突発的な事故や災害など、すでに発生したトラブルに対処するには「危機管理」能力が必要だ。今日、危機管理能力は民間から政府機関にいたるまであらゆる立場の人に求められている。今回は過去のトピックの中から、危機管理についての失敗例や基本的な考え方を紹介する。

そもそも「危機管理」とはどのようなもの?

 「危機管理」とは、突発的な事故や犯罪、災害などによって発生するトラブルに対処することだ。似たような言葉に「リスク管理」があるが、リスク管理が「トラブルを未然に防ぐ」ことであるのに対し、危機管理には「すでに発生したトラブルに対処し、それ以上の事態の悪化を食い止める」役割がある。

 突発的に起こりうるトラブルの内容・規模はさまざまだ。特に近年では、インターネットをはじめとする通信技術が発達した現代ならではのトラブルもある。このため危機管理能力は、個人や法人、さらには民間か公的機関かを問わずすべての人が身に付けておくべきスキルだ。

 しかし現状はというと、危機管理能力の欠如による失敗事例は後を絶たない。また過去の失敗事例や近い将来に想定されるリスクを踏まえて、危機管理能力の向上を訴える識者や専門家は多い。

 今回の記事では、これまでに掲載された記事を通して「内外の危機管理の事例」や「危機管理に関するヒントや提言」などを振り返っていく。

危機管理の優等生 旭化成の誤算

 まずは民間レベルの「失敗事例」から見ていこう。2015年10月に開かれた、旭化成の浅野敏雄社長と平居正仁副社長ら(いずれも当時)の謝罪会見だ。

 発端となったのは、横浜の分譲マンションで発覚した「欠陥工事」と「データ偽装」だ。いわゆる「傾きマンション」として有名になったこの事件では、設計・建設に関わった当事者のうち旭化成のみが記者会見を開いた。その背景にあったと考えられるのが、過去の経験に基づく「危機管理の優等生」という自負だ。

 しかし今回の記者会見は開催自体が「発覚の1週間後」という微妙なタイミングだったうえ、「社長の涙」「希望的観測を含む仮定の話」「特定社員の批判」「個人的な感想」といった「NGポイント」の行為を連発。インターネット上では旭化成への批判が長期間にわたって書き込まれ続ける結果となった。

炎上上等! キングコング西野氏に学ぶ危機管理

 旭化成の失敗事例を際立たせたのは「インターネット上での炎上」という現代ならではの要素だ。この点、率直な物言いや多方面での活躍で賛否両論を巻き起こし、「炎上芸人」との異名を持つ西野亮廣氏のインタビュー記事は興味深い。

 1999年にお笑いコンビ「キングコング」としてデビューした西野氏。1年目からテレビ出演を果たしたこともあり、嫉妬や批判を浴びてきた。「批判を浴びなかった時期がないぐらい」逆風にさらされてきたという。その中で身に付けたのが「体の振り方」。向かい風の中でヨットを進ませるのと同じように、たとえ自分への風当たりが強くてもそれを生かす方法はあるという。

 インターネットで誰もが気軽に情報発信できる現代は、個人にも常に炎上リスクがつきまとっている。「もうヨットの話を小学生から教えた方がいいんじゃないですか。ヨットみたいに向かい風を追い風に変えればいいんだよといって」と話す西野氏。このメッセージを危機管理のヒントとしていきたい。

朝鮮半島有事を考えた場合、日本の危機管理は極めて不十分

 国際レベルでも危機管理能力は重要だ。「朝鮮半島有事を考えた場合、日本の危機管理は極めて不十分」だと指摘するのは、元外交官で評論家の宮家邦彦氏。特に韓国で事業展開する日本企業の場合、危機管理のため具体的な「有事」について真剣に検討しておく必要があるという。

20年前、サイバーや災害の危機管理を訴えた佐々淳行氏

 警察官僚として活躍し、内閣安全保障室の初代室長も務めた佐々淳行氏。2000年のインタビューではサイバーテロや大規模災害、原子力事故などへの「危機管理」を訴えた。

 佐々氏によると「現状の警察の体制は、新しい型の犯罪に何の対処もできない仕組みになっている」という。特に警察庁生活安全局、警察安全部といった国民の生活や生命を守る部署は軽視され、結果として「オウム真理教事件」や「和歌山のヒ素カレー事件」では危機管理不足が露呈した。

 国の危機管理の能力を高める方策として「国の事務、地方の事務の再配分」や「警察機関への専門家のヘッドハント」「勤務評定制度と人事の見直し」「警官増員と外勤給与倍増」などを挙げる佐々氏。20年前の提言とはいえ、現代でも注目すべき内容だ。

新型コロナ特措法、緊急事態宣言以前に問われる知事の危機管理能力

 最近では「新型コロナウイルス」に対する危機管理が話題になった。特に「首相による緊急事態宣言」と「都道府県知事の対応」は注目を集めている。

 緊急事態宣言を出すのは政府だが、具体的な措置を講じるのは各都道府県の知事たちだ。それぞれの知事が「意思決定するプロセスと内容」は、知事本人の危機管理能力を示す指標となる。

 この点、国に先駆けて独自の緊急事態宣言を出した「北海道知事」、国のPCR検査基準にこだわらず徹底的な追跡調査を行った「和歌山県知事」、感染者の症状やリスクに応じた独自の入院基準を確立した「大阪府知事」は評価が高い。

 その一方で、右へならえの消極姿勢や政府批判に終始する知事もいる。それぞれの知事には「有事に力量を発揮する」こと、県民には「自分の自治体のパフォーマンスの良しあしを厳しい目でチェックする」ことが求められている。

新型コロナ最悪シナリオを8年前に想定したドイツの危機管理

 ドイツの専門家チームは「新型コロナによる最悪シナリオを8年前に想定していた」という。政府の国立感染症研究機関や連邦防災局などが作成した「2012年防災計画のためのリスク分析報告書」には「変種SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスによるパンデミック」として、現在の新型コロナ拡大の状況に酷似したシミュレーションが掲載されている。

 作成チームは「想定シナリオは現実の状況とは無関係」と言い切るが、最悪の事態を想定した文書が作成されて議会に提出されたという事実は、ドイツの危機管理能力の高さを物語っている。

最後に

 新型コロナウイルスの世界的な拡大が続く中、今あらためて「危機管理」への意識が高まっている。インターネット上の炎上から未知のウイルスによるパンデミックまで、いつ、どのような災害に巻き込まれるかわからない以上、常に危機管理意識を高めておくことは重要だ。身の回りの成功事例・失敗事例はもちろん、経験者や専門家のアドバイスにも耳を傾けながら、自分なりの「危機管理」を検討してほしい。

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