場合、回復の決め手となったのは経営者の手腕だ。今回は過去記事を通して、実際のV字回復事例を紹介していく。

「V字回復」を遂げた有名企業

 歴史の有無や規模の大小、有名か無名かに関係なく、これまでに多くの企業が深刻な業績不振に苦しんできた。理由は景気の悪化や経営判断のミス、社員の不祥事などさまざまだ。その一方で、経営者の手腕によって「V字回復」を遂げた企業も少なくない。以下はそうした企業の一部だ。

  • 日本航空
  • パナソニック
  • タカラトミー
  • 日本電産
  • 日本マクドナルド

 もちろんV字回復への道筋は簡単ではない。回復にあたり発揮された経営者の手腕もさまざまだ。今回の記事では、上記の各社が遂げたV字回復の事例を紹介する。

V字回復は本物か

 経営破綻からたった2年で「V字回復」した日本航空(2012年当時)。その立役者となったのが、京セラの創業者で名誉会長の稲盛和夫氏だ。政府の要請を受けて日本航空の再建に取り組んだ稲盛氏は、「アメーバ経営」と呼ばれる経営手法で手腕を発揮した。

 アメーバ経営には「部門別採算制」と「フィロソフィ教育」という2つの柱がある。

 まず部門別採算制では各部門の損益を明らかにし、問題箇所を特定したり、経営課題や会社の実態が隅々まで見えるようにする。これにより社員の意識も高まるという。

 フィロソフィ教育は、企業の経営哲学を全ての社員に共有させる仕組みだ。JALでは全社員が年に4回集まって、40項目の「JALフィロソフィ」を学習する。部門を越えて社員が集まることで組織内の垣根や派閥がなくなり、違う部署の社員同士が協力し合えるようになったという。

パナ、V字回復は本物か

 2012年に「2期連続で最終赤字が7000億円を超える」など、業績が大きく低迷したパナソニック。だが2013年4~9月期連結決の最終利益は過去最高を更新しており「V字回復」の印象が強い。

 同社の業績回復は、2012年に就任した津賀一宏社長の「構造改革」の成果だ。増えすぎた事業の整理や不採算事業からの撤退など、津賀氏による構造改革はこれまでのところ順調に進んでいる。

 一方でパナソニックの「V字回復」は、円安や消費増税など外部環境の変化が追い風になったという指摘もある。「2015年には赤字事業はなくす」と語る津賀氏だが、構造改革の真価が問われるのは今後の業績次第だ。

「暗黙知」伝えV字回復

 老舗玩具メーカーのタカラトミーも「V字回復」を遂げた企業の一つだ。少子高齢化による国内市場の縮小は、同社を含む玩具メーカーにとって厳しい環境と言える。2013年3月期には国内はもちろん国外でも販売が苦戦し、営業利益は25億円まで低下した。しかし2018年3月期の連結営業利益は131億円と過去最高。翌年以降はさらに利益が伸びると見られている。

 V字回復に貢献したのは、「トミカ」「プラレール」「リカちゃん」などの定番商品だ。定番商品に新しい技術や発想を取り入れることで、売り上げは2018年3月期までの4年間で1.5倍に増加しているという。

 主導したのは、日本コカ・コーラ副社長などとして手腕を振るったハロルド・ジョージ・メイ氏。2015年から2017年にかけて同社社長兼CEOに就任し、社内の意識改革を行った。2018年1月から小島一洋氏が後を継いだが、「定番商品を進化させる」という改革の方向性は維持されている。

 同社の具体的な取り組みとしては、かつて定番商品を生み出し支えてきた「60歳で定年を迎えた社員」たちの再雇用が挙げられる。再雇用したベテランに部下をつけることで「属人的に蓄積してきた暗黙知」を若手に継承させるのが狙いだ。これによって「効率化のために試作の時間をいたずらに減らしたり、質を下げたり」する必要がなくなるという。

日本電産、V字回復狙った上での永守流減益決算

 2019年3月期決算で、日本電産の営業利益が前期比16.9%減の1386億円、純利益は同15.3%減の1107億円となった。同社の永守重信会長CEOは「46年間経営してきて月単位でこんなに(受注が)落ち込んだのは初めてだ」と語る。

 とはいえ、同時に発表された2020年3月期の見通しは、売上高が8.7%増の1兆6500億円、純利益は同21.8%増の1350億円と「V字回復」だ。

 実は2013年3月期にも、パソコン需要の世界な急減速により日本電産の業績は低迷していた。最終利益は前期比80.4%と大きく落ち込んだが、永守氏の思い切ったリストラ策や事業構造の転換により、翌2014年3月期にはV字回復を遂げたのだ。

 2019年3月期決算で示されたV字回復の見通しも、永守氏の手腕への自信の表れと言える。

「下期V字回復」シナリオの勝算

 中国から調達した「使用期限切れのチキン」の発覚などの影響で業績が低迷する日本マクドナルド(当時)。2015年6月の既存店売上高は前年同月比マイナス23.4%と厳しいが、同社副社長兼COOの下平篤雄氏は「ほぼ予想通りに(業績が)回復している」と語る。

 業績回復に向けた日本マクドナルドの取り組みは、現在のところ「戦略的閉店」が中心だ。財務的に厳しく将来性のない131店舗を閉店し、それ以外の店舗については、5年先までの売り上げと投資の計画を策定する。6月から本格的に始めた「地区本部制」のもと全国を974のミニマーケットに分けて、地区ごとに計画を練っているという。

 具体的には本社主導のプロモーションから「店舗ごとの環境に合わせたプロモーション」へとシフトチェンジすると同時に、本社とFCオーナーのコミュニケーションの在り方も見直した。また従来は店舗ごとにクルーの採用を任せていたが、今後は各地区に人材開発の担当者を配置して店舗オーナーを支援する。それと同時に店舗の接客手順を見直して、全く新しい“おもてなし”を意識したサービスも展開していく予定だ。

相次ぐ不祥事でV字回復に暗雲

 V字回復に取り組むマクドナルドが、新たな不祥事に揺れている。2018年7月には同社CMが景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして再発防止措置命令を受け、翌8月には販売した商品への異物の混入が発覚した。

 2013年のサラ・カサノバ社長兼CEO就任以来「品質管理の徹底や店舗の改装」などによってブランド力の回復に努めてきた同社だが、度重なる不祥事に暗雲が垂れこめている。

V字回復達成のマック、次の成長は「未来型店舗」で

 2019年2月に行われた決算会見で、日本マクドナルドのV字回復を報告したサラ・カサノバ社長兼CEO。「『回復』から『持続的な成長』へとステージは移った」と語り、笑顔を見せた。

 2015年12月期には上場以来最大となる約350億円の最終赤字に陥った同社だが、2018年12月期の営業利益は250億円の黒字。これは問題発覚前の2013年12月期を120億円近く上回る数字だ。

 華々しいV字回復だが、「我々の旅はまだ終わっておらず、満足などしていない」とカサノバ氏は語る。沖縄県の30店舗で試験導入している「未来型店舗」を2019年度中に国内店舗の半数にまで拡大し、ファストフードのサービス水準をさらに引き上げていく予定だ。

最後に

 V字回復を遂げた企業に共通するのは、それぞれの事業内容に応じた「経営者の手腕」だ。中には周囲の環境が回復を後押しした例もあるが、そのような運を引き寄せるのも経営者の手腕と言える。

 グローバル化が急速に進む中、企業の業績は世界情勢のちょっとした変化で大きく影響を受ける。どの企業にとっても、V字回復を遂げた企業の事例を学ぶことは有益だろう。

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