人手不足が深刻な分野で、外国人労働者の受け入れを可能にする「特定技能」制度。特に特定技能1号では、これまで困難だった介護や建設、外食業などで外国人の受け入れが容易となり、人材確保につながると期待されている。今回は特定技能の運用を巡る最近の動きを過去記事から紹介する。

深刻な人手不足の解消が期待される「特定技能」

 「特定技能」とは、2019年4月1日に導入された新しい在留資格だ。特定技能には特定技能1号と特定技能2号があり、前者は「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向け」、後者は「特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向け」とされている。

 特定技能が導入された背景には、中小企業や小規模事業者を中心とする深刻な人手不足がある。従来の在留制度では原則として高度な専門職でしか外国人労働者を受け入れることができないが、特定技能の在留資格では介護や建設、宿泊、外食業をはじめとする14の分野(特定技能1号の場合)で外国人の受け入れが可能となり、人手不足の解消につながると期待されている。

 この記事では特定技能の導入を巡る動きから導入後の現状までを過去記事から振り返っていく。

入管法改正、「何も決めずに強行採決」の波紋

 18年12月8日に参議院で採決された「出入国管理法改正案」。日本にとって緊急の課題となっている外国人労働者の受け入れ拡大を目的とした改正法だが、具体的な中身がほとんど詰められていないまま強行採決となった。

 全国で約26万人いる外国人技能実習生の多くが、低賃金かつ劣悪な環境で労働を強いられていることも問題視されており、こうした問題が解決されないまま新制度を導入することには戸惑いや批判の声が上がっている。

求む!意欲ある外国人 介護人材、アジアで囲い込み競争

 特定技能制度の開始を受けて、アジアで人材の囲い込み競争が始まっている。例えばインドネシア教育大学では日本の介護施設へのインターンを希望する看護学生約60人に面接が実施され、次々と採用が決まっているという。専門知識を持つ看護学生に日本の介護現場を学んでもらう。インターンで日本の介護の仕事を知ってもらい、その後、特定技能で再来日し、長く働いてもらいたいというのだ。

 人材に対する評価が比較的高いベトナムでは、既に奪い合いが激しくなっており、優秀な人が採りにくくなっている。このため、インドネシアをはじめとする東南アジア各国でいち早く優秀な人材を確保しようとしているのだ。人材確保競争は激しくなる一方だ。

外国人材受け入れ 遅れる手続き、広がる困惑

 新たな在留資格として「特定技能」が導入される一方、「入国に必要な審査」には遅れが生じている。ある企業では6月に提出した申請書類に対し、10月になっても音沙汰なしだった。

 ミャンマーの人材紹介・派遣会社が出入国在留管理庁に問い合わせたところ「現在、審査しているのは5月に申請された証明書で、6月分の審査は11月、あるいはもっと先になる」という。

外国人労働者を苦しめる超ブラックな実態と根深い矛盾

 無事に入国できたとしても、外国人労働者の労働環境は「超ブラック」と形容されるほど過酷だ。危険な現場や低賃金で働かされる事例も少なくないが、日本語のできない外国人は声を上げることもままならない。専門家も「悪い方に転がり始めれば、いくらでも転がっていってしまうような方向付けが制度自体に内蔵されている」と警告している。

「特定技能」での受け入れ進まず、当てが外れた外食

 19年4月から施行された特定技能制度だが、実際の受け入れは想定通りに進んでいない。対象となる14業種のうち、特に制度に期待を寄せていた外食産業も当てが外れた格好だ。理由の一つはビザ取得のハードルが高いことだ。審査体制も十分と言い難いようだ。当てが外れた外食の現場では、留学生アルバイトの争奪戦が激しくなっている。

コロナショック 戸惑う外国人労働者 「超」人手不足時代の幕開け

 もともと低調な滑り出しだった特定技能制度だが、20年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけている。影響が長引けば生産に携わる労働力不足で供給がタイトになり、農産物や海産物など食品価格の上昇を引き起こしかねない。

 一方で、観光地の宿泊施設や物販などでは、急速な売り上げ減に伴い、外国人労働者を雇い止めにしたり自宅待機を命じたりする動きが相次ぎ、トラブルが発生している。危機に際した処遇で日本に悪い印象を持てば、ウイルス感染の拡大が収束した後、再び日本で働きたいと考える人材は確実に減少してしまうだろう。企業に慎重な対応が求められている。

最後に

 国内の深刻な人手不足を補うため、政府が導入を急ぐ特定技能制度。だが期待の大きさに対して実際の受け入れ人数は低調で、関係者からは戸惑いの声も上がっている。さらにコロナ禍もそれに追い打ちをかけており、今後の展開は見通せないままだ。新しい制度が本来の目的を達成できる日がくるかどうか、状況は厳しいままだ。

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