育児中の女性がキャリアアップの道を断たれ、仕事に対するモチベーション維持が困難になる「マミートラック」問題。少子化などによる労働力不足が深刻化している日本において、マミートラックは小さくない問題。今回はマミートラックをテーマにした過去の記事から、関係者の声や企業の取り組み事例を紹介する。

女性のキャリアアップやモチベーションを阻害する「マミートラック」

 マミートラックとは、産休や育休から復帰した女性が出世コースから外れたり、キャリアアップが難しくなってしまったりする状況を指す。1988年の米国でこの言葉が生まれた当初は、「産休・育休から職場復帰した女性が働きやすい社会づくり」というポジティブな意味合いで使用されていたが、現在の日本ではネガティブなイメージで使われることが多い。

 背景には、育児中の従業員が労働時間の制約を受けがちなこと、それにより単純作業しか割り当てられないことが多く、本人のキャリア形成やモチベーションの維持が難しいといった事情がある。特にモチベーションの低下は他の従業員に広がることも多く、従業員の確保と生産性の維持という点で大きな課題となっている。

 マミートラック問題への対応は、企業によってさまざま。時短制度やフレックス制度、育休制度の拡充といった社内制度を活用したり、テレワークや在宅ワーク、あるいはワークシェアリングを容易にしたり、といった働き方改革に取り組むことが多い。社内託児所を整備したり、従業員がベビーシッターなどを雇いやすくするための補助金制度を設けたりする例もある。

 マミートラック問題の解消は、企業にとっても従業員にとっても容易なことではない。この記事ではマミートラック問題に取り組む関係者の声や企業の事例を過去記事からピックアップしていく。

問題解決なくして企業の成長なし

 マタニティハラスメントの問題に取り組む、マタハラNet代表の小酒部さやか氏によると、マミートラックは「マタハラの“親戚”」だという。マミートラックに乗せられた女性が「自分の意志とは関係なく、補助的な仕事しか与えられなかったり、閑職に追いやられて」しまったりするためだ。

 マミートラックを含むマタハラ問題の解決は、労働力人口の減少や少子化の進展、生産性の低下といった日本経済全体の問題の解決につながるという。

上野千鶴子「男性稼ぎ主モデルからの脱却急げ」

 認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長の上野千鶴子氏は、「日本型雇用は組織的・構造的に女性を排除する効果がある」と指摘する。特に企業が用意する育休や産休などの子育て支援制度については、「権利というより出産ペナルティーのようなもの」と手厳しい。

 ただし問題なのは制度そのものではなく、制度を利用した女性が復帰後に低い評価を受けたり、キャリアや仕事の内容が限定されたりすることで、本人の意欲が冷却されてしまうことだという。「優秀な女性ほど、そのような会社を辞めていく」と上野氏。

「誰もが階段を上る」キャリアが女性の社会進出を拒んでいる

 雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏は、ワークライフバランスが保証される欧米に対し、「日本企業は、皆が一生階段を上り続ける制度で、ドロップアウトができない」という。選択の余地のないキャリア志向の中で、育児から復帰する女性は大きなハンディを背負うことになる。

 海老原氏によると、マミートラックは女性にとってマイナスなだけでなく、男性も「『死んでも階段を上る』十字架を背負うことになる」という。

意欲ある女性は大企業へ? 中小企業の女性活躍どう推進

 マミートラック問題について、「女性にもいろいろな考え方やライフステージの人がいる。育児などの理由があって一時的に頑張れないのか、本当にやる気がなくなったのか、しっかりと見極めることが大事」との指摘もある。

 キャリアアップについて一律の価値観を押し付けるのではなく、まずは個人のキャリア観を把握して就業継続をサポートすること、その後に女性と経営側双方への啓発や長時間労働の排除といった働き方改革を進めることがマミートラックに対する解決策になるという。

首位は年季と伝統の花王 19年女性が活躍する企業

 日経WOMANなどがまとめる「企業の女性活用度調査」。上位にランクインする企業はいずれも、マミートラックを含む女性社員の課題に対して真剣な取り組みを進めている。

 19年調査で第3位の日本IBMが実施する女性リーダー候補育成や、第10位の三井住友海上火災保険が階層ごとに実施する女性管理職養成研修もその一例だ。

最後に

 日本では否定的な意味で語られることの多いマミートラック問題。その背景にはキャリアアップに偏る日本型企業の価値観や、男性は仕事・女性は家庭という伝統的な価値観がある。しかしグローバル化が進む現代において、日本企業には従業員それぞれのキャリア観を尊重する仕組みと、それに応じたキャリアアップ制度が必要だ。すでに先進的な取り組みをしている企業はもちろん、新たな取り組みを始めようとしている企業にも引き続き注目していきたい。

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