市場における「事実上の標準」を意味する「デファクトスタンダード」。標準化機関などによって定められたものと違い、市場競争を勝ち抜いてきた製品やサービスが得る勝利の証しだ。今回は様々な業界でデファクトスタンダードを目指す国内外の企業の事例を過去の記事からピックアップする。

市場における勝利を意味する「デファクトスタンダード」

 「デファクトスタンダード」とは「事実上の標準」のこと。標準化機関による決定ではなく、ライバルとの市場競争を経て業界標準としての地位を獲得した製品やサービスを指す言葉だ。これに対し標準化機関の決定を受けて業界標準となったものを「デジュールスタンダード」と呼ぶ。

 デファクトスタンダードの地位を獲得することは、その製品やサービスを提供する企業にとって市場競争における勝利を意味する。一般に新規開拓された市場(未成熟の市場)では複数の有力な規格が乱立するが、時間の経過とともに、特定の規格が市場の大勢を占めるようになることが多い。

 家庭用ビデオ規格の「VHS」やパソコンのOS(基本ソフト)である「Windows」、オフィスソフトの「Microsoft Office」などはその典型例だ。この記事では国内外でデファクトスタンダードを目指す企業の事例を過去の記事から紹介していく。

戦う“土俵”を変えてこそ

 宅配業界のデファクトスタンダードをつくったのは、「クロネコヤマト」で知られるヤマト運輸(現ヤマトホールディングス)だ。同社が一般家庭向けの宅配サービスを始めたのは1976年のこと。当初、運送業界は宅急便が成功すると思っていなかったという。しかしサービスは急成長し、10年もしないうちに一気に30社以上が参入する市場となった。その中でも、物流全体を視野に入れて顧客の困りごとを解決していったことが、デファクトスタンダードへの一歩となった。

成功のカギはルールメーキング

 2014年12月に、世界で初めて燃料電池車(FCV)の一般販売を開始したトヨタ自動車。わずか1月後の15年1月に、FCVについて審査継続中を含む5680件の特許をすべて無償で提供すると発表した。この決定に技術陣からの反発は強かった。だが、自社の知的財産をあえてオープンにすることで、他社が自社技術を利用できるようにし、デファクトスタンダートにすることを狙ったのだ。

2つの「異端児」容赦なき攻防

 日本のたばこ市場で約6割のシェアを占める日本たばこ産業(JT)。しかし16年ごろから利用者が急増した「加熱式たばこ」では、14年秋から日本で売り出した米フィリップ・モリス・インターナショナル社の「アイコス」が先行し、数年でデファクトスタンダードに近い地位を得た。

 このためJTは、最悪のシナリオとしてフィリップ・モリスの土俵の上で商品を展開することを考えざるを得ない状況に追い込まれた。JTにとって脅威だったのは、フィリップ・モリスが「紙巻きたばこがすべてアイコスに置き換わってもいい」と、腹をくくって、大攻勢に出てたことだ。

ファナック、オープン化へ“変身”の理由

 工作機械などの数値制御(NC)装置で世界シェアの約5割を占めるファナック。同社は16年、米シスコシステムズなどのパートナー企業と共に工場向けのIoT基盤「フィールド・システム」を開発すると発表した。表向きの狙いはIoTを活用した工場の効率化としている。

 だが、真の狙いは、このシステムを「工場用IoTのデファクトスタンダード」にして、他社も含めた様々な機器をつなげられるようにすることにあった。システムをオープン化して、アプリケーションを誰でも作れる状態にし、アプリ提供者から収益を得る狙いだ。米アップルが大成功を収めているモデルを工場でも実現しようというのだ。

快適追求、100年生きる

 国内トイレ業界シェアトップのTOTOが狙っているのは、欧米各社ではまだ研究が不足しているユニバーサルデザインのトイレだ。利用者の高齢化・多様化が進む将来を見越して、公共施設や駅などに設置される多機能トイレの設置・施工のルールでデファクトスタンダードを獲得することを目指している。公共トイレには世界各国の人々が抱える様々な悩みが隠されている。そんな悩みに応えるトイレが需要を拡大するとみているのだ。

 

リクナビ「内定辞退予測」、拙速の裏に2つの危機感

 新卒採用プラットフォームのデファクトスタンダードとされる「リクナビ」。だが売り上げの伸び悩みという焦りの中で、サービスを提供するリクルートキャリアの社内には「企業重視、学生軽視」の傾向がまん延していった。それが14年の「エントリーあおり」や「Biz-IQタレントファインダー」など物議を醸したサービスを生み出したともいえる。「内定辞退率」を予測して企業に提供する「リクナビDMPフォロー」が、19年に問題となった背景にも「企業重視、学生軽視」があった。

最後に

 デファクトスタンダードと呼ばれる製品やサービスは、それを生み出した企業に大きな利益をもたらす。このためFCVの全特許を無償公開したトヨタのように、思い切った戦略を断行する企業も多い。だが、一方でデファクトスタンダードの地位を得ても、その地位を失うこともある。デファクトスタンダードを巡り、各社がどのような戦略を立てていくのか、注視したい。

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