自分が関与したことの結果はすべて自分の責任とする「自己責任論」。専門家や識者からはどちらかというとネガティブに見られている考え方だが、日本では自己責任が求められることがしばしばある。今回は自己責任論の問題やリスクについて過去記事からピックアップする。

結果の責任は自分にあるとする「自己責任論」

 自己責任論とは、自分の行動によって起こる結果はすべて自分の責任とする考え方のことだ。たとえばある事業に失敗した場合、その失敗は事業のために行動した人に責任があるとする。「生活が苦しいのはその人の選択のせい」と考えるのも自己責任論だ。

 自己責任論は個人の責任感や覚悟につながり、その人の成長を促すという意見もある。また自己責任論では原因を自分の内側に求めるため、「なぜ?」という質問を深掘りすることが多くなり、論理的思考力を養うともいわれる。

 しかし自己責任論が行きすぎると、人は「すべて自分の責任」とネガティブなイメージにとらわれてストレスをためやすくなってしまう。また自分だけでなく他人に必要以上に厳しくなって、同僚の失敗を過度に追及したり、相手のモチベーションを下げたりしてしまう危険性もある。このため、専門家の多くは、自己責任論についてネガティブに評価することが多い。

 今回は自己責任論をめぐる専門家や識者の見解を中心に、過去の記事を紹介する。

「高福祉・低負担」の幻想から、いかに脱するか

 かつての日本社会にあった「支えあい、助け合いの雰囲気が近年失われてきているように感じる」と語るのは、連合(日本労働組合総連合会)の神津里季生会長(当時)だ。実際、ソーシャルメディアでは貧困などの社会問題に対して「そこから脱せない人が悪い」という自己責任論が展開されることも少なくない。それを悪循環だと神津氏は言う。「貧困によって余裕がなくなり、人をバッシングすることによって、社会からさらに助け合いの雰囲気がなくなっていく」というのだ。

誰もがパチンコ・ギャンブル依存症の予備軍に

 ギャンブル依存症についても、意志が弱い、自分を律することができないといった「自己責任論」で片付けられることが多い。しかしギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表理事は、それを「誤解」だと語る。「社会的に成功している人でもギャンブル依存症に陥る」とした上で、ギャンブル依存症によって生じるさまざまな問題を解決するには国を含めた取り組みが必要と訴えている。

コロナ禍で懸念高まる「教育格差」 自己責任論では解決しない

 教育の分野でも「義務教育があるのだから後は本人の努力次第」という自己責任論を聞くことがある。しかし早稲田大学准教授の松岡亮二氏によると、教育の格差は「社会経済的地位(Socioeconomic status、SES)」によって生まれるという。1970年代には「一億総中流」社会となり、高校には大半が進学し、大学への進学率も上昇したが、「生まれ」による相対的な格差は縮まってきていないとしている。

 インターネットの普及で幅広い階層が平等に高い教育を受ける機会を得ても、家庭の社会経済的地位が恵まれていない子供のうち27%ほどでは、静かに勉強できる場所がないと見る。「機会が与えられているから後は本人次第」という自己責任論では結果は出ないというのだ。

事前審査なしで後払いOK 人気の金融「BNPL」に債務のわな

 自己責任論が語られる典型的なケースが債務、つまり借金だ。確かに過剰債務や支払い遅延といった問題は本人の自制によって回避できるケースが多い一方、近年増えつつあるBNPL(後払い決済)などの金融サービスは特に金融リテラシーの(知識・能力)低い層が利用しやすい仕組みになっており、「支払い遅延を起こしやすい層をターゲットとし、遅延金を徴収して収益を得ている」との批判もある。

東レ日覺社長「ジョブ型雇用は自己責任。 ハイブリッド型の制度で 競争力を強化せよ」

 近年注目されている「ジョブ型雇用」は個人の仕事やキャリア形成に集中できるのがメリットだといわれている。だが、東レの日覺昭廣社長は「働き手にとってはこれまで以上に『自己責任』が問われることになる」と語る。「能力」を基準に社内外の人材を集めるジョブ型雇用では、同僚は仲間ではなくライバルとなるためだ。下手に有能な人材を育てると、自分のポジションが危うくなる。このため、組織の成長、企業理念などへの意識が希薄になると言う。

「成功者に学ぶ」が危うい理由

 成功者の話に耳を傾け、そこから学ぼうとするのはポピュラーな態度だ。しかし「常に正誤を判別したりそのために学んだりといった姿勢は、ともすると過度な自己責任論に発展しかねない」との指摘もある。自分は他者や外部の動きによってたまたま生かされているという認識や、時には運に身を委ねるという決断もビジネスパーソンに必要だという。

最後に

 現代の日本社会では、日常生活から教育、ビジネスに至るまであらゆるところで「自己責任論」が広がっている。確かに自己責任論が当てはまる場合があるのは事実だが、自己責任論だけでは問題の解決や社会の発展は難しい。社会や物事に対して自分がどのように考え、反応しているかいま一度振り返りつつ、バランスの取れた思考を心がける必要があるだろう。

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