中国政府が法定デジタル通貨として発行するデジタル人民元。中国国内ではすでに実証実験が進んでおり、2022年の北京冬季オリンピックでは外国人にも公開された。今回はデジタル人民元の普及と基軸通貨化を狙う中国の思惑と実証実験の経緯をテーマに、過去記事からピックアップしていく。

デジタル通貨の基軸通貨化をもくろむ「デジタル人民元」

 デジタル人民元とは、中国政府が発行するデジタル通貨のこと。ビットコインなどのデジタル通貨との違いは「法定通貨」であることで、デジタル人民元は中国の中央銀行にあたる中国人民銀行が発行・流通を管轄している。

 中国政府が法定デジタル通貨(デジタル人民元)の開発に乗り出したのは2014年のこと。中国国内での実証実験を経て、22年の北京冬季オリンピック会場で外国人にも公開された。

 中国政府の狙いはデジタル人民元を「デジタル通貨の基軸通貨」にすることで、国際経済における中国の影響力を高めることとされる。一方、現在の基軸通貨であるドルのデジタル化は検討が始まったばかり(22年春時点)で、先行するデジタル人民元の動向に注目が集まっている。

 この記事ではデジタル人民元とデジタル人民元を巡る中国政府の動向を中心に、過去記事を振り返っていく。

国家と企業、溶ける境界線 テックが決めるGAFA後の覇者

 「中国人民銀行は、世界初のデジタル通貨を発行する中央銀行となる」。19年にこう宣言した中国だが、その狙いは「基軸通貨ドルへの挑戦」だという。中国政府が主導する一帯一路政策も、デジタル人民元の経済圏拡大が目的との声もある。

普及に向けて着々と進む実証実験

 20年10月に、人民銀行と深圳市によるデジタル人民元の実証実験が開始された。「総額1000万元の紅包(ご祝儀)を配る」と呼びかけ、市民5万人に200元(約3200円)のデジタル人民元を抽選で配布する華々しいスタートだ。その後も12月に江蘇省蘇州市で、ネット通販サイトでデジタル人民元を利用できるようにする実証実験、21年1月には上海市で「デジタル人民元の専用カード」を使った実証実験を実施するなど、普及に向けた準備が急ピッチで進められているという。

外国人も使用可能に、デジタル人民元の持つ可能性

 20年時点の実証実験は「抽選で選ばれた国民」などが対象とされる極めて限定的な内容だった。しかし21年5月時点では専用のデジタル人民元ウォレットが外国人も利用できるようになるなど、その範囲は急速に拡大しつつある。

「デジタル人民元」は中国社会に広まるのか?

 22年に入り、デジタル人民元の実証実験は10都市と北京の冬季オリンピック会場にまで拡大された。すでに21年10月時点で取引金額は560億元(1兆80億円)に達しているという。高齢者などスマホを持たない人向けに腕時計やブレスレット、杖(つえ)の持ち手部分に支払い機能が付いた決済端末も公開されるなど、普及に向けた課題解決も急がれている。

ジャック・マーだけじゃない消えた経営者

 一方でデジタル人民元と関連した暗い噂もある。そのひとつがアリババ集団創業者、ジャック・マー氏に関するものだ。20年末に「公の場所から姿を消した」として話題になったジャック・マー氏。一部にはアリババが運営する「アリペイ」が、デジタル人民元の普及の障害となったためという見方もあるという。

中国ビットコイン採掘業界、政府の禁止措置で壊滅状態

 21年5月に発表されたビットコインの「マイニング禁止」も、やはりビットコインがデジタル人民元と競合するためという見方がある。すでにビットコインのマイニングで世界シェアの50%強を占めていた中国がマイニングを禁止することにより、中国国内の採掘業者の多くが海外移転を図るなど、市場は混乱している。

日銀のデジタル通貨発行、「大いにある」と日銀出身のエコノミストら

 デジタル人民元のインパクトは周辺諸国に大きな影響を与えている。日本でも日銀・雨宮正佳副総裁が「デジタル社会にふさわしい、信用力の高い中銀マネーの供給体制を整備すべきだという見方は説得的であるように思う」と一定の評価をしており、将来的には日銀によるデジタル通貨発行もあり得るというのが識者の見方だ。

最後に

 中国政府が開発・普及を急ぐデジタル人民元。基軸通貨のドルや他の主要通貨よりはるかに早い法定デジタル通貨の発行は、一帯一路政策と合わせて中国の国際競争力を高める狙いがあるというのが専門家の見立てだ。デジタル人民元がどのように普及していくのか、またドルや円が続く動きを見せるのか、今後も目が離せない。

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