精神医学や心理学の分野において、ストレス耐性や精神的回復力の意味で使われる「レジリエンス」。企業においてもレジリエンスは注目されており、レジリエンス向上を目的とした社員研修が行われることも多い。今回はレジリエンスをテーマにした過去の記事から、注目のトピックを紹介していく。
ストレスから心身を守る「レジリエンス」

レジリエンスとは、困難な状況や危機的な状況に遭遇してもうまく適応できる「精神的回復力」のこと。もともとは「回復力」や「復元力」「しなやかさ」といった意味を持つ物理学の用語だが、近年は精神医学や心理学の分野において、冒頭の意味で使用されることが多い。
レジリエンスの重要性は、ビジネスの現場でも強く意識されている。たとえば職場や仕事内容に不慣れな新入社員にとって「心が折れる」ことを防ぐにはレジリエンスが欠かせない。もちろん勤務年数にかかわらず、職務上のストレスから心身を守る上でもレジリエンスは重要だ。企業によってはレジリエンスの向上を目的とした社員研修を実施するところも増えている。
この記事ではレジリエンスが重要とされる背景やレジリエンスの鍛え方、さらに企業や国家に求められるレジリエンスについても、過去の記事から振り返ってみる。
生き方再起動 レジリエンスは「個」から
新型コロナウイルス禍によって「既存の組織」や「常識」が崩れた現代。ビジネスパーソンにとって、この「予測不能な時代」を生き抜くためにはレジリエンスが必要だ。
経営助言会社X−TANKコンサルティング(東京・港)伊藤嘉明社長の呼びかけによって立ち上げられた「300XCommunity」は、経営者たちが互いの学びや切磋琢磨(せっさたくま)を通してレジリエンスを強化する「場」として注目を集めている。目指すのは、従来の会社や団体とはまた違う、緩やかに連携するエコシステムの構築だ。
落ち込んだ気分を回復させる誰でもできる方法
特別な場がなくてもレジリエンスを鍛えることは可能だ。心療内科医で日本医科大学特任教授の海原純子氏によると「人は誰でもレジリエンスを持っている」という。
レジリエンスは性格要因やものの捉え方、サポートしてくれる人の有無といった総合力だが、ストレスに強い人の共通点として言えるのは、回復力を高めてくれるリソース(資源)、つまり自己表現の場をたくさん持っていることだという。「ストレスは怒りや不満を黙って抑え込むことによって生じることが多いので、レジリエンスUPには、抑え込んだ感情を表現する場を生活の中でどれだけ持てるかが肝要」と海原氏は語る。
人口減少社会ではレジリエンスが重要
レジリエンスは企業の経営にも必要な発想だ。水・環境分野のエンジニアリング企業大手、メタウォーターの中村靖社長(当時)は、PPP(官民パートナーシップ)の成功に必要な要素としてレジリエンスを挙げる。
同社のようにインフラを手がける企業にとって「絶対に壊れない、何があってもバックアップが稼働して大事にはならないシステム」は存在しない。そのようなシステムに頼るのではなく、「何があってもすぐに復旧できる設備」や「付帯的なサービスによるリスクヘッジ」へと考え方を切り替え、企業としてのレジリエンスを身に付けるべきだという。
「社員の幸せ」をどう追求? “コロナ後”はレジリエンス強化へ
「危機は『管理』できない。状況に応じて『対応』していくしかない」と語るのは東京大学社会科学研究所の玄田有史教授。特に今回の新型コロナ禍は過去に例がない異質の危機だ。大切なのはどんな事業であろうと、「危機に直面しても生き延びられるように組織のレジリエンスを高めること」だ。
そんな不確実性の高い危機に、どう対処したらよいのか。レジリエンスに関する研究では最近、「ブリコラージュ」という概念が注目されている。事前に定めた目標に向けて計画的に行動する「エンジニアリング」の対概念とも言える。
今、サプライチェーンのレジリエンス強化が求められている
新型コロナ禍はサプライチェーン(供給網)に大きな影響を与えた。近年、日本の製造業界では原材料費や人件費の安さからアジア・太平洋地域にものづくりの拠点を移す動きが活発になっていたが、そのことが「サプライチェーンの距離の延伸」や「供給元の偏り」を招き、新型コロナ禍により多大なダメージを受ける結果となった。
こうしたリスクは今後も発生しうると専門家は語る。「有事の際の影響を最小限にとどめ、ビジネスの継続性を高める」ためには、「各種代替候補の確保、余剰・冗長性の担保」によるレジリエンス強化が必要だという。
ウクライナ侵攻は、世界貿易の分散化に拍車をかけるか?
ウクライナ危機に端を発するエネルギー問題をめぐり、欧州と日本で明暗が分かれた。大半のエネルギーをロシアに依存していた欧州に対し、日本はロシアだけでなくオーストラリアやマレーシア、カタール、米国など複数の国に供給元を分散し、ウクライナ危機による影響を最小限に抑えているのだ。
スタンフォード大学のマイケル・スペンス名誉教授は、日本が持つこのレジリエンスに言及した上で「欧州は日本を見習うべきだ」と語る。
最後に
レジリエンスは現代社会を生きるビジネスパーソンにとって必須能力だ。特に新型コロナ禍による前例のない危機やウクライナ危機により、「人」だけでなく「企業」や「業界」、「国」にとってもレジリエンス強化の必要性が明らかになってきた。先行きが見えない時代を生き抜くためにも、レジリエンスの強化を意識していく必要がありそうだ。
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