住民の生活圏をコンパクトにすることで、行政サービスの充実や日常生活の利便性向上を目指す「コンパクトシティ」。経済の活性化や二酸化炭素(CO2)の排出削減にも効果的とされており、富山市をはじめ全国各地で先進的な取り組みが進められている。今回はコンパクトシティの事例について過去記事からピックアップする。

持続可能な社会を実現する「コンパクトシティ」

 「コンパクトシティ」とは、住民の生活圏を一定範囲内にまとめた「コンパクトな街」のこと。公共インフラや行政サービス、民間の経済活動などに、限られた資源を集中的・効率的に使うことで、持続可能な都市・社会を実現するのが目的だ。

 コンパクトシティが必要とされる背景には、急速に進む少子高齢化問題がある。収入を得ている働き手が減ることで自治体の税収が減る中、高齢者の増加は行政にとって大きな負担となり、ひいては行政サービス全体の質の低下につながりかねない。上下水道などの生活インフラや公共交通機関の維持も難しくなり、住民の利便性も低下する。

 こうした問題の解決策の一つとなるのがコンパクトシティだ。生活圏がコンパクトになれば行政サービスが行き届きやすくなり、店舗などが一定範囲に集中することで、相乗効果として経済の活性化も期待される。住民の移動範囲が縮小することは自家用車などによるCO2の排出削減にも効果があるという。実際、コンパクトシティの先進的な取り組みとして知られる富山市は「環境モデル都市」に指定されている。

 この記事では官民の注目を集めるコンパクトシティについて、国内の事例を中心に過去記事から振り返っていく。

地方の衰退は止められる

 スマートシティの先進的な取り組みで知られる富山市。以前は他の地方都市と同様、資本力にモノをいわせて安値販売する大型スーパーが郊外に相次ぎ進出したことで、デフレや郊外への人口分散や都市中心部の地価下落が続いていた。これに対し、行政や地権者などが一体となって取り組みを進めた結果、地価の減少や人口減少に歯止めがかかりつつある。

 日本全体が人口減少社会に突入しており、これを反転させるには数十年はかかる。とりあえず、地価が最も高い中心市街地だけでも資産デフレから脱却させ、その波及効果に期待することが現実的だ。

大阪・箕面、中古住宅王国ドイツとの「類似と相違」

 2016年2月15日、大阪のベッドタウン・箕面市で「立地適正化計画」が策定された。内容は15年から35年までの20年間について、居住を促す「居住誘導区域」、病院や学校などの都市機能を集める「都市機能誘導区域」ごとに都市開発の規制や促進を行うというもの。その目的は「コンパクトシティ化による行政効率の向上」だ。

 ただし、国が旗を振り、自治体が策定を進めている立地適正化計画は、コンパクトシティ化による行政効率の向上だけに注力しており、現在住んでいる市民の住宅資産の価値を維持・向上するという視点が欠けている。そのため、自治体の思惑通りに居住誘導区域へ人々が誘導されず、お題目であるコンパクトシティすら実現しない恐れがある。

コンパクトシティ幻想から10年、大分市が大変身

 08年7月よりコンパクトシティ政策を実施してきた大分市。4年9カ月に及ぶ第1期の事業評価では「活性化には至らなかった(計画策定時より悪化)」と結論づけられたが、13年4月から始まった第2期の取り組みでは新たな大分駅ビル「JRおおいたシティ」の開業や東九州自動車道(豊前IC~宇佐IC間)の開通、大分県立美術館の開業などを経て人の流れが増加。民間事業者の集客意欲も高まるなど「大変身」ともいえる成果を生み出している。

 そのベースにはJR九州の戦略がある。同社は大分駅ビル建設に150億円を投じただけでなく、「駅ビルの一人勝ち」ではない、駅を中心とした新たな街づくりを志向、地元商店街などと連携した取り組みを深めたことが大きかった。

外国人ベンチャー争奪戦、福岡市独り勝ちの理由

 日本での起業を目指す外国人に対し、ビザの取得要件を緩和する「スタートアップビザ(外国人創業活動促進事業)」制度を活用し、外国人を誘致している福岡市。成功の背景には市とカルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する起業支援施設「スタートアップカフェ」の存在がある。加えて福岡市が「コンパクトシティ」であったことも大きい。

 空港や新幹線駅、港といった交通の要衝、県庁舎や市庁舎、そして商工会議所や地銀の本店、税務署、労働基準監督署に法務局など、あらゆる関連施設が車で30分とかからない範囲に収まっている。カフェと同じく「ワンストップ」の機能集約が外国人企業家を引きつけているのだ。

地方創生新潮流 都会の若者が島根県雲南市に集う理由

 コンパクトシティの形成や特産品開発などで成功事例がある一方、地方創生で、全国的に総じて立ち遅れているのが、ひとづくりだ。地域に根付き、活性化の核となる人材が十分に育っていない。そんな中、都会の人材が実際に移住して地域課題の解決に取り組んでいるのが島根県雲南市だ。

 同市には全国から社会的起業(ソーシャルベンチャー)を目指す若者が集まることで、別の効果も生まれている。住民たちの間の“よそ者”に対する抵抗感が薄れ、域外企業による様々なオファーを自然と受け入れる土壌が出来上がったのだ。

「急がば回れ」が勘所

 日本で進むコンパクトシティの取り組みは世界からも注目を集めている。その一つが千葉県佐倉市の「ユーカリが丘」だ。約50年前に開発が始まったユーカリが丘は、エリア内の6駅を13分間で一周する新交通システム「ユーカリが丘線」の存在や、すべての住居を駅から徒歩10分以内に配置する都市設計などでコンパクトシティの先駆けとなってきた。

 ユーカリが丘の開発を手がける山万(東京・中央)は住人が一生、ユーカリが丘に住み続けられるように工夫を凝らしている。戸建て住宅に住む高齢者から住宅を買い取り、リノベーションして若い世代に販売したり、保育園や学童クラブ、老人ホームを運営したりしている。街の活性化のために、スーパーやシネコンなどの商業施設や全国の有名病院も誘致した。

最後に

 現代の日本は、少子高齢化やそれによる地方の人口減少など多くの社会課題を抱えている。こうした課題を解決するための処方箋の一つとして注目されているのがコンパクトシティだ。国も法改正などによってコンパクトシティの推進に力を入れており、一部の自治体では成果が上がっている。こうした取り組みが今後どこまで広がっていくのか、また、内包する課題をどう解決するのか、注目していきたい。

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