自身の身体的な性と認識上の性が異なる、トランスジェンダー。いわゆる性的少数者だが、近年では「LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字)」の一つとして広く認知されつつある。トランスジェンダーを含むLGBTについて取り上げた記事から、企業の取り組みや日本における課題を紹介する。

自身の性に違和感を持つ「トランスジェンダー」

 トランスジェンダーとは、自身の性についての認識と身体的特徴としての性が異なる状態を指す言葉だ。日本では医学用語の「性同一性障害」(性自認と身体的性が一致しておらず、外科的手術による一致を望む状態)と混同されることもあるが、トランスジェンダーは「性別に違和感をもつ人々の総称」を指す。

 トランスジェンダーの中には、男性の体に生まれながら自身を女性と認識する人がいる人がいる一方で、自身を「中性・無性(男女どちらでもある/どちらでもない)」と認識している人もいる。またこのような違和感が持続的な人もいれば、変動する人もいる。

 トランスジェンダーを含む性的少数者はLGBTと呼ばれ、自らがLGBTであることを公言する人も少なくない。そんな中、国の制度や企業の取り組みに、LGBTに配慮したものが増えている。こうした動きについて、過去記事から振り返っていく。

寄り添えば新市場が広がる

 京都にあるホテルグランヴィア京都は、年間数千人以上のLGBTの旅行者から支持されているホテルだ。その理由は、同ホテルが世界最大の性的マイノリティー向け旅行団体「国際ゲイ&レズビアン旅行協会(IGLTA)」に加入しているからだという。

 1983年に創立されたIGLTAには、ホテルや旅行会社、航空会社など世界80カ国、2000以上の企業・団体が加盟している。その中には国際的ホテルチェーンを展開する米ヒルトン・ワールドワイドのような有名企業も少なくない。日本でも2019年に大阪観光局や近畿日本ツーリスト関西が加盟するなど、LGBTの人々からの注目度は高くなっている。

 また、花王、サントリーホールディングス、日立製作所、NEC、電通グループ、日本マイクロソフトなどはLGBTに関する勉強会やセミナーを実施している。LGBTに関する社内制度を設けている企業も少なくない。

人事制度から売り場まで…LGBT、企業を動かす

 パナソニックでは、16年に社内のルールを全面的に見直した。全社統一の指針として、「同性カップル」を結婚に相当する関係として認めるというのがその内容だ。

 具体的には「性的指向や性自認で差別しない」ことを明記し、配偶者に関する就業規則上の定義も変更した。これにより、同性パートナーを持つ社員でも慶弔休暇や介護休業といった福利厚生の対象となるという。

 同様の制度は、日本IBMやパッケージソフト開発のアステリアなどが取り入れている。狙いの一つは優秀な人材の採用にある。アステリアの平野洋一郎社長は「異質な人が集まるほうが革新的なアイデアやイノベーションが生まれる。我々のような小さい会社が前例となることで、大企業も動き出すのでは」と説明する。

企業のLGBT対応、課題は人事から「現場」へ

 多くの企業でトランスジェンダーなどに対応する制度が広まる一方で、就活の現場では依然として性的少数者に対するハラスメントが根強いという。また入社後の現場でも、上司や同僚の無理解によって、ハラスメントや差別を受けるケースが少なくない。

 こうした問題の背景にあるのは、人事担当者や現場の上司たちの「無理解」だ。ハラスメントをなくすためには、LGBTに関する問題を職場における人権課題として認識し、理解・普及・研修を徹底しなければならない。

「性転換手術が保険適応」で考えた医療の意味

 18年4月から、性同一性障害者に対する性別適合手術に保険が適用されることになった。通常、性別適合手術には200万円前後の費用がかかり、それらのほとんどが保険適用外とされていた。今回の決定は、経済的な理由で「手術を受けたくても受けられなかった」トランスジェンダーの人たちにとって朗報だ。

 一方で、「『手術を受ければ解決する』という誤解が広がりかねない」「『性同一性障害の患者は全員、性別適合手術を望んでいる』と決めつける人がいる」といった懸念や、「保険適用よりも、法制度の見直しを議論すべきだ」との指摘もある。

欧米よりLGBT比率が高いかもしれない日本。一方で法的整備に遅れ

 電通ダイバーシティ・ラボが6万人を対象にした「LGBT調査2018」によると、LGBTとして自認している20~59歳の割合はおよそ8.9%となっている。この数字を信じれば、日本のLGBTの人口比率は欧米より高いことになる。その一方で、LGBTに対する法律面の整備状況は、OECD(経済協力開発機構)35カ国中34位と低い。そうした日本への評価は、異性愛者以外に「基本的人権」がない国となっているのだ。

 

 そうした中で、企業が性的少数者を念頭に置いた社内制度を整備したり、国が新しい制度を設けたりすることに対し、「『LGBT』支援の度が過ぎる」と非難する声もある。しかし、LGBTに対するバッシングの多くは思い込みや偏見に基づいている。まずは正確な知識に触れて、自分の枠のタガを外し、“常識”がアップデートされるようになってほしい。

 

「本当の自分を話せない」とGDPも低下?

 一般社団法人Marriage For All Japanが20年に発表したリポートによると、LGBT+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーに加え、性別を問わず恋愛対象になるパンセクシュアルなどの性的少数者)の権利を法制度として保障している国のほうが、国民1人当たりGDP(国内総生産)が高い傾向にあると発表した。法制度が1つ多く整備されると、整備される前に比べて1人当たりのGDPが1694ドル(約17万円)高くなる傾向にあるとするデータが盛り込まれている。

 現在、LGBTに関する日本の法整備状況はOECD35カ国中34位で、他の主要国と比べて大きく出遅れている。結果、同性婚が法制化されているOECD諸国と比べて日本のGDPは約25%も低い傾向にあるという。リポートは「LGBT+の人々に対する差別的な対応は、個々人のパフォーマンスを低下させ、GDPへ負の影響をもたらしかねない」などと指摘している。

最後に

 トランスジェンダーに対する理解は、ここ数年で急速に広まりつつある。日本でも大企業や有名企業を中心に、社内制度の変更や勉強会などを実施する企業が少なくない。しかし法制度の面では、日本は諸外国と比べて遅れている。国全体の経済発展のためにも、トランスジェンダーなどについての理解や法整備を進めていくべきだろう。

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