メーカーでありながら問屋の機能を兼ね備え、コスト競争力を強みに成長を続けるアイリスオーヤマ。2018年に社長が交代したが、ユーザーに貢献するという企業姿勢に変化はない。その成長と経営理念が分かるトピックを振り返る。

メーカーでありながら流通まで手掛けるアイリスオーヤマ

 ペット用品から家電まで、日常生活に関係する幅広い商品を取り扱うアイリスオーヤマ。コロナ禍では、国産マスクの製造販売に参入したことでも話題になった。

 同社の強みは、トップによる素早い判断のもと、次々と新製品を開発する企画力と、メーカーでありながら流通まで自社でまかなうことによる低コスト体質。常にユーザーの視点に立ちながら、大手メーカーにはない発想と素早さでビジネスを展開している。

 アイリスオーヤマでは、2018年に社長が交代した。だが大山健太郎会長(前社長)の掲げる「人助けの代わりに利益と売り上げを少し頂く」という企業観は、息子の大山晃弘社長にもしっかり引き継がれている。

アイリスオーヤマ、何でも「自前」で安さ追求

 仙台市に本社を置くアイリスオーヤマでは、約2万5000点の「暮らしに関わる」商品を取り扱っている。たとえばLED(発光ダイオード)照明やデスク、収納用品、ペット用品といった具合だ。こうした商品は高い品質を持ちながら、価格は他社より低めに設定されている。

 安さの秘密は、製造から流通まで「何でも自前で」行うことだ。同社では国内14カ所の工場に「自動倉庫」を併設し、全国の小売店に直接納品している。メーカーでありながら問屋機能も兼ね備え、圧倒的なコスト競争力を獲得している。

 原価から価格を決めるのではなく、「消費者がどのくらいの価格であれば買いたくなるか」を基準に値付けをするのも強みだ。開発や生産部門からすれば、常識外れの値付け方法だが、大山会長は「4000円のものをどうすれば2000円で作れるのかと考えることで知恵は出てくるもの」と言い切る。

アイリスオーヤマ、家電で「なるほど」の源泉

 アイリスオーヤマは、大手メーカーがしのぎを削る「家電」にも参入している。同社の強みは価格の安さだ。17年にはルームエアコンを発売したが、価格は競合メーカーの3分の2程度だという。もちろん性能にもこだわっており、「同じスペックを持つ他社品がない」と胸を張る。

 同社はルームエアコンの発売以前から、炊飯器やふとん乾燥機といった小型家電を数多く手掛けてきた。快進撃の背景には、社員の企画力に加えてトップの決断力がある。開発に関わる役員が原則全員出席する「プレゼンテーション会議」には社長も参加し、直接ジャッジを行う。売り上げに占める新商品(3年以内に発売された商品)の割合を5割以上にしていくのが同社の方針だ。

アイリスオーヤマ、国産マスク参入が生んだ思わぬ効果

 20年のコロナ禍で、国産マスクの製造・販売に参入したアイリスオーヤマ。比較的高額なテレビや家庭用調理家電に加え、マスクをはじめとする家庭用品の売り上げが大きく伸びた。それにより、20年12月期のグループ売上高予想を前期比20%増の6000億円から同40%増の7000億円に上方修正している(20年8月当時)。

 同社がマスクに参入した効果は、売り上げアップだけではない。これまでホームセンターでの販売が主軸だった同社では、スーパーマーケットへの販路拡大が数年来の課題だった。しかし「引く手あまた」の国産マスクが突破口となり、次第に乾電池やLED電球、そして家庭用品の販売拡大につながったという。

元祖・心意気企業、アイリスオーヤマが「善行」ばかりする理由

 アイリスオーヤマは「周囲が危機的状況に陥ると、経済合理性にとらわれず、顧客や取引先、従業員、社会のために動く」という印象が強い企業だ。

 11年3月の東日本大震災の際には「日本の電力の約15%を使っている照明をLED化すれば、6%の電力削減が見込める」と判断。震災発生から10日後にLED照明工場の生産能力を3倍に引き上げるように大山健太郎社長(当時、現会長)が指示した。20年のコロナ禍でも、約30億円を投資して月1億5000万枚の国産マスクの製造に踏み切った。

 「善行」の対象は消費者ばかりではない。15年には、3500人の希望退職を実施したシャープをはじめ業績が悪化した家電大手から、職を失った約70人のベテラン技術者を率先して採用。さらに消費税増税の際は、グループ正社員約2500人を対象に2%のベースアップを実施している。

 企業というのは本来、人々を豊かにして、助けるために存在する。ただ、人助けだけでは組織は維持できないから、人助けの代わりに利益と売り上げを少し頂く──。これが大山氏の基本的な企業観だ。

時代錯誤の価値観より「今」を教えよ

 ペット用品から家電まで手掛ける異色企業アイリスオーヤマの大山会長には自身の教育哲学がある。

 19歳で家業を継ぎ、今日の規模まで成長させてきた。父親の急死による突然の社長就任だったが、不安定な下請けから脱却するために「世の中は今、何を求めているかを必死に考え」、商品を開発しヒットさせた。最大の学びの場は家庭、そこで見つけたニーズが商品の種になった。

 そうした経験から、社会が求めている現実のニーズを知り、それにどう応えていくかを考えること以上に、大切な学びはないとする。

 親や教師は子供が失敗しないよう、過去の事例をいろいろ学ばせようとする。しかし、こうした「転ばぬ先の杖(つえ)」を与えると、そればかりに頼るようになり、チャレンジする気持ちがうせてしまいがちだという。「チャレンジ精神が旺盛な起業家やリーダーで、そうした過保護な教育を受けてきた人は少ない」と同氏。そしてAI(人工知能)の登場がこうした風潮を加速するのではないかと心配している。

 親や教師、さらにはAIが教えてくれることは全部、過去に基づいた話。それよりも、子供には今を知るためのニュースを読み、自分で考えることを促すべきだという。さらに「今を知る」ことに加えて、実際に行動を起こす力が大切だとする。

新社長の独白

 18年7月に父(大山健太郎現会長)からアイリスオーヤマの社長の座を引き継いだ大山晃弘氏。17年11月に次期社長就任を言い渡された際は「ついに来たか」と気が引き締まったという。

 晃弘氏は25歳で米国法人に入社し、安売り競争で慢性的に赤字だった会社の立て直しに尽力。従業員の反発などチームの立て直しには苦労したものの、適切な値付けの重要さを身をもって学ぶことができたと話す。

 こうした経験を、09年に参入した家電分野に生かしていく。家電が短期間で成長できたのは「絶妙な値付けが支持されたから。価格と機能のバランスが評価されている」とする。飽和ともいわれる家電市場だが、不便や非効率に対する「ソリューション」を届ける企業でありたいと考えているという。

最後に

 ペット用品から家電まで、幅広い商品を取り扱うアイリスオーヤマ。メーカーと問屋機能を兼ね備え、ライバルよりも安い価格と安定した供給体制により売り上げを伸ばしている。新型コロナ禍の中、20年度決算では、グループ全体で過去最高の売上高6900億円(前年比138%)、経常利益621億円(同218%)となった。18年に就任した新社長のもと、今後どのような製品を通して世の中に貢献していくのか注目される。

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