ホワイト企業の条件は? この問いに対し、給与が高く福利厚生が整っている企業や、離職率が低く、各種法令や社内規則を順守している企業とされることが多い。しかし、ホワイト企業の定義はそれだけにとどまらない。価値創造力を高めるため人材開発に力を入れる企業もホワイト企業という見方もできる。ホワイト企業とは単に、福利厚生を重んじた社員に優しい会社を指すのではないわけだ。過去のニュースを参考に、ホワイト企業の条件とは何かを考察していく。

ホワイト企業とは?

20代社員も子会社の社長にし、経営を任せる理由

 ホワイト企業とは決して、福利厚生を重んじた社員に優しい会社という意味ではない。価値創造力を高めるため人材開発に力を入れ、イノベーションに結びつける実力重視の会社のことを指す。例えば、サイバーエージェントはこれまで、様々な組織運営や独自の人事制度を取り入れてきた。その中でもユニークなのが「新規事業の立ち上げや子会社の経営を人材育成の場として活用している」ことだ。人材育成のため入社数年目、20代の社員でも、社長に据え子会社の経営を任せるなど、その大胆な発想と仕組みについては、他社も注目している。

社員の幸せを露骨に追求する会社

 一方で、年功賃金や充実した福利厚生など、いわゆる日本型雇用を貫きながら、堅実な経営を行う企業も存在する。その1つが、伊那食品工業。48年という長きにわたって増収増益を続けた企業だ。本社は長野県伊那市と、決して地の利に恵まれているわけではない。しかも、扱っているのは「寒天」という地味な成熟商品だ。にもかかわらず、1958年の創業以来、階段を上るように、一段一段、着実に成長してきた。

 寒天という成熟商品の新しい用途を徹底して開発してきた結果でもあるが、強さの本質は会社の哲学、経営者の思想にある。同社の社是は「いい会社をつくりましょう」。その言葉通り、業績や財務に優れた「強い企業」ではなく、従業員、取引先、顧客、地域社会など会社を取り巻くすべての人々にとって「いい会社」であることを目指しているという。従業員の幸せを願う気持ちが従業員のやる気を引き出し、取引先や社会を思う思想がファンを生み出した。この循環が、伊那食品工業の強さの本質なのだ。

「期待の星」ほど早い決断 辞める理由の大誤解

 年功序列の日本型雇用では、若手にチャンスが回ってくることが少ない。その結果、有望な人材が外部に流出してしまうということもあるという。新入社員の3人に1人が3年以内に退職する時代になり10年。若手の早期退職自体はもはや珍しいことではない。しかし、人事分野の専門家であるリクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所の古野庸一所長は「3割という比率は変わらなくても、中身は変わっている」と語る。具体的には、仕事をこなすのがやっとの平凡な若手ではなく、企業がより必要とする優秀な人材ほど会社に見切りを付けるようになっているという。有望株が辞める理由は、人事部や先輩社員が考える一般的な理由とは異なるケースが少なくないのだ。

NECが「新卒でも年収1000万円」制度を導入した真意

 ホワイト企業の条件として頭に浮かぶのは、やはり高い給料だろう。しかし、NECが2019年10月から新たに導入した賃金制度は、新卒一括採用などに象徴される「日本型雇用」と比べるとかなり異なる。背景には、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)や国内のメガベンチャーとの激しい人材獲得競争に直面し、何とかして優秀な研究者を獲得したいというNECの焦燥がある。従来の年功序列的な要素を残す賃金体系は維持しつつ、学会発表の実績などを基に社員の技術レベルを4段階に分類した等級制度を新たに設けている。この新しい制度では、新卒でも実力次第では年収1000万以上になることがあるという。年功序列で安定した給与という、従来のホワイト企業のイメージは、実力主義へと変わりつつあるのかもしれない。

 NTTは1億円 研究者待遇、世界基準に

 こうした動きはNECだけではない。NTTも、スター研究者に年1億円の報酬を出すことが明らかになり、話題となった。19年7月8日、NTTはシリコンバレーの3つの研究所で先端研究に乗り出すことを披露する式典を開催した。それに先だってインタビューに応じたNTTの澤田純社長は「研究者の報酬は米国現地の水準に合わせていく。日本ではエキスパートでも年収2000万円程度だが、その5倍を超えるケースも出てくるだろう」と明かした。つまりスター研究者には、1億円以上の報酬を出す用意があると言う。

「世界に打って出る」日立、給与を変えないと無理だった

 日立製作所も、15年から日本で前例が多くない、職務給という給与制度を取り入れている。09年3月期に製造業として過去最悪の赤字を計上した日立は、この10年間で何もかもが変わった。海外に打って出るしか生き残るすべはなくなり、海外売上高比率は14ポイント増えて55%になった。30万人以上いる従業員も、海外人員が14万人を占めている。グローバル化を進める上で避けて通れなかったのが給与制度改革だ。海外で事業を広げようとしたら「日本だけ制度が異なるのでは立ち行かなくなった」と人事担当の中畑英信執行役専務は語る。外国人が次々に入社し、日本人と肩を並べて働き始めたためだ。

不足する先端技術人材 ダイキンが不自由しない理由

 給与制度だけではない。採用の仕方も、柔軟に対応する企業が増えてきている。AIやIoTといった先端技術の専門家は世界中で不足している。経済産業省のリポートでも、こうした高度IT人材の不足は日本でも同じ状況にあることが報告されている。転職市場でも専門家を求める求人は年収提示額が右肩上がりだ。

 採用ができないなら、育てればいい。そんな戦略を選んだのは、ダイキン工業だ。企業内大学であるダイキン情報技術大学の授業内容は大学の専修課程にも劣らぬ内容だ。会社に移籍してきた情報工学の研究者などが教べんを執っている。教育した人材が働いて会社の利益に貢献し始めるのは早くても入社から2年後。思い切った先行投資といえる。未来に備えて、人材に適切な投資を行う。これは前述したホワイト企業の条件の1つなのかもしれない。

革新の種は社内に、シーメンス支える知財部隊

 ドイツの産業政策「インダストリー4.0」の旗手として、IoTを活用した工場のデジタル化を進める独シーメンスも、イノベーションにつながるような制度構築を行っている。社内に革新の種まきを急ぐ。その核となるのが知的財産戦略だ。シーメンスが14年から本格的に手を付けた知財戦略は、単に発明の数を増やすのではなく、「新たな価値を確実に生み出す発明」を増やすことを目的にしたものだ。

 知財部門トップのビート・ウェイベル氏は「確かに発明は重要だが、それだけではイノベーションは生まれない。最終的なビジネスの形をイメージしたうえで知財戦略を進めることが求められている」と強調する。知財部門の主要なミッションは、研究開発部門が生み出す発明を機械的に特許化することではない。事業部門の最前線に入り込み、生み出された技術がビジネスで中核的な価値を発揮できるかどうかを研究者よりも早く見極めることだという。

最後に

 ここまで過去の記事を参考に、ホワイト企業の条件とは何かを考察してきた。冒頭で紹介した通り、ホワイト企業とはイノベーションにつながるような人材支援や投資を行っている企業のこと。従来の日本型雇用で安心して働ける優良企業、というイメージだけでは語れなくなってきたようだ。

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