社会に新たな価値を提供する「イノベーション」。社会や経済の発展に欠かせない一方で、イノベーションを起こす個人や企業は一部にとどまる。この記事ではイノベーションに欠かせない要素やイノベーションをめぐる誤解、望ましいイノベーションの姿について過去記事から紹介する。

「イノベーション」にはさまざまな要素が含まれる

 「イノベーション」はオーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが提唱した概念で、新たな創造を通して変革を起こし、経済や社会に新たな価値を生み出すことをいう。

 日本でイノベーションというと「技術革新」を指すことが多いが、これは本来のイノベーションに含まれる一要素にすぎない。シュンペーター博士によると、イノベーションには以下の5つの要素が含まれる。

  1. プロダクト・イノベーション:技術や製品の革新
  2. プロセス・イノベーション:生産過程の革新
  3. マーケット・イノベーション:販路の革新
  4. サプライチェーン・イノベーション:原材料供給ルートの革新
  5. 組織イノベーション:組織の革新

 社会に新たな価値をもたらすイノベーションは経済発展に不可欠な要素とされる。実際、現在の社会を形作っているのは、これまで「新たに」生み出されてきたモノやサービスだ。とはいえどんなに革新的な仕組みも時間の経過とともに陳腐化していく。社会や経済が発展し続けるには、イノベーションを起こし続けなくてはならない。

 今回は過去に掲載されたイノベーションに関する記事の中から、特にイノベーションを生み出すヒントや条件を中心に振り返っていく。

イノベーションを起こすシリコンバレー流思考法

 シリコンバレーでは「新しい事業を生み出す思考法」、つまりイノベーションを起こす思考法としてデザイン・シンキングが活用されている。

 デザイン・シンキングでは、共感、問題定義、創造、プロトタイプ、テストという5つのステップを通して思考のプロセスを進めていく。特に「問題定義」を重視するため、デザインそのものの格好良さよりも相手の心情に寄り添う「ヒューマン・センタード・アプローチ」 (人が中心の思考法)ともいわれる。

 デザイン・シンキングで大切なのはスピードだ。素早くプロセスを実行(ファスト・ペイスド・プロセス)し、限られた時間の中で一生懸命アイデアを出すよう促すことがポイントだという。

イノベーションを生むアートな直感力

 アートがイノベーションに役立つという意見がある。一般にイノベーションに必要とされているのはScience,(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Math(数学)に関する知識で、この分野の日本の教育はアメリカ、中国、インドなどと比べて遅れているといわれることが多い。しかしこれらの教育を強化したところで、他国に追いつくので精いっぱいだ。

 そこでボストンコンサルティンググループ前日本代表の御立尚貴氏は、「クリエイティブジャンプを生む直感力を育む力」「頭だけではなく、心と身体を揺さぶり、新たな発想につなげる力」「分野の垣根や心理的な壁を越える力」を養うアートの力に注目する。実際にいくつかの美術館では、長年にわたり子供たちをアートに親しませる取り組みを行っている。そこに参加した子供たちの中には、その後「面白いビジネス」「感性と論理を生かしたソーシャルビジネス」を立ち上げる人も現れているそうだ。

イノベーションを支えるのは実は「文系」

 STEM(科学、技術、工学、数学)というと「理系」のイメージが強いが、シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト、スコット・ハートレー氏によると「イノベーションを起こしてきたのは文系」なのだという。

 たとえばFacebookの創業者でCEO(最高経営責任者)マーク・ザッカーバーグ氏は一般教養、語学、心理学に精通した文系。ピンタレストCEOのベン・シルバーマン氏、ペイパルの共同創設者のピーター・ティール氏、リンクトイン創業者のリード・ホフマン氏、スラックテクノロジーズCEOのスチュワート・バターフィールド氏も、それぞれ政治学や哲学、法律といった文系科目の専攻だ。

 文系がイノベーションを起こせる理由は「現実の社会やビジネスにおける課題」を理解しているからだという。とはいえ、イノベーションを起こすには理系の知識も欠かせない。「英文学が好きな人もプログラミングを学ぶべきだし、エンジニアリングを学んでいる人も哲学や文学などのリベラルアーツを勉強すべき」とハートレー氏は語っている。

イノベーションは「社内の変わり者」が起こす、は間違い

 イノベーションはアートのように「社内の変わり者がたまたま起こす」ものという誤解がある。しかし実際のところイノベーションには「方法論」があり、欧米や中国ではそれを学ぶ経営者が増えているという。

 方法論があるということは、イノベーションは誰でも起こせることを意味する。そのことを認識しない限り、日本の経営者が他の国と勝負することはできない。

イノベーションに寄与する多様性の要素とは?

 イノベーションを起こすには多様性が必要といわれる。ドイツの大学で行われた調査結果のデータからもそれが裏付けられているが、一方で多様性の中には「必要なものと必要でないもの」があるという。

 具体的には、イノベーションにプラスに作用するのは「産業、出身国、キャリアパス、性別」の多様性。これに対し「アカデミックバックグラウンド」はほとんどイノベーションに影響せず、「年齢」の多様性に至ってはマイナスに作用しているそうだ。

副業解禁がイノベーション生む

 政府が推進する「働き方改革」の一つとして、しばしば耳にする「副業解禁」。実はこの副業解禁もイノベーションを起こすカギの一つになるという。

 大前提として、職場でイノベーションを起こすには多様性の確保が肝心だ。これには文字通り多様なバックグラウンドの人を組織に取り込むことと、個人が多様性を兼ね備える(個人内多様性)ことが含まれる。副業解禁は後者に大きく貢献するため、イノベーションにつながるというわけだ。

大企業でイノベーションが阻まれるワケ

 一方、従来の大企業には「イノベーションを妨げる要素」があるという。それは組織の規模に比例して間接部門の費用が膨らんだ結果、製品開発部門の費用が削られたり、事業からの撤退や縮小を余儀なくされたりするケースだ。

 こうした「大企業の論理」に耐えきれず大企業(パナソニック)から飛び出したのが、リボンディスプレイジャパン(京都市)社長の須山透氏。会社はわずか20人程度の社員で運営されているが、だからこそ大手が採算を取れないニッチな分野で、しっかり利益を上げつつ「業界で最低水準の価格を実現」できている。

イノベーションは質が大事だ

 イノベーションというと方法論ばかりに目が行きがちだが、ノーベル賞学者でコロンビア大学経済学部教授のジョセフ・スティグリッツ氏は「イノベーションの質」にも注目する。

 たとえば2008年のリーマン・ショック直前の金融業界にはえりすぐりの優秀な人材が集まり、数々のイノベーションを生み出していた。しかしそうしたイノベーションには「他人をだまし、(少なくともかなりの期間)捕まることなく市場を操作し、市場の力を悪用する」ためのアイデアが含まれ、結果として人々の生活水準の向上には役立たなかった。オンラインショッピングやSNS(交流サイト)なども、人々の幸福にどの程度貢献しているか定かではないという。

最後に

 イノベーションを起こすには、理系の知識に加えて文系やアートの素養も重要になる。一方、イノベーションは天才や変人によるひらめきではなく確立されたノウハウによって生み出せる。日本が海外と勝負していくためには、この方法論を学ぶことが不可欠だ。企業にとっての利益ばかりでなく、社会や経済にも大きく貢献できるイノベーション。そのための方法論は、大企業からベンチャーに至るまで全てのビジネスパーソンが身に付けておくべき知識といえる。

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