国家の政策や特性を地理的要素から研究する「地政学」。特に地理的な位置関係が国家間の緊張や対立を招く「地政学リスク」は紛争の分析に利用されている。今回は国家間の関係を読み解く鍵となる地政学リスクを中心に、過去記事のトピックを取り上げていく。

地理的な要素から国の姿を明らかにする「地政学」

 地政学とは、国の特性や政策を地理的な要素から研究する学問のこと。1916年にスウェーデンの政治学者、ルドルフ・チェーレンによって提唱された。現代においても地政学は、国際政治やグローバル経済における国家の行動を説明するものとして重視されている。

 地政学のさまざまな要素のうち、特に各国が強い関心を持っているのが「地政学リスク」だ。これは地理的な位置関係が地域にもたらす政治的、社会的、軍事的な緊張が高まるリスクのことで、たとえば中国と台湾、ロシアとウクライナの関係などがその典型として挙げられる。

 この記事では地政学のうち特に地政学リスクに関連した過去記事から、近年話題となった事案を振り返る。

アフガン人の恐怖と怒り、「欧米の関与、誰のためだったのか」

 2021年8月、米軍の撤退とタリバンによる首都制圧で混乱に陥ったアフガニスタン。従来より同国はアジアと中東を結ぶ「地政学上の要衝」とされてきた。だが米国のジョー・バイデン政権による軍の撤退は地域の安定を崩壊させ、現地の人々に不安や恐怖を与えたとして国際世論からの批判の的となっている。

 欧米諸国はテロ組織の拠点となることを防ぐためや、地政学上の要衝を押さえるという理由などを掲げ、アフガンに関わり軍を派遣してきた。だが、それが本当にアフガン人たちのためになっていたのかどうかが問われている。

中国と台湾のどちらにつくか ソロモン諸島で暴動、政府と州が対立

 世界の地政学リスクを考える上で、中国と台湾の関係は外せない。しかも両者の対立は当事者間だけでなく、第三国の内政にも影響を与えている。たとえば19年に台湾と断交し、中国を公式に承認したソロモン諸島では現政権の決定をめぐり暴動が発生し、周辺国から治安維持の支援のために軍隊が派遣される事態にまで陥った。人口65万人のソロモン諸島は、大国間の地政学的な対立に巻き込まれてしまったのだ。

キリンが新興国で繰り返す失敗 ミャンマー撤退、活路はどこに

 21年に軍によるクーデターが発生したミャンマー。同国でビール事業を運営するキリンホールディングス(HD)は22年2月にミャンマーのビール事業から撤退すると発表した。同社は新興国の成長を取り込もうとする動きでは国内競合に先行したが、同時に失敗も繰り返している。

 このためキリンHDは新興国でのM&A(合併・買収)戦略を見直している。デューデリジェンス(投資先の価値やリスク査定)が難しく、地政学的なリスクが読みにくいためだ。

ウクライナ侵攻はプーチンの“アフガン戦争”、終わりの始まり

 地政学リスクが戦争に発展した最新の事例がロシアによるウクライナ侵攻だ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は侵攻の理由を「ウクライナに住むロシア系住民をジェノサイド(集団殺害)から守るため」と語るが、その真の目的はウクライナの独立を終わらせ、ウクライナに対するロシアの支配権を取り戻すことだ。

 ロシア経済は孤立を深め、着実に衰退していく。このため、プーチン大統領の地政学的野望を実現するための経済的資源はますます不足することになるだろう。

資源や原材料の調達網に打撃。エネルギー、自動車、物流……日本を襲うコスト増とモノ不足

 地政学リスクは世界経済とも連動している。ロシアのウクライナ侵攻と欧米のロシアに対する経済制裁で、欧米ではエネルギー調達や物流に深刻な影響が出始めている。特にロシア産天然ガスの輸出入制限により天然ガスの価格は約6倍にまで跳ね上がり、電気自動車(EV)の製造に欠かせないニッケルの価格も22年3月前半には21年末の3倍近くに膨れ上がったという。

 エネルギーを輸入に頼らざるを得ない日本にとって、事態は深刻の度を増すばかりだ。化石資源価格の高騰はそれを燃料として生み出される電力料金の値上がりに直結。産業界も家計もエネルギー価格高騰の影響を避けては通れない。

日本は極東のウクライナ

 ロシア、中国、北朝鮮と近接する日本は地政学上のリスクを抱える。北方領土問題でロシアと、尖閣諸島をめぐっては中国と対立し、北朝鮮のミサイル発射という威嚇にさらされる日本を「極東のウクライナ」と呼ぶ声もある。

 「今日のウクライナは明日の日本」にならないように備える必要がある。欧米と足並みをそろえることや国家防衛に関する議論は欠かせない。

半導体首位陥落のインテル 地政学リスク逆手に反転攻勢

 世界中にあるさまざまな地政学リスクを、自社のビジネスチャンスとしているのが米インテルだ。21年、インテルは半導体メーカーの売上高ランキングで首位から韓国サムスン電子に次ぐ2位に陥落した(米ガートナー調べ)。

 だが、現在は半導体製造のおよそ8割をアジアが握り、新型コロナウイルス禍や国家間の紛争による物流網の混乱などで慢性的な半導体不足が続いている。そんな中、インテルはあえて欧米や日本などに拠点を分散させてきた。コスト面や性能面で正面から競うのではなく、「安定調達ならインテル」という独自のポジションを築くことがその狙いだ。

最後に

 およそ100年以上前に登場した「地政学」。その価値は時間が経過しても変わっておらず、依然として現代の国家間の紛争や戦争、経済的なリスクなどを理解するための鍵となっている。ロシア、中国、北朝鮮に近接する日本も地政学リスクとは無縁ではない。地政学や地政学リスクをどのように理解し、どう向き合っていくべきかが問われている。

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