著書『バカの壁』で知られる医学博士、解剖学者の養老孟司氏は、どのような人物なのか。過去のニュースを参考に、幅広く深い思考に触れていく。

養老孟司の経歴

 養老孟司氏は1937年11月生まれの医学博士で解剖学者。心の問題や社会現象を、脳科学や解剖学などの知識を交えながらひもといてきた。2003年の著書『バカの壁』は同年のベストセラーとなり、その名が世間に広まるきっかけとなった。東京大学助手・助教授を経て、1981年に解剖学第二講座教授に就任しているが、この間にオーストラリアのメルボルン大学に留学。1989年から1993年には、東京⼤学総合研究資料館(現・東京⼤学総合研究博物館)の館長を、1991年から1995年の5年間は、東京大学出版会理事長を兼任していた。

「責任の重圧に耐えられるエリートを」

 『バカの壁』が出版された際、日経ビジネスは養老氏にインタビューしている。本記事は養老氏の言葉を改めて紹介する。

 インタビュー冒頭、養老氏は著書が売れた背景について、「あの本が売れることが、そもそも変なんだよ。今までずっと同じことを書いてきたのに全く売れなかったんだから(笑)」と語った。書籍のタイトルや中身、つまり編集者の力も売れた背景にあるが、養老氏は「携帯電話とメールの出現が大きく影響している」と話した。「あれは何だと言ったら、毎日作文してるの。1億総作文。本人はおしゃべりの続きと思って書いてるわけだけど、脳の機能から言うと、おしゃべりの続きなんてものはない。書き言葉と話し言葉は脳の違うところでつくる。だから必死で頭を使ってる。そうしたら、何と新しい言文一致体が出てきた。明治以来、100年たって」。『バカの壁』で記されているのは、新しい文体の世界なのだという。

CHALLENGER

 そんな養老氏は、日経ビジネスの企画「CHALLENGER」にも登場。これは次代をつくる100人を、さまざまな経営者や著名人がピックアップするもの。養老氏が「アプリで世界に出る学者」として挙げたのが、スマートニュース会長兼社長CEO(最高経営責任者)の鈴木健氏だ。

 養老氏は、鈴木氏を同氏の著書で初めて知ったという。そのときには「若手に大変な学者がいるなあ」と思い、「細胞は膜、経済はお金、選挙は投票、扱っているテーマは当たり前に見えるが、内容はとんでもない」と感じたという。「そういうシステムを根底から改めて考えようというのである。こんな人、見たことないわ」と。

 その後、鈴木氏と対談する機会があった。学者には、神経質というイメージがあるが、鈴木氏は違った。「堂々たる体躯(たいく)で、これなら心配はない。私は解剖学の出身で、つい体格の吟味をしてしまう。頭の中は見えないけれど、体形は見える。これなら大丈夫だ」と養老氏は思ったという。

養老孟司氏が語る「今こそ青臭いことを考えよう」

 そんな養老氏は、昨今のコロナ禍にどう向き合っているのか。日経ビジネスは2020年12月にインタビューをしたが、養老氏は「コロナが世の中に及ぼした影響は、良い面と悪い面の両方がある」と語った。

 良い面は、「人との距離を見直すきっかけになっている」こと。リモートワークが普及し、都心から田舎へ引っ越す人が増えている。一方、経済については懸念を示す。もともとデフレで陰気な傾向があったのに、コロナ禍でさらに加速。「まさに負のスパイラルです」と指摘する。「コロナが来て、この後、どの程度の不況になるのか。やはり大きな問題でしょう」。

 こうした状況に対する処方箋の一つが「鎖国」だ。「あまり知られていませんが、日本は食っていけない国じゃない」と言う。日本は今、食料などを輸出入に大きく頼っているが、自前で調達できる方向へ進んでいくべきだと。

 また養老氏はコロナ禍の原因については、「これは推測ですが、人為的に起こったと考えるのが自然だと僕は思います」と述べる。

 そして、「後進に伝えたいこと」として「コロナ下で僕が意外によかったと思っていることがあります。それは暇ができたこと。仕事とは何かとか、人生とは何かとか、こういった若い⼈が考えるような⻘臭いことを大人が考えなければならなくなったこと。少し考えたほうがいいよ、そういうことは」と話した。

最後に

 医学や解剖学の観点から、心の問題や社会について、さまざまな意見を述べてきた養老氏。改めて、その見識に期待が集まっている。

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