将来の業務に必要となるスキルや知識を再教育する「リスキリング」。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)を担う人材を確保するため、デジタル分野のリスキリングは世界的に急務となっている。今回はリスキリングをめぐる日本企業の課題と、リスキリングに取り組む事例を中心に過去の記事を紹介していく。

将来の業務に必要なスキルを学ぶ「リスキリング」

 「リスキリング」とは、今後の業務において必要となるスキルや技術を社員に「再教育」することをいう。特に近年は、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応を念頭にデジタル関連の教育に力を入れる企業が増えてきた。これは日本だけでなく海外も同様で、2020年1月に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)では第4次産業革命に対応した人材を育てるための「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」が発表され、「2030年までに世界で10億人をリスキリングする」ことが宣言されている。

 「リカレント教育」や「生涯学習」もリスキリングに近い概念だ。ただしリカレント教育は「一時的に仕事を離れて学ぶ」ことを前提としているため、「就業しながら学ぶ」リスキリングと異なる。また生涯学習は業務と関係ない分野も広く学習対象となるのに対し、リスキリングの学習対象は業務に関するものになっている。いずれも現代のビジネスパーソンにとって重要な学びだが、特にリスキリングはデジタル人材の確保やAI(人工知能)では補えない付加価値の高い人材育成のために欠かせない。

 すでに日本ではいくつもの企業や教育機関がリスキリングに取り組んでいる。しかし独立行政法人情報処理推進機構の『DX白書2021』によると、デジタル分野での今後の変革を担える人材は量・質ともに大幅に不足しているという。

 この記事ではリスキリングをめぐる現在の課題や企業の思惑、実際にリスキリングに取り組む事例やそれを支援する取り組みなどについて過去の記事から振り返る。

企業の思惑と個人の本音 リスキリング調査で見えたすれ違い

 IT人材が慢性的に不足する中、世界中でリスキリングの重要性が認識されつつある。これは日本企業も例外ではなく、国もデジタル化に向けた人材育成を積極的に後押しする意向だ。

 しかしリスキリングに対する企業(経営者側)の認識と、社員の認識にはズレが見られる。ビズリーチ(東京・渋谷)が2021年10~11月に行った調査では、企業も個人もリスキリングの重要性を認識する一方で、企業には個人ほどの危機感が見られないという結果になった。

リスキリングで変化に強い人材を 学び続ける風土つくれ

 リスキリングが注目を集める一方で、意識すべきなのは「リスキリングは手段であって目的ではない」という点だ。また破壊的なイノベーションが次々と生まれる現代において、リスキリングに終わりはない。早稲田大学の白木三秀名誉教授は「10年に1回は自分自身のナレッジを立て直す」、「リスキリングをはじめ学び続けることが、非連続のイノベーションに対応できる人材の育成につながる」と語る。

 とはいえ日本企業はスキルを身に付けようとする社員に対する評価制度が未熟だという。リクルートのHR統括編集長、藤井薫氏はこの点について「失敗しても学び続けることが大事であるという企業風土をつくることが不可欠だ」と指摘している。

美大に通うエリートたち、リスキリングが革新を生む

 「日本を代表する大企業のエリート社員たち」が、東京都世田谷区の多摩美術大学のキャンパスでリスキリングに取り組んでいる。学んでいる内容は「デザイン思考」だ。このプログラムを学んだ社員たちには、それぞれの会社で「ロジカル思考だけの計画書では通用しない」「破壊的なイノベーションに対応した」事業企画を生み出すことが期待されている。

 多摩美の講義に共通するのは単にデザインのスキルといったものを学ぶのではなく、物や動きを見て、何が課題なのか、ひたすら考え言語化していくことだ。リスキリングは、何もデジタルスキルを身に付けることだけを指すのではない。

全社員をDX人材へ、SOMPOホールディングスの危機感

 一方、SOMPOホールディングスでは、国際的にニーズが高まるDX人材の確保に向けた取り組みを進めている。国内グループの全社員にあたる約6万人が受講する、DXの基礎研修をはじめとした「デジタル人材育成」構想がそれだ。

 同社ではデジタルに弱い人材を「負債」ととらえ、若手から50代まですべての社員を「資産」に変えることを目的に、AIやビッグデータ、アジャイル開発、デザイン思考といった新たなスキルを身に付けさせるためのリスキリングを実施する。

社会人のリスキリング手助け 新興スクー、無料の生放送授業で急成長

 リスキリングを支援するサービスとして注目を集め、急成長しているのがスタートアップ企業のSchoo(スクー、東京・渋谷)だ。同社は現役ビジネスパーソンやコンサルタントなどが講師となった社会人向け教育コンテンツを365日放送している。ほとんどの生放送分は無料で、録画放送も月額980円という低価格で視聴できる。

 同社の企業向けサービス「Schoo for Business」の契約企業は、すでに2400社を超えているという(2022年2月時点)。

最後に

 人材不足、特にIT人材の深刻な不足に悩む日本企業には、デジタル分野でのリスキリングの必要性が高まっている。もちろんIT以外の分野でも、それぞれの業種に応じたスキルや知識を身に付けることは必須だ。リスキリングに取り組む先進事例に注目しつつ、自社や自分自身のリスキリングについて考えていくべきだろう。

 さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「テーマ別まとめ記事」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。