日本が世界に誇るグローバルブランド、ユニクロを傘下に持つファーストリテイリング(以下、ファストリ)。代表取締役会長兼社長である柳井正氏は2020年ごろから「正しい経営」に取り組み始めた。正しい経営とは何を意味し、何を目指すものなのか。過去の記事から柳井氏の経営思想を読み解きつつ探る。

ファーストリテイリングの概要、沿革

 ファストリは、ユニクロやジーユーなどの衣料品会社を傘下にもつ企業。設立は1963年で、当時の社名は小郡商事。現在の「ファーストリテイリング」という社名は、商品を素早く展開するという意を込めた“Fast”と、小売業を意味する“Retail”を組み合わせたもの。国外にも広く事業を展開しており、特にユニクロはグローバルブランドとして知られている。2021年2月には、ZARAを擁するインディテックスを超えて、アパレル業界で時価総額世界1位となっている。

もう隠しません。ユニクロが工場リスト公開

 17年2月28日、ファストリは「ユニクロ」ブランドの衣料品生産を委託している主要工場のリストを公開した。中国、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、カンボジア、タイ、日本の合計7カ国、146の縫製工場の名称と住所だ。その生産規模は、ユニクロ製品の発注額の8割を超えていた。主要工場リストを開示する背景には、「サステナビリティー(持続可能性)」を重視する世界的な経営潮流がある。

 世界のアパレル企業は、委託工場の劣悪な労働環境を経営上の大きなリスクとして捉えてきた。工場リストの公表は、リスク管理をさらに一歩、前進させることになる。NGO(非政府組織)などによる監視の目にこれまで以上にさらされることになるが、同社サステナビリティ部の新田幸弘・グループ執行役員は、「今まで以上に社会から監視されることで工場も緊張感を持つようになり、労働環境のさらなる改善につながる」と言う。

柳井正氏の怒り 「このままでは日本は滅びる」

 コロナ禍の前の19年10月、ファストリの会長兼社長の柳井正氏は日本の現状に対し「最悪ですから、日本は」と語った。「この30年間、世界は急速に成長しています。日本は世界の最先端の国から、もう中位の国になっています。ひょっとしたら、発展途上国になるんじゃないかと僕は思うんですよ」と言う。

 その背景にサラリーマンがたらい回しで経営者を務める会社が多いことを挙げる。起業家の多くも上場して引退するので「日本の起業家は引退興行」と手厳しい。「今、成長しているのは本当の起業家が経営している企業だけです」とする。

 「結局、この30年間に1つも成長せずに、稼げる人が1人もいない、稼げる企業が1社もない。いや、1社はあるかもしれないですけど、国の大きさからいったらあまりにも少ない」「だからこそ大改革する以外に道はないんですよ」

ファストリ柳井氏の焦燥「変わらねば日本は潰れる」

 コロナ禍を受け、以前からの景気悪化が本物になり、さらに歴史が早く回転し始めていると柳井氏は言う。日本の「限界点」が、思っていたより早く来たというのだ。しかも「急に変化のスピードが速くなった」とする。これ以上早くなると本当に潰れるか、廃業するか、買収されるか。そういう時代になると警鐘を鳴らす。

 この困難な状況では、ピンチをチャンスと捉えられるかどうかが勝ち残りを決める要因だとする。「世界はコロナで変わったんじゃない。うわべだけのものが全部ばれ、本質的なものが要求されるようになったということです。変わる時代に合わせて行動、実行しないといけない」

企業は国民の幸せのために ユニクロ・柳井氏

 柳井氏は、かねて発信してきた「正しいこと」へのこだわりを経営の主軸として掲げ始めた。「一般に通用する正しい考え方で経営しないといけないということです。企業理念の中にも『正しさへのこだわり』を入れている。それは長期的にお客様の生活が良くなるということです」と言い切る。そうした「正しい経営」とはどんなことを指すのか。それは「ごまかしをしない」ことだと言う。企業経営者など、多くの人がごまかしてその場限りの姿勢でいるというのだ。

失敗こそ成長の源、ユニクロ・柳井氏が歩んだ道

 「正しいこと」に重きを置く柳井氏だが、これまでには失敗もあった。実際、柳井氏ほど目に見える失敗を数多く重ね、そこからはい上がってきた経営者は少ないだろう。

 父・等氏が個人で開いた洋服店「メンズショップ小郡商事」があった場所は今、一角が駐車場になっている。幼少時の柳井氏は従業員とともに寝泊まりしていた。「夜逃げする店も見てきた」と言う。「商売に不向きだと思っていた内気な少年」は、そこで商売の厳しさを実体験した。育った環境を振り返った上で自らの過去をこう分析する。「僕が唯一自慢できるのが、失敗しようとも、思っていることを実行してきたことです」

「善行」は本心か題目か ユニクロ、3年で会社が変わった

 ファストリは「持続可能性」への高まりに注目している。同社では「コロナ禍を経て、お客様の持続可能な成長に対する意識が飛躍的に高くなった」としている。20年11月に、リサイクル素材によるダウンジャケットを発売したころ、欧州では新型コロナウイルスの第2波が襲い、多くの国でロックダウン(都市封鎖)が実施された。それにもかかわらず、このダウンは「EC(電子商取引)だけで、店舗と合わせた数量が売れた」(ユニクロのメンズMD部・ウィメンズMD部部長の田中敦氏)。

 だがサプライチェーンが未確立のリサイクル素材を使えばコストがかさむ。それでもファストリは利益を確保しながら通常品と同じ価格帯で売り出した。様々な困難が伴い、リサイクルに取り組み始めてから6年という時間がかかっている。それでも継続できたのは、ファストリが進める「正しい経営」の後押しがあってのことでもある。

 だが、懐疑的な声がないわけではない。「世界や社会を良くするというのは後付けに思えた。商売のためにサステナビリティーに取り組むということだと思う」(元役員)という意見はある。一方、各事業本部は持続可能性の視点を取り入れた事業目標を作り始めている。「グループの誰かがやっている良いこと」ではなく、それぞれの社員が自らの仕事と受け止められるように仕向けるためだ。

「有明プロジェクト」 ユニクロ柳井氏が目指すもの

 ファストリが本部機能を東京湾岸に移転して進めている経営改革「有明プロジェクト」。必要な量を作り、無駄なく消費者に届けるというアパレルの究極の課題に挑んでいる。目標はサプライチェーン改革にとどまらない。プロジェクトを通じ、「正しい経営」を実現しようというのだ。

 21年1月1日、柳井氏はメールで全社員に呼びかけた。「服のビジネスを通じて社会をより良い方向に変えていく。服の領域で社会を支えるインフラになる」。ファストリの仕事の仕方も社員の意識も、そしてアパレル産業のあり方も、有明を突破口に変えようとしている。新たなアパレルの姿を体現することで、世界を変えるのだという。

[議論]ユニクロの強さは? 「パストフルネス」で考える3つの論点

 そんなファストリの強みとは何か。誰もが知る著名企業の“近過去”を遡り、ぶれない思考を養うことを目的とした日経ビジネスのウェビナーシリーズ「ケースで学ぶ『逆・タイムマシン経営論』」。その第1回はファストリの経営史を振り返りつつ、柳井正氏のぶれない経営から、経営の本質を見極めるためのヒントを探った。

最後に

 ここまで、ファストリの概要や沿革、そして同社の舵を取る柳井氏の経営思想を紹介してきた。柳井氏が掲げる「正しい経営」とは、社会において、企業とはどのような存在であるべきか、こうした視点からスタートしている。これは、多くの企業経営者にとって貴重な金言になるはずだ。今後も正しい経営はぶれずに続くのか、ファストリと柳井氏の動向から目が離せない。

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