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利益の一部を社内に蓄積する「内部留保」。輸出関連企業の好調や法人税の引き下げなどにより内部留保は過去最高を更新する一方だが、これに対し政府は「賃上げによる還元」を繰り返し要求している。今回は内部留保の現状と政府の対応を巡る過去記事をピックアップする。

「内部留保」とは何か?

 内部留保とは、企業設立から現在までの「当期純利益の累計額から配当金等を差し引いたもの」を指す言葉だ。内部留保は自己資本の一部であり、多ければ多いほど、環境の変化などに影響されにくい「強い企業」になるといわれる。このため特に日本では、内部留保を重視する経営者は少なくない。

 一方で内部留保をため込むことには批判の声もある。投資や賃上げという形で利益を還元しないため「経済に貢献していない」というのだ。政府も経済活性化のために、最低賃金の引き上げなどの施策を通して企業の内部留保を吐き出させようとしている。ここでは過去記事を通し、最近の内部留保をめぐる企業や政府の動きを追っていく。

内部留保はため込まない

 1台約3万円の調理家電が好調のオランダ・フィリップス。2001年と2002年に2期連続の連結最終赤字に陥った同社だが、当時のCEOジェラルド・クライスターリーは不採算分野を売却し、得た資金を高収益事業の買収に注ぐことで経営を立て直した。

 日本企業には内部留保をため込もうとする傾向が強いが、最近ではフィリップスと同じように「デフレ戦術の転換のために内部留保を積み増さない」と決断する経営者も増えているという。内部留保をどのように「活用」するかが企業の強さにつながっている。

政権が狙う内部留保350兆円

 企業の豊富な内部留保を景気対策に利用するため、政府が最低賃金の引き上げを検討している。全国平均798円の最低賃金を毎年3%程度ずつ引き上げ、2020年までに1000円にする意向だ(2015年12月現在)。

 企業にとって、政府の方針は人件費の増加を意味する。負担を補うためロボットの導入を検討する企業も増えており、ロボット業界には特需が訪れているという。

進まぬ賃上げに「内部留保課税」が再び浮上?

 政府が、経営者に対し、賃上げを繰り返し要請している。その背景にあるのが一向に進まない賃上げに対する不満だ。政府が法人税を引き下げたにもかかわらず、それが賃上げに回されないため労働分配率が下がっているというのだ。実際、企業の利益剰余金は現時点で377兆8689億円にまで膨らんでいる。これは過去最大となる数字だ。

 韓国では同様の問題に対処するため、賃上げや設備投資などが一定割合に満たない企業に対して追加の課税を行っている。法人税との二重課税になるためいわば「禁じ手」だが、現在の状況が続く以上、日本でも同じ手法が真剣に検討される可能性があるという。

企業の「内部留保」が4年で100兆円増加

 2016年度末、企業の内部留保が初めて400兆円を突破した。アベノミクスによる円安傾向の定着で、輸出企業を中心に利益が上がっているためだ。一方で利益の分配は十分とは言い難い。アベノミクス以前(2012年度)の労働分配率が72.3%だったのに対し、2015年度は67.5%にまで落ち込んでいるという。

 賃上げが進まない背景には「いったん引き上げた給料を下げることは難しい」という事情と、賃上げに伴って社会保険の会社負担が大きくなるという事情がある。このため多くの企業では、社会保険料負担のないパートタイマーを優先して活用する傾向にあるという。

内部留保活用で「30兆円前後」賃金上乗せ可能?

 企業が保有する剰余金については、「財務省が発表する法⼈企業統計調査」の「現金・預金」を「売上高」で割った比率」と、「日銀が発表するマネーストック」の預金通貨と準通貨における一般法人シェアという2通りの考え方がある。ただしいずれの考え方でも、現在の剰余金は30兆円前後に達するという。

 景気対策を急ぐ政府は、剰余金分を賃金に上乗せするよう企業に対し要請している。法律や税制によってそれを強制しようとする考え方もある。その一方で、賃上げに対しては「目先の景気への影響だけでなく、より多角的にロングスパンの視点で行われるべきだ」との意見もあり、各企業の春闘での賃上げ率が注目されている。

最後に

 毎年のように内部留保の数値が増え続ける日本経済界。企業経営者が内部留保をため込もうとするのに対し、政府は景気対策の観点から賃上げなどによる利益分配を迫っている。

 日本企業全体が内部留保をバランスよく活用していけるかどうか、企業の動きと政府の政策に注目が集まっている。

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