国のワーキンググループが公表した報告書をきっかけに関心を集めた老後2000万円問題。長生きがリスクと受け取られかねない試算は日本中で物議を醸した。ここでは老後2000万円問題が国の政策や社会に与えた影響、問題を解消するための方法について、これまでの記事から振り返る。
日本中の関心を集めた「老後2000万円問題」

老後2000万円問題とは、金融庁の金融審議会 市場ワーキング・グループが公表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」に端を発する騒動のこと。報告書では「老後20~30 年間で約1300万円~2000万円が不足する」と試算されており、これが連日マスコミに大々的に取り上げられたことで日本中の関心を集めた。
報告書の試算は、①夫65歳以上、妻60歳以上でともに無職、②30年後まで夫婦ともに健在、③毎月の家計収支は平均約5.5万円の赤字という前提に基づいており、すべての高齢者がこのモデルケースに当てはまるわけではない。それでも「人生100年時代」に入りつつある現在、老後の安定した暮らしのためには一定以上の資金確保が不可欠といえる。
なお上記の報告書では「公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動」として、現役期からの預貯金や長期・積み立て・分散投資を活用した資産形成・運用、ライフプラン・マネープランの作成などが有効と指摘され、一定期間の税優遇措置を受けられる「少額投資非課税制度(NISA、ニーサ)」「個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)」が注目を集めるきっかけにもなった。
今回は老後2000万円問題をテーマにしたこれまでの記事から、特に注目すべきものをピックアップして紹介する。
人ごとではない「高齢貧困」 危ない単身・女性
老後2000万円問題によって注目を集めた社会問題の一つが「高齢者の貧困」だ。一人暮らしの高齢者の中には、ぎりぎりの生活費で命をつないでいる人も少なくない。2000年に約308万だった単身の高齢者世帯は2019年には736万に急増し、2040年には896万になると見込まれる。高齢者間の貯蓄格差も広がる傾向にあり、その不安は徐々に年齢が下の世代にも伝わりつつあるという。
消費増税「駆け込み需要の大小」はあまり重要でない
厚生労働省が発表した集計によると、2019年の春闘は賃上げ額、賃上げ率ともに低下という結果だった。他の機関による集計結果もおおむね同様で、所得環境の改善の鈍りや停止が見られる。また、消費者のマインドの悪化もあり、その原因の一つとされるのが、老後2000万円問題による先行きへの不安感だ。
与党が税制改正大綱決定、「5G減税」は追い風か?
与党がまとめた2020年度税制改正大綱では、個人の投資促進も大きな柱となっている。具体的な内容は、株式や投資信託の運用益を非課税にするNISA、iDeCoをはじめとする確定拠出年金制度の刷新などだ。これらの制度を通し、与党では老後2000万円問題への対策となる資産形成や、高齢者の就業を促進しようと考えている。
株高の今、個人が投資を始めても大丈夫?
老後2000万円問題に加え、2021年の初めに日経平均株価が30年半ぶりの3万円台を回復するなどの影響もあり「投資への関心」が高まっている。投資を始めることには不安の声もあるが、鎌倉投信の鎌田恭幸代表取締役社長は「投資はいつ始めてもいい」とした上で、「大事なことは、自分なりのやり方を継続すること」と語る。
老後2000万円問題に介護費用は含まれない
さまざまに物議を醸した老後2000万円問題だが、実はこの「2000万円」には介護費用は含まれていないという。日本には公的な介護保険制度があるものの、保険料は今後も値上げが続くと予想される一方で、介護の質を維持するのは困難と考えられている。老後を安心して迎えるためには、自助を前提としたライフプランニングが必要だ。
50歳からはじわじわと人生を歩んだ遅咲きの人に学ぼう
老後2000万円問題をきっかけとして長生きを「リスク」と捉える風潮に対し、多摩大学前副学長の久恒啓一氏は「間違っている」と語る。久恒氏によると「お金などの個別の問題について考えることから始めるのではなく、まず、自分の人生の捉え方を決めるところから始めることが大事」だという。
最後に
老後の生活資金として2000万円が必要とした金融庁の市場ワーキンググループの報告書は、日本中に大きな衝撃を与えた。退職金制度を持たない企業が増え、年金制度の先行きにも不安を抱える現在、高齢者の貧困問題は決して他人事ではない。すべての人が国の制度に関心を持つのはもちろん、個人としても将来に向けた資産形成について今一度考えていきたい。
さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「テーマ別まとめ記事」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?