国の経済力を表す国内総生産(GDP)。国内の景気変動や経済成長を測れるだけでなく、他国との比較もできる。だが、一方でGDPは人々の豊かさや幸福度の指標たり得ないという指摘もある。GDPとは何なのかについて、過去記事から探ってみる。

国の経済力を表す「GDP」

 国内総生産(GDP)とは「一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値」のことだ。GDPは国の経済力を表す目安といわれ、前年の同じ時期や前の期と比較することにより、国内の景気変動や経済成長の変化を知ることができる。

 GDPには「自国の企業が国外で生産した付加価値」や「自国民が海外で消費した金額」は含まれない。逆に「海外から訪れた外国人がその国で消費した金額」はGDPに含まれている。このため近年では、「自国民が生み出した付加価値」を把握するためにGNI(Gross National Income:国民総所得)という指標も使われている。

 2020年の日本の名目GDPは米国、中国に次ぐ世界第3位だ。ただし米国のGDPが20兆9328億ドル、中国が14兆7228億ドルなのに対し、日本は5兆487億ドルと大きく引き離されている(いずれもIMF統計、21年4月発表)。しかも新型コロナの影響により、中国以外の主要国は軒並みGDPが低下し続けている。日本と中国との差は今後さらに拡大する可能性がある。

GDP 29兆円減の衝撃…2020年、日本が失ったもの

 19年の終わりに中国で始まり、20年に世界中へ拡大した新型コロナウイルス。その影響は各国の経済にも及び、日本を含む多くの主要国が軒並みGDPを低下させている。

 20年度通年の日本の実質GDPは4.6%のマイナスとなった(21年5月内閣府発表)。深刻なのは6.0%減となった個人消費の落ち込みで、これは新型コロナに伴う外出自粛の影響が大きい。コロナ禍で約30兆円ものGDPが失われ、20兆円規模で個人消費が減った計算だ。観光業や接客業をはじめ業界全体が危機的状況に陥っているケースが少なくない。

先進国が軒並み失敗、各国のコロナ対応の成否を分けたもの

 世界でも、多くの国でGDPが低下している。特に新型コロナによる死者数が多かったペルー、英国、メキシコなどでは20年第2四半期時点で前年比マイナス20~30%にもなった。米国やEU各国のダメージも大きい。一方、韓国はマイナス3%にとどまっており、中国に至っては3.2%のプラス成長となっている。日本はマイナス10%と大きく落ち込んでいる。

 それぞれの国で明暗が分かれた背景には、各国の「根底に流れる戦略やスタンス、リーダーシップの大きな違い」があるという。レビューした28カ国における戦略は、「徹底的な封じ込め戦略」「抑制戦略」「緩和戦略」、そして「戦略不明瞭」の4つに分けることができ、その違いが差になったと思われる。

リアル市場をしのぐ成長によって急拡大した中国のGDP

 急速な経済成長を遂げている中国。日本と中国のGDPが逆転したのは10年だが、その後10年間で、両国のGDPは3倍近い差がついている。その背景にあるのが、中国におけるリアル市場を凌駕(りょうが)するほどのネット市場の拡大だ。

 中国では実店舗で売られている商品は価格や品質の面から消費者からあまり信用されておらず、当初はECの世界でも偽物の横行が散見されていた。しかし、ユーザーレビューなどの評価システムや、商取引の際に信頼の置ける第三者を仲介させて取引の安全を担保する「エスクロー取引」によってECは信頼性を高め、市場が拡大していった。

 こうした背景から、リアル市場をしのぐほどのネット市場が形成され、その主役となったアリババなどの企業がリアル市場に進出。リアル市場も拡大させることになった。

「本当の自分を話せない」とGDPも低下?

 他国と比較して、GDPの成長率が停滞している日本。その原因の1つとして、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーに加え、性別を問わず恋愛対象になるパンセクシュアルなどの性的少数者である「LGBT+」への対応がGDPに影響しているという指摘もある。

 一般社団法人Marriage For All Japan(MFAJ)のリポートによると、LGBT+の人たちへの差別を抑止する法制度や、LGBT+の人たちの権利を認める法制度が1つ整備されるごとにその国の1人当たりのGDPは1694ドル(約17万円)高くなるという。

 現在の日本では法律上、同性婚が認められていない。また雇用において、性的指向による差別を禁止する法制度も存在しない。20年のOECD(経済協力開発機構)の報告書によると、性的少数者に関する法制度の状況はOECD加盟国35カ国中34位なのだ。

日本のGDP3割減、それでも株価が堅調なのは?

 世界3位とはいえ、1位の米国、2位の中国に大きく引き離されている日本のGDP。しかし新型コロナで大きく落ち込んだGDPに対し、株価の落ち込みはそれほど大きくないばかりか、20年4月以降持ち直しつつある。

 GDPと株価は、どちらも重要な経済指標の1つに違いない。しかし両者の増減は必ずしも連動しない。この違いは、GDPが「過去の数字」を示すのに対し、株価は「業績への将来の期待値」を含んでいることに由来する。

豊かさを測る最適な指標はGDPか幸福度か

 GDPとは全く異なる指標に「幸福度」がある。どちらも国民にとっては重要な要素だが、GDPが上がったからといって、必ずしも幸福度が高くなるわけではない。たとえば日本の場合、1人当たりGDPは戦後から1990年にかけて「右肩上がり」で増えたのに対し、国民の主観的な生活満足度は「横ばい」で、全く上がっていなかったという。

 ここから言えることは、豊かさを測るのにGDPだけでは不完全で、補正する必要があるということだ。豊かさを測るにはGDPだけでなく、他の指標も複合して見たほうがいいということになる。

GDPが人を不幸にする理由…幸福な世界をつくる方法

 「近代マーケティングの父」と呼ばれるフィリップ・コトラー教授はGDPを「産出の増減の指標であるにすぎない」と指摘する。一生懸命働いてGDPが増えたからといって人が幸せになるとは限らず、「たばこや銃のような筋の悪い製品」や「筋の悪い売り方」が成長すれば、幸福度はむしろ下がるというのがその理由だ。

 「ここから先の時代は、GDPの増減ではなく、より多くの人々の幸福を高める政策を国家は選ぶべきだ」と、コトラー教授は語っている。

最後に

 国の経済力を表すGDP。景気変動や経済成長の指標として使われる重要な経済指標の1つだ。日本のGDPは戦後から右肩上がりだったが、1990年代以降は成長率が陰りを見せ、コロナ禍でさらにダメージを受けた。今後、GDPがどのように推移するのか注目していきたい。

 一方でGDPが必ずしも人々の豊かさや幸福度を指し示すものではないという指摘もある。我々はどのような指標をもって何を測るかを議論する時代に入っているようだ。

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