企業や組織の利益はもちろん、将来の社会制度にまで大きな影響を与える「生産性」。生産性が低い状態が続けば、年金制度の崩壊などにもつながりかねないという。ここでは生産性に関する問題と、生産性を上げるための方法について解説した過去のトピックを振り返る。

そもそも「生産性」とはどういうもの?

 ヨーロッパ生産性本部の定義によると「生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである」とされている。より具体的には、投入された労働力や資本に対してどれだけのモノが生み出されたかを測る「物的生産性」と、どれだけの利益が生み出されたかを測る「付加価値生産性」があり、別の基準としては労働力ベースの「労働生産性」、資本ベースの「資本生産性」、労働力・資本・原材料などをベースにする「全要素生産性」といったものもある。

 一般に「生産性」という場合は労働生産性を指すことも多いが、国や民間機関の統計ではそれぞれ目的に合った「生産性」が使われるため注意が必要だ。もちろん、いずれの生産性も「高い」に越したことはない。

 生産性の高低は、単に一企業や組織だけでなく社会全体の仕組みにも大きな影響を与える。生産性の水準次第では比較的近い将来に、「移民の大量受け入れ」や「国民年金制度の崩壊」が現実味を帯びてくる。

 今回の記事では「生産性が将来の日本に及ぼす影響」や「生産性という指標そのものの問題点」、「生産性を上げるためのヒント」に関する過去記事を紹介していく。

生産性の伸びが停滞すれば2020年代後半に深刻化

 少子高齢化による人口減少が続く近年の日本。生産年齢人口は平均すると年間100万人近いペースで減少しているが、一方で実際の労働者数を示す労働力人口は増えているという。その理由は「20代から30代の働く既婚女性」と「働く60代以上」が増えているためだ。

 しかし既婚女性や高齢労働者の多くはパートタイムで働くため、日本全体で見ると労働者1人当たりの平均労働時間は年々減少傾向にある。

 そこで重要になるのが「生産性」だ。労働力の減少に対して生産性の向上が追いつかなければ、2030年前後には余剰労働力がゼロとなり、移民の大量受け入れが真剣に議論される可能性もあるという。

今のままの生産性なら、2052年に国民年金の積立金は底をつく

 生産性は国民年金制度にも影響を与える。国が2019年8月に公表したシミュレーション結果によると、経済成長や国民の労働参加が低い水準で推移した場合、2052年度国民年金の積立金が底をついてしまう。結果として「高齢者の所得代替率(将来の現役世代男性の平均手取り収入額に対する高齢者夫婦の合計年金受給額の比率)」は3割台まで落ち込むことになるという。

次の最重点課題は「生産性向上と人づくり」

 長期政権の維持に向けて「生産性の向上」を最重点課題のひとつに挙げた安倍首相。「働きたい人が働けるという状況をつくっていく。雇用をつくり収入が増える環境をつくっていく」一方で、人口減少を補うためにAIやIoT、ビッグデータを活用し、同一労働同一賃金の実現や時間外労働の上限規制の導入などを軸とする「働き方改革」によって生産性向上に努めていくという。

労働生産性、世界21位はどこまで信用していいのか?

 デービッド・アトキンソン氏の著書『新・所得倍増論』によると日本の生産性は「全人口ベースでは世界第27位」だという。また日本生産性本部の調査研究でも、日本の就業者1人当たり労働生産性はOECD加盟国中21位(2017年当時)とされている。

 一方で専門家の中には、この生産性の指標に疑問を投げかける人もいる。統計データの「平均値」をとるか「中央値」をとるかによって、比較の根拠となる数値が大きく変化するためだ。また「労働生産性」に偏り、「資本生産性」や「全要素生産性」を重視しない点も問題だという。

労働生産性、世界と比べず産業別比較、時系列変化を

 加えて、同じ論者によると「産業ごとの生産性」にも目を向ける必要がある。生産性は産業ごとに傾向が異なるが、「生産性の数値が高い産業」が多い国とそれ以外の国とでは、生産性の平均値を比較することにあまり意味がないという。

 「生産性」という指標を改善するためには、国同士の平均値を比較するのではなく、国内完結で、かつ産業ごとの「時系列」で比較することが有効だ。

とっとと決めれば、生産性は上がる

 生産性は「意思決定のスピード」と関連している。日本企業を含む世界の760社を対象にした調査によると「決断速度が速いほど決定内容の質も高く、決断事項の実行もスムーズで、労力が少ないことが判明した」という。

 世界と比較して生産性が低いとされる日本企業。専門家によると「問題は、会議を開き時間をかけて意思決定するのを是とする日本企業の体質にある」。「やらなくても済む会議はやめる、必要な会議は最短時間で済ます」ことで生産性は向上するものの、日本型組織の構造上の問題や日本人にありがちな気質が問題解決を難しくしているという。

生産性を高める4種のコミュニケーション術

 生産性向上に役立つノウハウのひとつに「やらないことリスト」がある。やらないことをあらかじめ決めておくことで、生産性向上と時短を両立できるという。

 加えて、4パターンのコミュニケーションスキルも重要だ。4パターンとは具体的に、


  • 相手に気持ちよく話してもらうスキル
  • 相手がうまく話せなくても意図を理解できるスキル
  • 上手に話せるコミュニケーションスキル
  • 素早く反応して安心してもらうコミュニケーションスキル

 のことをいう。これらのコミュニケーションスキルをマスターすれば、社内のコミュニケーションが楽になるだけでなく、生産性の向上にもつながるという。

[議論]D・アトキンソン「生産性向上へ最低賃金を上げよう」

 1990年にゴールドマン・サックス証券金融調査室長として来日し、日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表したデービッド・アトキンソン氏。

 アトキンソン氏によると、日本の生産性向上の鍵となるのは「最低賃金の引き上げ」だ。デフレを口実に賃金を抑制する企業経営者の姿勢は、労働者の生産性を下げ、日本経済をダメにしているという。

 アトキンソン氏の主張に対しては「生産性向上があって初めて、最低賃金を引き上げられる」との指摘もあるが、こうした声に対して同氏は「思考停止と同じ」「ただの感覚的な反論」と手厳しい。

最後に

 企業や業界、さらには国の制度にも影響を及ぼす「生産性」。少子高齢化によって生産年齢人口が減り正社員とパートタイマーの比率が変化する中、生産性の向上は生活の安心のためにも欠かせない。生産性を向上させるノウハウやヒントには、さまざまなものがある。労働者一人ひとりが当事者意識を持って、それぞれに可能な取り組みを進めていく必要がある。

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