トヨタ自動車をはじめとする上場企業が加盟し、政府与党にも強い影響力を持つ経済団体、経団連(日本経済団体連合会)。経団連の意向は国政ばかりでなく、大学生の就職活動をも大きく左右している。今回は過去記事を通して、近年の経団連の動きを中心に紹介していく。

日本の政治経済に強い影響力を持つ「経団連」

 経団連とは、東証1部上場企業を中心に構成される経済団体だ。1922年(大正11年)に設立され、現在では日本商工会議所や経済同友会と並ぶ「経済3団体」の一つとされている。自民党の支持母体の一つとしても知られ、日本の経済政策に対する提言を行うなど政治の世界に強い影響力を持つのも特徴だ。

 経団連の動向や発言が影響を与えるのは国政ばかりではない。大学生の就職活動を大きく左右する、いわゆる「就活ルール」の指針を定めてきたのも経団連だ(ただし2021年卒の新卒採用からは、政府が就活ルールづくりを主導している)。

 この記事では経団連の功罪や、強い発言力から「財界総理」とも呼ばれる経団連会長の最近の動向に至るまで、これまで掲載した記事を通して紹介していく。

勲章秩序が招いた日本の地盤沈下

 「財界総理」の異名が付くほど、国政の経済面に強大な影響力を持つのが経団連会長だ。しかし近年、その影響力は低下しつつある。

 原因の一つとされるのが、東西冷戦の終結とバブル崩壊だ。それまで「労働運動」のけん制を通して大企業を保護し、日本経済の発展を後押ししてきた経団連。しかしその意義が薄れ、さらに1993年のゼネコン汚職事件を機に、業界ごとに献金額を決めるあっせん方式の政治献金を停止したこともあって、政治的影響力は大きく低下した。

 経団連の失速は日本の業界団体全体の失速につながる。欧州の業界団体に競り負けた結果、すでに自動車業界では国際ルールづくりに乗り遅れているという。

改革の手綱を締め直す

 2018年5月末、新たな経団連会長として日立製作所会長の中西宏明氏が就任した。会長としての任期は2期4年だ。「沈みつつあった巨艦」日立製作所を立て直した中西氏。影響力が低下する経団連の立て直しにも、手腕の発揮が期待された(当時。中西氏は21年6月に死去されました)。

 「大変な仕事ですが、経済重視でやっていきます」と語った中西氏。政権に対して「もの申す姿勢」を保ちつつ、デフレからの脱却、デジタル化の推進に尽力していきたいとした。

就活、経団連ルール廃止を正式決定

 長いあいだ懸案事項とされてきた就活ルールについて「我々がルールをつくって社会が従う、従わないとか、そういう変な状況はやめる」と述べた中西会長。2020年春入社の学生を最後にルールづくりから手を引き、2021年以降は政府と大学による協議に委ねるという。

 これにより、1953年から続いてきた経団連による就活ルールづくりは廃止されることとなった。

日本型雇用に大ナタ? 経団連の方針に連合が反論

 中西会長が続いて打ち出したのは、「終身雇用」や「年功序列」などに象徴される日本型雇用の見直しだ。2019年5月初旬に「終身雇用を前提に企業経営、事業活動を考えるのは限界」と語り、これまで各企業が抱えてきた課題を産業界や日本社会全体の課題としてクローズアップした。

 経団連は、2020年1月公表の「経営労働政策特別委員会報告」でこうした方針に言及。これに対し日本労働組合総連合会(連合)が反論するなど、議論が活発化した。

官製賃上げいよいよ消滅。21年春闘、「ジョブ型」どこまで

 2021年の春闘開始に先立ち、経団連が「業種横並びや各社一律の賃金引き上げは現実的ではない」との見解を示し話題となっている。これにより第2次安倍晋三政権で続いてきた官製賃上げが消滅し、「個々の企業の実情に適した賃金決定」へと転換されるという。

 これと同時に、経団連は業績が好調な企業について「職務等級や資格、成果など個人の貢献度に応じた賃上げが適切である」とも述べており、今後はいわゆる「ジョブ型」雇用の導入が活発に議論されるのではと予想されている。

経団連会長、人材難で十倉氏が緊急登板。問われる政権との間合い

 2018年から経団連を率いてきた中西会長が、病状の悪化を理由に途中降板することになった。6月からの後任は、住友化学会長の十倉雅和氏だ。

 中西会長の病状はかねてより懸念されており、これまでも水面下で次期会長人事が進められていた。経済界からはトヨタ自動車の豊田章男社長を推す声も高かったが、トヨタが経団連の副会長企業から手を引いたこともあり、立ち消えになったという。

 最終的に「人物本位」で選ばれたという十倉氏。しかし同じ住友化学出身の米倉弘昌元経団連会長(2010年当時)が自民党政権と対立していたという経緯もあり、十倉氏が政権とどのように向き合っていくか注目を集めている。

最後に

 政権と太いパイプを持ち、国政や経済界のルールづくりに大きな影響力を行使してきた経団連。近年は影響力が低下しつつあるというものの、依然として重要な存在であることに変わりはない。経団連の今後や日本の経済政策にどのような影響を与えていくかに、引き続き注目していきたい。

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