他社にはない強みを生かし、「高くても買ってもらえる」製品やサービスをつくり出す差別化戦略。マイケル・ポーター氏が提唱した競争戦略の1つで、国内でもこの戦略の実践により多くの企業が独自のポジションを築いてきた。今回はこれまでの記事から、差別化戦略の成功例を紹介する。

「高くても売れる製品・サービス」を目指す

 差別化戦略とは米国の経営学者マイケル・ポーター氏が提唱した競争戦略の1つで、他社の製品やサービスにない強みを生かして競争優位を築くことをいう。

 もちろん差別化といっても、単純に他社と異なるものをつくることではなく「価格が高くても買ってもらえる優位性」が必要だ。そのためには「ブランドイメージ」や「製品そのもの」「顧客サービス」「流通チャネル」などの各分野でどのような差別化ができるか検討していく必要がある。特に「USP=他社にはできない自社のみが顧客に提供できる価値」を見つけることが重要だ。

 差別化戦略をとる企業は「価格競争からの脱却」「利益率の向上」「新規参入の抑制」といったメリットを期待できる。一方で差別化戦略が値上げを伴う場合、既存客の反発や競合他社に顧客が流れるといったリスクがある。それでも国内外でいくつもの企業が差別化戦略を実施し、成功を収めてきた。

 この記事では差別化戦略で有名な国内企業のいくつかを、過去記事から取り上げていく。

新社名「SUBARU」。構想2年、議論ゼロ

 2017年より社名を「SUBARU」に変更することを発表した富士重工業。同社の市場は自動車から防衛産業にまで広がるが、そこで採用している戦略は差別化戦略と付加価値戦略だ。吉永泰之社長(当時)は「決して、量で生きていける会社ではない。社名変更も突き詰めれば、スバルを際立つブランドにするための方法の1つ」と語る。

「丸亀製麺」のトリドール・粟田貴也氏。コシの強さで危機に勝つ

 丸亀製麺をチェーン展開するトリドールホールディングス。粟田貴也社長は創業当初から一貫して差別化戦略に取り組んできたという。

 たとえば粟田氏が個人事業としてスタートした居酒屋「トリドール三番館」は、当時は珍しかった「深夜営業」や「若い女性が気軽に入れる居酒屋」として好調なスタートを切った。周囲に同様の居酒屋が出店して差別化ができなくなると「家族で行ける焼き鳥専門店」に切り替え、鳥インフルエンザの発生で鶏肉の消費が落ちると「オープンキッチンでうどんを粉から作るところを見せるうどん屋」へ切り替えるといった具合だ。

ダークストア型流通方式は今後のトレンドとなるか

 日本でダークストア(宅配専門のスーパーマーケット)を展開するOniGO(オニゴー、東京・目黒)。同社は商品のピッキングから配達までの「スピード」を付加価値として、他社との差別化を図っている。そのために配達員を自社で直接雇用し、社員教育を徹底することでサービスの質を向上させている。費用を抑えて価格を下げるためにギグワーカーを雇用するUber Eatsなどとは対照的な手法だ。

無料コーヒーが「つながり」を生む無印の新店舗

 良品計画が新形態の地域密着型店舗の運営に乗り出す。競合するコンビニチェーンとの差別化戦略として、同社が採用したのが「地域のつながり」だ。

 基本的には「無印良品」ブランドの衣料品、日用品、食品などを取り扱うが、それに加えて地域に根付いた商品を紹介・販売する「つながる屋台」、地域イベントを紹介する「つながる掲示板」など地域住民同士がつながる仕組みをふんだんに取り入れて「地域のつながりをつくるコミュニティーセンターの役割」を担っていきたいという。

ビックカメラ・木村一義社長「面白さよりも勝てるかだ」

 コロナウイルス禍が始まる前はインバウンドが追い風となっていたビックカメラだが、海外からの観光客が途絶えるのと同時に経営環境が悪化。2020年9月に就任した木村一義社長は、「購買代理人」というキーワードで売り場の変革を進めている。

 購買代理人とは(単に物を陳列して売るのではなく)「この商品を使えば暮らしがこんなに便利になる、楽しみが増える」という体験価値を感じてもらう「お客さんの側に立った会社」という意味だ。「たとえ数年かかろうとも、ビックカメラは私たちの味方だというブランディングができたら強い」と木村社長は語る。

ANAは陸でマイル圏拡大、三井住友は高ポイント還元カードで勝負

 ANAホールディングス傘下でマイル事業を手掛けるANA X(東京・中央)。コロナ禍で海外旅行の需要が途絶える中、「マイルで生活できる世界」というキーワードを掲げて他社のマイル事業との差別化を図っている。

 具体的にはKDDIの電気事業と提携した「ANAでんき」、スマホアプリの位置情報と連動したサービスの「ANA Pocket」といった新サービスを追加し、既存の「プレミアムメンバーステータス」も見直して航空機の利用が基準に達しなくてもランクが決まる仕組みを導入した。

最後に

 ライバルとの価格競争を避けつつ、高い利益率や収益を期待できる差別化戦略。しかし差別化には自社だけの強みが必要となる上、そうした強みは時間や環境の変化で陳腐化する恐れもある。今回紹介した企業の多くは、そうした危機を乗り越えてきたか、まさに乗り越えようとしている最中だ。これらの企業の行く末や、差別化戦略を採用する新たな企業の登場に注目していきたい。

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