人的資本(ヒューマンキャピタル)とは、個人が持つ知識やスキルを「資本」として捉えること。人的資本への投資は企業にとって生産性の向上などの経済的メリットとなるだけでなく、社員の健康や幸福といった非経済的メリットをもたらすものとなる。ここでは過去記事を通して、人的資本の重要性と効果を振り返っていく。
企業に経済的・社員に非経済的メリットをもたらす「人的資本」

人的資本とは、個人が持つ知識や技能、資質などを「資本」として捉える経済学の用語だ。この人的資本の価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値向上につなげる経営手法は人的資本経営と呼ばれる。
人的資本への投資は企業の生産性向上や経済活動への貢献につながり、国内総生産(GDP)を押し上げるという。また経済的利益以外の部分でも、たとえば健康状態の改善や幸福感の向上、社会的結束の強化といった効果をもたらすという。
なお近年では人的資本への投資がESG(環境・社会・企業統治)投資でも重視されるほか、米国証券取引委員会(SEC)や東京証券取引所では上場企業に対し、人的資本に関する一定の情報開示を義務付けている。こうした動きは、人的資本がグローバル競争力を高めるものと認識されていることの表れだ。
今回は人的資本の重要性や人的資本への投資をテーマにした過去記事から、注目のトピックを紹介する。
国・企業は「人的資本」への投資から始めよ
新型コロナウイルス禍によってダメージを受けた航空業界。ANA(全日本空輸)では所属するCA(キャビンアテンダント)を対象に、希望に応じて勤務日数を選択したり、居住地を自由に選んだりできる制度を導入した。副業に取り組みやすくすることで、本人の収入源を確保するとともに、人的資本を強化するのが狙いだ。
男社会と決別すれば、ホワイトカラーに人材不足は起きない
人的資本に男女の区別はない。日本では多くの職場で「ホワイトカラーの人材不足」に苦しめられているが、人材不足を補うには日本の産業界に染み付いた「男の論理」と決別し、過去10年に大きく進んだ女性活躍をさらに推進することが必要だ。
食・サービス・流通業の幹部領域では移民がもう常態化している
一方、日本の非ホワイトカラー領域では「10年で500万人」も産業人口が減っているという。日本の社会構造が極端な少子高齢化である以上、人的資本を補うには外国人材の受け入れも不可欠だ。実際、日本には既に200万人近くの「外国籍」就労者が存在しており、全就業者に占める割合は3%以上に達しているという。
脱「研修やりっ放し」 すべての「人材」が価値を生む資本に
人的資本を生み出すカギとなるのは「自ら考え、行動できる人材を育てる」こと。そのための有効なアプローチの1つが「ビジネスコーチング」だという。
ビジネスコーチングの手法は、主に社内の1on1(ワンオンワン)ミーティングの場で活用される。上司が部下に向けて「戦略的で良質な質問」をすれば、それにより部下が自ら考え、気づき、行動を起こすというサステナブル(持続可能)な人材育成が可能になる。
物事への向き合い方を変える「破壊的質問力」
『ビジネスコーチング大全』著者の橋場剛氏は、ビジネスコーチングの手法で発せられる質問を「破壊的質問」と呼ぶ。破壊的というのは、「相手の思考の枠を外し、本人が考えてもみなかったような角度から投げかける、強烈なインパクト」を与えるためだ。このような質問は個々の思考の質を高め、行動の変容を促すことで人的資本の育成につながるという。
ビジネスシーンにおける“感想戦”で「自律型人材」を育成
ビジネスコーチングの手法を使った1on1ミーティングで人的資本を育成するには、「いったん立ち止まって内省し、振り返る」仕組みも必要だ。具体的な手法は「週報を付ける」「日記や日誌を付ける」といったアナログなものから、クラウドサービスを使ったものまで様々。橋場氏は「1日5分程度、あるいは週に30分程度、内省や振り返りの時間に充てる」ことを推奨する。
最後に
人的資本への投資と活用は、企業の生産性を高める上でも、日本の労働人口不足を補う上でも重要な要素だ。対象となる人的資本には女性や外国人など幅広い属性が含まれるため、企業にはダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂性、D&I)の視点も必要となる。人的資本の育成にはビジネスコーチングなどのスキル活用も必要だ。日本産業界の活性化とGDP成長のためにも、引き続き先進的な取り組みとその成果に注視していきたい。
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