環境・社会・ガバナンスへの対応を基準に投資判断を行うESG投資。世界はもとより日本国内でも新たな投資原則として投資家の注目を集め、企業によるESG対応も広がりつつある。ここでは過去に掲載された記事の中から、ESG投資をめぐるこれまでの動きと、今後の展望について紹介する。

国連も力を入れる「ESG投資」の拡大

 ESG投資とは、企業の財務情報ではなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)という3つの要素によって投資先の選定や評価、投資先企業との対話を行うことだ。この考え方は国連PRI(責任投資原則)に組み込まれ、SDGs(持続可能な開発目標)とともに企業経営の重要な指針となっている。

 気候変動や社会問題などに対する企業の対応能力は、企業経営の持続可能性に直結する。加えて企業のブランディングにも大きな影響を与え、ESG分野の取り組みが「新たな収益創出の機会」となるケースも少なくない。多くの投資家がESGを重視しているのはこのためだ。

 当初はヨーロッパや米国などを中心に広まったESG投資。日本では、2015年9月の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国連PRI参加をきっかけに注目を集めた。その後は企業によるESGへの取り組みや、ESGを意識した「エシカル消費」(地球環境や人権などに配慮した商品を購入・利用すること)の事例が国内外で増えつつある。いずれはESG投資が投資のメインストリーム(主流)になると予測する専門家も少なくない。

 今回は、ESG投資をめぐる投資家の動きや企業の対応、将来の展望などを中心に過去記事をピックアップしていく。

米最大の年金基金「ESG投資で日本に注目」

 ESG投資で世界に先行するカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)。年率7.5%の高いリターンを実現するため、ESGを基準にした投資判断を重視している。

 一般に「非財務情報」とされるESGだが、カルパースではESGを「財務情報」と捉えている。カルパースのボードメンバー、プリヤ・メイサー氏によると「環境や社会やガバナンスがしっかりしていない企業は持続可能性が低く、長期的なリスクを抱える」ためだという。

 カルパースでは、具体的に4つの方法でESGを活用している。1つ目は「エンゲージメント(対話と働きかけ)」を行う企業の選定基準、2つ目は「アドボカシー(企業への意見)」の要素、3つ目は「ESGインテグレーション(投資ポートフォリオ全体にESGを加味)」、4つ目は「パートナーと協働」する際の基準だ。

 カルパースでは、こうした取り組みによってここ10年の運用成績が向上した。投資先には日本企業も多いといい、日本の政府や企業への注目と期待は大きいという。

GPIFのESG投資が本格始動、まずは1兆円

 GPIFが国連PRIに署名参加したのは2015年9月。それから2年近くが経過し、いよいよGPIFのESG投資が本格化してきた。

 具体的な動きとしては、まずESGに積極的に取り組む日本企業を構成銘柄とする新しいESGインデックス(株式指数)を発表。総額130兆円の投資額のうち既に1兆円規模の運用を開始しており、今後さらに投資額を拡大していく。

 今回、GPIFが採用したインデックスは3つ。既存のESGインデックスを活用して総合的に企業を評価する「FTSE Blossom Japan Index」と「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」 、そしてMSCIが新たに開発した「性別多様性スコア」で、S(社会面)の分野を評価する「MSCI日本株女性活躍指数」だ。これらとは別にE(環境面)に特化したインデックスも検討しており、年内にも運用が始まる見通しだという(当時)。

拡大するESG投資、実効性高める手法確立が課題

 投資家に対しESGの活用を提唱する国連PRI。2017年の段階で、署名参加組織の運用総額は約1800兆円に達している。背景にあるのは「世の中のためになる企業に投資する」という倫理的な価値観ではなく、ESGが「長期的な株主価値創出」、つまり運用成績の向上に役立つという実利的な判断だ。

 とはいえ一口にESGと言っても対象となる分野は広く、どの分野に注力すれば「株主価値」に貢献するかははっきりしない。業種によって「影響が大きい分野」が違うという調査結果もある。ESG投資が今後さらに拡大していくためには、企業のESG活動に関する情報を蓄積・分析し、実効性のあるESG手法を確立することが必要だ。

ESG投資は死語になる?

 2016年の時点で、既に世界の総投資額の26%がESG投資になっている。ESGへの取り組みが進むヨーロッパでは、その割合は53%におよぶという。

 そのような資産運用会社の1つが、オランダに本拠を置くロベコだ。同社の日本法人、ロベコ・ジャパンの坪田史郎社長は「ESG投資という言葉は早晩、死語になる」と語る。つまりESG投資が現在のような特別なものではなく、投資家にとって当然のメインストリームになるという意味だ。

 企業の業績や成長は「規制の強化やイノベーションの加速、天然資源の枯渇、気候変動、高齢化社会の進展など、大きな社会変化」によって大きな影響を受ける。企業経営者はESGを単なる「はやり」と見るのではなく、本気で取り組まなくてはならない。

投資家に聞く新型コロナ後のESG

 リーマン・ショックを超えるともいわれる「コロナショック」。世界大恐慌以来の不況の中、多くの企業が雇用の確保や資金難の回避に追われており、気候変動や人権問題などのESGに注目する余裕はほとんどない。

 しかし投資家の見方は異なるという。アンケートによると、ほぼすべての資産運用会社がESGを重視する方針に「変更なし」と回答している。それどころか、コロナショック後はESGがより重視されるという見方もある。

 中でも要注目なのが「気候変動、働き方改革、生存権、健康の意義」といった分野だ。「体調が悪くても出勤せざるを得ない社会環境が、感染症を広めた1つの原因」と指摘する投資家もおり、今後はS(社会面)がより重視されていくという。

 新型コロナウイルスの影響は、各企業の20年度の計画や中期経営計画の策定、株主総会の開催などにも影を落とす。しかしESGに対する企業の姿勢や、経営者の発言に対する株主からの注目度は高まっている。

年間約632万トンの食品ロス ESG投資にらみ対応策続々

 最後に、ESGへの取り組み事例として「食品流通業界」の動きを紹介する。現在(2017年時点)、日本では年間約632万トンの食品ロスが発生しているという。これは世界の貧困地域に援助されている食糧の約2倍の量に相当する。

 この問題への取り組みとして、食品メーカーが行っているのは「賞味期限表示」の変更だ。ある程度の保存が利く食品については「年月日」表示から「年月」表示に切り替え、出荷のタイミングを効率化できるようにした。

 コンビニエンスストアやスーパーなどの小売りでは「納品期限の緩和」を行い、メーカーから出荷できなかったり返品されたりする食品を減らしている。

 食品流通の効率化は、異業種にとってもESGに取り組むチャンスだ。たとえば「日本気象協会」は気温や湿度、降水量などの気象データを活用し、食料品の需要予測を提供している。CSRや企業ブランディングをサポートする「グラウクス」(現在はクラダシに社名変更)は、「まだ食べられるが出荷できなくなった商品」をメーカーから仕入れ、消費者に販売するサイトを運営している。

 消費者に食品ロスへの関心を持ってもらう取り組みを行うのは「イオンリテール」だ。見切り品などへの抵抗を減らすため、売り場に独自のPOPを掲げて「エシカル(倫理的な)消費」を促している。

最後に

 世界中の投資家からの注目を集めているESG投資。環境や社会問題に対する企業や消費者の意識も変わりつつあり、ESGは投資分野の「メインストリーム」となりつつある。

 新型コロナの影響などにより低迷が続く世界経済だが、「コロナ後」の回復や成長機会を逃さないためにも、企業経営者にはESGへの真剣な対応が求められる。

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