ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは、互いの多様性を認めて、それを企業活動などに生かすことを指す。少子高齢化やグローバル化、価値観の多様化などへの対応と深く関係しており、日本でも多くの企業がD&Iを推進している。今回は先進的な取り組みを過去の記事から紹介する。
現代の企業にとって不可欠な「ダイバーシティ&インクルージョン」

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは、多様性を認め合い、それを生かそうとする考え方のこと。ちなみにダイバーシティは性別、年齢、国籍などの「多様性」、インクルージョンは「受容する」ことを意味する。
D&Iが注目される背景にはいくつかの理由がある。その1つが少子高齢化に伴う労働人口の減少や人材不足だ。企業が人材を確保していくためには、女性が働きやすい環境を整えたり、高齢になっても働き続けられる環境づくりが必要だ。
加えてグローバル化と価値観の多様化も、D&Iが重要視される理由の1つとされる。日本の企業が海外に展開するためには、外国人材の受け入れやLGBT(性的少数者、セクシャルマイノリティ)への配慮を積極的に行うことが欠かせない。
この記事ではD&Iに取り組む日本企業の事例を、過去の記事からピックアップしていく。
女性活躍推進の鍵は役員の意識改革だった
第一生命保険は社員の約9割以上を女性が占める。女性の「働きがい」と「働きやすさ」をバランスよく進める長年の取り組みが注目され、日経WOMANと日経ウーマノミクス・プロジェクトによる「企業の女性活用度調査2017」で総合1位に輝いた。第一生命保険は、D&Iを経営戦略の柱としている。ダイバーシティへの取り組みを始めたきっかけは、従業員満足度調査だった。男性管理職の満足度が高かった一方で、生涯設計デザイナーやコンタクトセンター、営業をサポートする女性社員たちの満足度が低かったのだ。
LIXIL瀬戸社長「もうけるために女性を登用しダイバーシティ推進」
LIXILの瀬戸欣哉社長兼CEO(最高経営責任者)によると、D&Iで特に大切なのが「人口の半分を占める女性がもっと管理職になって、経営に参加できるようにすること」だと語る。しかし、同社の女性管理職は5.9%(2021年3月現在)しかいない。女性の管理職を増やすには、若手の登用、外部からの人材登用、女性が働きやすい環境の整備が必要だという。
履歴書に性別も顔写真も不要、ユニリーバの本気
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス(東京・目黒)では、採用試験の際に提出を求める履歴書から性別欄を削除し、顔写真の添付と性別が類推できるファーストネームの記入も不要にした。ただ、社内でこの提案をしてから制度導入までに1年かかり、実現は簡単ではなかった。だが、導入にあたって複数の就職支援会社から賛同と支援を得られ、導入後は志願者からポジティブな声が届いているという。
東京海上は専門役員「CDIO」設置、若手女性リーダーは半数以上
東京海上ホールディングスの女性管理職は10%未満だが、準リーダー層の半数以上は女性が占めている(21年当時)。同社は21年4月から多様性担当の役員を設置するなど、性別を含め多様性を持った組織づくりに力を入れている。D&Iに力を入れる理由について、「保険会社は人こそが財産。性別や年齢など関係なく活躍できる企業にすることが欠かせない」と説明する。
マクドナルド社長、初めての現場研修で気づいた店舗の多様性
日本マクドナルドホールディングスの日色保社長兼最高経営責任者(CEO)は、マクドナルドの店舗を「ダイバーシティに富んだ職場、社会の縮図」と言う。客層の多様性はもちろん、それを迎えるスタッフも「主婦や高校生、大学生、外国人」「年代も10代から80代まで」とバラエティに富んでいるためだ。
日色社長は多様性に富んだ組織であることは、マクドナルドが存続するための必須条件だとする。「みんな違っていて当たり前、スタッフ一人ひとりが尊重され、そしてベストが出せる職場であることが大切」と語る。
セールスフォースがD&I推進でまた一手
セールスフォース・ジャパン(東京・千代田)では、D&Iの取り組みとして「LGBTQ+の当事者が働きやすい環境を整える」ために2つの福利厚生制度を導入した。
その一つ「ジェンダーインクルーシブベネフィット」は、性別適合手術やホルモン療法などの費用を補助したり、手術からの回復期間に有給休暇を付与したりする。新たな装いのための衣料品購入費まで支給する。もう一つの「パートナーシップ制度」は、婚姻に準ずるパートナーシップ合意契約や任意後見契約を締結する際の公正証書の作成費用を補助するものだ。
「気づいたらD&I先進企業」社員愛から始まった改革
シンコーメタリコン(滋賀県湖南市)は、男性社員の育休「強制取得」制度、育休中の「子連れ“出勤”」、始業時間などをスライドできる「スライドワーク」制など、D&Iで先進的な取り組みを進めている。しかし立石豊代表取締役は「『D&I先進企業』と言われてもピンとこない」と語る。
同社の取り組みは、もともと「社員一人ひとりを大切にしてきた結果」だからだ。そして、「ホワイト企業」とみられることで、よりよい人材を獲得できる上に、社員は120%の実力を発揮してくれ、それが利益につながっているという。
最後に
D&Iは少子高齢化や人材不足、グローバル化などを背景に注目され、日本でも多くの企業が取り組んでいる。多様性を認めることで、働く人にとって魅力的で働きやすい環境が生まれ、人材の確保・活用につながる。それが企業のパフォーマンスを高める。それだけに企業にとってD&Iは見過ごせないものになりつつある。今後、D&Iが企業や日本経済をどのように浸透していくか注目したい。
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