ソーシャルビジネスを通してさまざまな社会課題の解決を目指す社会起業家。対象となる課題は国際的な貧困問題から日本国内の過疎までさまざまだ。今回は特に、日本人の社会起業家が海外でソーシャルビジネスに取り組む事例を、これまでに掲載した記事からピックアップしていく。

国内外の社会課題に取り組む「社会起業家」

 社会起業家とは、社会課題の解決を目指すソーシャルビジネスに携わる人のことだ。経済産業省は「社会性」「事業性」「革新性」を備えた活動をソーシャルビジネスと定義しており、社会起業家はこれらの要素を満たした活動を通し社会貢献に取り組んでいる。なお社会起業家は活動を通して利益を上げるが、その利益は社会に還元されるのが基本だ。

 社会起業家が解決を目指す課題にはさまざまなものがある。世界的には「貧困」やそれにともなう「医療」や「教育」の問題、二酸化炭素(CO2)の過剰な排出による「地球温暖化」、女性や異なる人種・民族に対する「偏見や差別」などが挙げられる。一方日本国内では「育児」や「介護」、地方の「過疎・人口減少」、そして「地震災害・原発災害の被害」などが深刻な社会課題となっている。

 この記事では、特に国際的な社会課題に取り組む日本人の社会起業家の事例を、これまでに掲載した記事から紹介していく。

世界の子供は私が守る

 最初に紹介する社会起業家は、NPO法人かものはしプロジェクト共同代表の村田早耶香氏。取り組んでいる課題は、東南アジアで問題となっている児童買春だ。大学の授業で学んだ児童買春に衝撃を受けた村田氏は、すぐに現地に足を運んで自分の目で実態を調査し、その翌年に任意団体を立ち上げて課題解決に向けた取り組みをスタートした。

モノより心の豊かさを…新世代の社会起業家

 米ニューヨークでオリジナルの化粧品を販売するのは、Lalitpur(ラリトプール)CEO(最高経営責任者)の酒本麻衣(旧姓:向田麻衣)氏。化粧品にはネパール産のハーブを使い、これを拡販することで「人身売買の被害」に遭ったネパールの女性たちに雇用の場と収入を提供するのが狙いだ。酒本氏はさらに、被害女性たちに「化粧による喜びを伝える」心のケア活動にも取り組んでいるという。

東大生ベンチャーが挑む世界の水不足解決

 現役の東京大学大学院生、北川力氏と奥寺昇平氏が掲げる目標は「世界の水不足を解決したい」というもの。両氏はHOTARU(現WOTA、東京・中央)というベンチャー企業を立ち上げ、家ごとに水循環システムを実現するマイクロループの開発に取り組んでいる。

社会課題解決と収益を両立

 ビジネス向けの革製品ブランド「ビジネスレザーファクトリー」を運営するボーダレス・ジャパン(東京・新宿)は、これまでに約20のソーシャルビジネスを展開してきた。例えばビジネスレザーファクトリーはバングラデシュでの雇用創出を目的としている。他にも「住まい探しが難しい外国人に住まいを提供する」シェアハウス事業、ミャンマーの貧しい農家との直接取引、電子機器リサイクル事業による難民の自立支援などを手がけている。

マザーハウス山口絵理子社長、途上国で価値をデザイン

 同じく革製品のバッグなどを手がけるマザーハウス(東京・台東)のミッションも、バングラデシュをはじめとする東南アジアの発展途上国における雇用創出だ。24歳で同社を起業した山口絵理子氏は、現地従業員の健康も気遣いつつ、周囲が驚くほど高品質な製品の生産を実現している。

早期退職したメガバンク女性役員が目指すもの

 社会起業家との出会いをきっかけに新たな活動に踏み出した人もいる。みずほ銀行で初となる女性役員を務めた有馬充美氏は、多くの社会起業家から刺激を受け、「ビジネスセクターとソーシャルセクターの間をつなぐことで何か新しいイノベーションが起こせるのではないか」と考えて退社を決断したという。

 退社後は米国に留学し、ハーバード大学のプログラムを通して「一つの分野のリーダーシップだけでは対応できないような複雑な社会課題を解決するにはどうすればいいのか、自分の次の人生を意義あるものにするために何をするか」を学んだ。

最後に

 東南アジアやアフリカなど、さまざまな場所で活躍する日本人の社会起業家。取り組む社会課題はさまざまだが、現地の人や地域に貢献したい、世の中をもっと良くしたいという思いは共通だ。もちろん国内の各地域にも、日本社会や地域ならではの課題に取り組む社会起業家は大勢いる。こうした取り組みを見守るとともに、自分たちにできることも考えていきたい。

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