移民の受け入れを巡って国民同士の意見が対立する「移民問題」。日本では主に出入国管理法の改正が議論の中心となるが、欧米では極右政党やポピュリストの躍進につながるなど政治の基盤を揺るがす問題となっている。今回は移民問題について、最近の国内外のトピックを紹介する。

日本と欧米とで受け止めが異なる「移民問題」

 欧米を中心に、世界中で課題となっている移民問題。特に欧州では、異なる文化や背景を持つ国の人々が大量に流入することで、社会保障上の障害となることや「雇用が奪われる」ことが懸念され、結果として極右政党やポピュリズムの台頭につながってきた。

 そもそも移民とは「移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々」のことを指している(国際連合広報センター「難民と移民の定義」より)。このように定義の幅は広く、他国に職を求めて正規の手続きで移住する人もいれば、母国の政治的な混乱や内戦から逃れるため、他国に密入国せざるを得ない人もいる。

 近年の欧州では後者のケースが急増しているが、日本では主に前者が中心だ。このため日本で移民問題という場合、外国人労働者の受け入れ問題とほぼ同一視されることが多い。この記事ではそうした日本と欧州の現状について、過去記事から振り返る。

既に移民国家ニッポンの岐路

 あらゆる業界で人手不足が叫ばれる中、「移民」の労働力を活用する企業が増えている。

 例えば三菱重工業長崎造船所では、フィンランド人、エストニア人、ポルトガル人、クロアチア人、ロシア人など、さまざまな国からやってきた人々が大勢働いている。その背景にあるのは人材不足だ。

 他にも100人以上の「外国人技能実習生」を受け入れるスーパーマーケットチェーン、作業員の2割がベトナム人実習生というマンション建設現場、高度な機械設計をミャンマー人技術者に頼る設計会社など、既に日本は移民国家といえるほど外国人労働者が活躍しているという。

 一方で、そうした労働者を巡る課題や問題も少なくない。 三菱重工業では2011年に11年ぶりに客船の受注に成功したものの、外国人技能者との意思疎通が不十分だったことから、度重なる作業ミスや「3度の火災」などさまざまなトラブルに見舞われたという。

 日本社会の少子高齢化を受け、外国人労働者の受け入れをさらに進めようとする日本。しかし世界では移民を巡る議論が世論を二分するなど活発化しており、今後の政策には慎重さも求められている。

上場企業の元社長「それでも移民に反対!」

 もちろん日本国内でも、移民問題に対してさまざまな意見がある。不足する労働力を補うため積極的に外国人労働者を受け入れようとする立場がある一方で、「移民」の受け入れに反対する人も少なくない。

 半導体の搬送機器などを手がけるシンフォニアテクノロジーの元社長・元会長の佐伯弘文氏も、その一人だ。佐伯氏によると、「日本の治安の良さという資産は、カネには替えられない大変な価値」だという。そして労働力や経済規模の維持と引き換えに、安全性を失うのは大きな社会的損失だと語る。

入管法改正「なし崩し移民」の期待と不安

 これまで「移民政策は採らない」としてきた安倍総理(当時)。しかし2018年の臨時国会では出入国管理法(入管法)改正を最重要法案と位置付け、「特定技能1号」「特定技能2号」という2つの在留資格を新設することで外国人労働者の受け入れを拡大する方針を示した。

 新しい在留資格の対象となるのは、特に人手不足が深刻な「建設・造船・介護・農業・宿泊」に加え、ビルクリーニングや漁業、外食業など計14分野に及ぶ。法律が成立すれば、2019年4月より施行する予定だ(予定通り、2019年4月より制度が施行された)。


英EU離脱、「まさか」が起きた

 一方欧州でも、移民問題を巡る議論が活発化している。その象徴ともいえるのが「EU離脱」を決めた英国の国民投票だ。もともとはEU「残留派」が有利とされてきたが、移民に寛容なEUの政策に不満を持つ「離脱派」が次第に支持を伸ばし、「まさか」の勝利となった。

 EUに懐疑的な主張は他の国にも存在している。このため英国での投票結果は、スペインやフランス、イタリア、ドイツなど、大型選挙を間近に控えたEU構成国にも影響を与えるとみられていた。

メルケル首相、難民受け入れ政策の重い代償

 2016年7月、ドイツで移民・難民による凶悪犯罪が立て続けに4件発生した。内容は銃の乱射や刃物による殺傷、自爆テロなどさまざまだが、多くの死傷者を出したことにドイツ国民だけでなく世界の注目が集まった。

 これまでドイツはメルケル首相のもと、移民を積極的に受け入れてきた。2015年夏以来、中東・北アフリカから受け入れた難民は100万人にのぼるという。しかし難民がドイツ社会に溶け込むのは容易ではなく、積み重なる差別意識が犯罪の温床になったと指摘されている。

衝撃の結果、欧州10カ国で移民に「ノー」

 欧米の移民排斥が止まらない。米国ではトランプ大統領(当時)がイスラム圏7カ国を対象にした入国規制を突如発表したこともあった。英国のEU離脱によるショックも記憶に新しい。

 英王立国際問題研究所の調査「What Do Europeans Think About Muslim Immigration?(イスラム圏からの移民をどう思うか)」によると、10カ国平均で55%の人が「移民の受け入れを停止すべきだ」と考えていることが明らかになった。特に多かったのはポーランドの71%で、オーストリアの65%、ハンガリーの64%がそれに続いている。

 もっとも、移民の入国制限に賛成しているのは主に「高齢者、低学歴、地方在住者」が中心だ。これらの人々の感情が、EUの基本理念の一つである「人の自由な移動」にどのような影響を与えるか、注目を集めている。

2021年は分断から協調へ。企業も多様性重視に

 2020年の米国大統領選挙で、ジョー・バイデン氏が勝利を確実にした。移民排斥を訴えていたトランプ大統領(当時)に対し、バイデン氏は多様性を重視。バイデン氏から次期国土安全保障長官に氏名されたアレハンドロ・マヨルカス氏も、新政権が率いる米国について「カントリー・オブ・ウエルカム(移民を歓迎する国)」と表現した。

 バイデン政権が始まる2021年、米国が「分断」から「協調」へと舵(かじ)を切ろうとしている。

最後に

 2010年代は、欧米でも日本でも「移民問題」がクローズアップされる時代となった。特に欧米では移民(難民)排斥の動きが強く、結果として英国のEU離脱やトランプ政権誕生のきっかけとなった。一方で日本では外国人労働者を受け入れる新しい在留資格が誕生し、米国では2020年の大統領選挙でバイデン氏が勝利した。これからの世界が再び移民受け入れに舵を切るのか注目していきたい。

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