事業拡大やコスト削減を目的として、業種を問わず多くの企業が取り組む「海外進出」。企業にとって大きなメリットがあるものの、政治、経済、商習慣などの違いからくるリスクは無視できない。今回は海外進出の事例と注意点、コロナ後の展望について追ってみた。

「海外進出」のメリット、デメリット

 企業の競争力を強化するために、海外へ販路や拠点を広げる「海外進出」。少子高齢化によって国内市場が縮小しつつある現在、製造業だけでなく、意外な業界でも海外進出に取り組む日本企業が増えている。

 海外進出の目的は、大きく分けて2つある。1つは「販路の開拓」。主に企業の拡大戦略の一環として行われている。もう1つは「生産拠点の移転」。こちらは人件費や原材料費などの生産コスト削減が狙いだ。

 海外進出は企業にとって大きなチャンスとなる一方で、人材管理に手間がかかり、現地の法規制や経済情勢、文化や商習慣の違いにより思わぬトラブルが発生するリスクもはらんでいる。

 海外進出の成功率を高めるには、他社の事例研究をはじめとする調査・分析が重要だ。ここでは過去に取り上げた海外進出の事例と、コロナ後の展望を紹介する。

自動ブレーキで損保の脱国内が加速

 2017年8月24日、三井住友海上がシンガポールへの進出を発表した。シンガポールの損保最大手ファーストキャピタルを買収し、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域での地位向上を狙うものだった。しかも、三井住友海上の持ち株会社である、MS&ADインシュアランスグループホールディングスは、同年の8月15日にオーストラリア大手生命保険チャレンジャーに440億円を出資すると決めたばかりだった。

 同社が海外進出を加速させた要因の1つは、国内市場が少子高齢化で縮小する中、国内同業との海外市場を巡る争いの激化だ。MS&ADインシュアランスグループホールディングスでは17年3月期の経常利益のうち「海外事業」が占める割合は16.2%だったが、ライバルである東京海上ホールディングスの海外事業の経常利益は29.4%に上っていた。

 もう1つ、買収を後押ししたのは、今後予想される国内での自動車保険離れだ。自動ブレーキや自動運転の進化で、事故数が減り、保険料収入の減少が確実視されるからだ。

中国で挑む農業、ブランド価値は「日本人」

 「農業」で中国進出している日本人がいる。上海で日本の技術を取り入れた農業法人を運営するのは、日系の貿易会社で働いていた佐々木祐輔氏だ。中国に残るために33歳で退社し、依思凱農業科技に入った後、13年に会社を譲り受けた佐々木氏は、わずか3年で売り上げを倍増させた。

 中国で注目されているのは、中国では珍しい「生で食べられるホワイトアスパラ」をはじめとする数々の野菜。もちろん衛生面での努力も欠かさないという。「日本人が作っている野菜」への安心感が、中国人の心を捉えている。

脱下請けの国産鍋、世界へ

 欧米メーカーが席巻する「高級ホーロー鍋」の分野で海外進出を果たしたのが、1947年創業の愛知ドビー(名古屋市)だ。もともとは大手メーカーの下請けとして船舶や建設機械向けの鋳造部品製造・精密加工業を営んでいた。07年に自社ブランドブランド製品の開発を決意。一般的な製品は数千円程度なのに、10年に3万円前後の高価格で「バーミキュラ」を発売。8年あまりで30万個を売り上げた。その後、16年には鋳物ホーロー鍋を使った炊飯器「バーミキュラ ライスポット」をヒットさせている。

 同社のホーロー鍋は、鍋とふたの隙間が0.01mm以下という精密さから来る高い密閉性や、メード・イン・ジャパンの高い品質が評判となって飛ぶように売れた。17年には下請けの仕事を終了。海外進出のため、17年9月に米国に支社を設立し、19年には米国向け製品の販売を開始した。そして、21年4月には、20年4月の発売後11カ月で15万台を受注した「バーミキュラ フライパン」が世界最高峰のドイツのデザイン賞「レッド・ドット・デザイン賞」で最高賞「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞するにいたっている。

日本旅館で「世界」にリベンジ

 ホテルの分野で本格的な海外進出に踏み出す星野リゾート。国内で1泊10万円近い高級施設などを手がける同社だが「日本旅館によるリベンジ」を掲げてハワイやインドネシア(バリ島)に宿泊施設を展開している。日本のホテル業界は90年代、海外から相次ぎ撤退した中での挑戦だ。

 海外進出にあたり、星野リゾートでは国内と同じ働き方を海外の施設にも適用している。いわば「日本旅館によるリベンジ」だ。欧米のホテル運営会社のノウハウとは全く異なる「成功の方程式」は、現地スタッフにも好評だ。

日本の食品、海外の食習慣から変える。UCCや亀田製菓

 海外での販路拡大に向けて「現地の食習慣を変える」ことに取り組んでいる食品メーカーは少なくない。たとえばフィリピンで「レギュラーコーヒーを飲む習慣」の普及を目指すUCCはその一つだ。他にも、過去に失敗したベトナム市場に再進出する亀田製菓、スティックチーズをインドネシアに普及させようとしている六甲バターなどが挙げられる。

 ただ、やはり海外と日本は異なる。食習慣を変えていくような時間がかかる取り組みが欠かせないだけでなく、予期しない事態も起こり得る。「カレーライスを人民食にする」というスローガンの下、中国で成功したハウス食品グループ本社は都市部で宅配が広がるという変化に直面した。このため、宅配業者という今までにない販路の開拓が必要になった。成功を収めるには、柔軟な対応力も必要だ。

海外進出に潜むワナ

 「伸びしろ」に期待がかかる海外市場だが、横行する「模造品」対策に頭を悩ませている企業は少なくない。トルコやドバイなど40カ国以上に「手芸用針」や「半導体検査装置で使うピン」を輸出するチューリップ(広島市)も、正規品の半額で売られる質の悪い模造品に苦しめられてきた。いたちごっこの末に10年がかりで解決したものの、この手の問題を解決するには時間もお金も必要だ。

 企業経営が揺らぐ危険すらある。東証1部上場だった化学薬品商社「江守グループホールディングス」が15年4月に民事再生法の適用を申請した。中国の取引先からの代金未回収をはじめ、中国事業の失敗が引き金となり、100年以上続いた企業が幕を下ろした。企業の成長には国際進出が不可欠となるが、与信管理の難しさにも対応しなくてはなたない。

海外進出、成功のカギは「独自性」

 ゲーム業界の中でも、特に積極的に海外進出に取り組むカプコン。同社会長兼CEOの辻本憲三氏は、成功のカギについて「独自性」を強調する。実際、カプコンを代表するゲームの「ストリートファイター」や「バイオハザード」などは、スポーツや映画などの人気キャラクターを使わずに、独自に生み出されたものだ。「数年、数十年先の成功を見据えて独自価値を見定めて磨き続けること」が大事だと、鈴木氏は語る。

「コロナショックは一過性。脱グローバル化は進まない」

 企業の海外進出(グローバル化)の動きは、20年初頭から世界中にまん延した新型コロナウイルスで一気に停滞した。感染拡大を防ぐために人や物の移動が制限されたことが大きな原因だ。

 このため、ディグローバリゼーション(脱グローバル化)が進むかのように思われているが、東レの日覺昭廣社長はそうした反動はあまりないと語る。グローバリゼーションの究極の姿は「ローカリゼーション」。企業活動に当てはめると「地産地消」だ。競争力のある立地や市場のある地域で、それぞれの生産や事業活動を進めるのが海外進出のあり方だと日覺氏は言う。どの国も互いに切っても切れない。「脱グローバル化を進めて閉鎖社会に」との考えは成立しないのだ。

最後に

 国内市場の縮小や伸び悩みを受けて、さまざまな業界で企業の海外進出が進んでいる。それらのすべてが成功するわけではないものの、企業の成長や生き残りのためにチャレンジは欠かせない。現在は新型コロナ感染拡大の影響で海外進出が滞っているものの、コロナ禍が収束すれば再び活発になるだろう。その時にどのような形で展開するか、注目していきたい。

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