証券取引所に上場(公開)されていた株式が、市場の取引対象から除外される「上場廃止」。上場廃止にはさまざまな理由があるものの、その影響は株主はもちろん、社員や取引相手にも及ぶことが多い。今回は過去記事の中から、上場廃止した企業の事例と、上場廃止の有無を巡って大きな話題を集めた東芝の事例を振り返る。

「上場廃止」とは何か?

 証券取引所で取引されていた株式が、市場の売買対象から外されることを「上場廃止」という。上場廃止の理由はさまざまだ。例えば「倒産」によって会社が消滅した場合、「完全子会社化」によって株式売買の必要がなくなった場合、さらに証券取引所が設定する「上場廃止基準」に該当することで、「上場契約違反」として強制的に上場廃止される場合もある。

 上場廃止になると、市場での株式売買が行えなくなる。つまり企業にとっては資金調達が困難になり、既存の株主にとっては株式の売買が困難になり、一般投資家にとっては投資対象が減ってしまうのがデメリットだ。それに加え、上場廃止が企業の信用・ブランドに傷をつけてしまう場合もある。この結果、取引相手との交渉や金融機関での資金調達や、商品・サービスそのものの売り上げに影響が出ることも少なくない。

 もちろん完全子会社化の場合など、上場廃止によって企業経営が安定化するケースもある。しかし上場廃止が及ぼすさまざまな影響を考えると、上場廃止は企業経営にとって重大な局面の一つになるといえるだろう。

上場廃止、苦渋の決断

 ウィッグの製造販売をはじめ、「総合毛髪業」として高い知名度を誇るアデランス。東京証券取引所市場第1部、1997年より大阪証券取引所(当時)市場第1部にそれぞれ上場していたが、2016年に上場廃止を目指すことを明らかにした。理由はTOB(株式公開買い付け)による完全子会社化だ。

 アデランスを子会社化するのは、投資会社インテグラル傘下のアドヒアレンス。TOBが成立したのち、アデランス社長の根本信男氏と副社長の津村氏がMBO(経営陣が参加する買収)によって株式の50.1%を買収し、自社の経営権を確保する。

 アデランスがTOBとMBOによって上場廃止の道を選んだのには訳がある。一つは海外のM&A(合併・買収)や為替差損によって営業利益や経常利益が落ち込み、株価が低迷していたこと。もう一つは、株主による多数派工作によって米スティール・パートナーズの経営関与を許してしまい、経営が混乱した苦い過去があったためだ。

 上場廃止で経営を安定させた後は、得意分野であるウィッグ販売の拡大や、AGA(男性型脱毛症)対策や植毛といった成長分野への投資などに積極的に取り組む予定だという。

ゴルフ場大手アコーディア、上場廃止選んだ理由

 同じく2016年、ゴルフ場運営大手のアコーディア・ゴルフもTOBによる完全子会社化で上場廃止を決めた。背景にあるのは、ゴルフの競技人口が大幅に減る「2020年問題」と老朽化した設備の更新に伴う厳しい経営環境だという。これまでは上場企業として利益の多くを株主に還元(配当)してきたが、今後は資金を設備投資などに集中させるつもりだ。

 上場廃止の理由は他にもある。2012年に同業大手のPGMホールディングスから敵対的TOBを受けたのだ。これに反発したアコーディアは、他の株主の支持を得るため大幅に配当を増やして危機を乗り越えたが、その過程で本業への投資がおろそかになり収益の減少を招いた。

 今後は「現在運営するゴルフコースのクオリティーやサービスを向上させ、既存の顧客を大事に」しつつ、「機械化やテクノロジーを積極的に採用」することで再成長を目指していくという。

「東芝」で問われる東証の「上場廃止ルール」

 日本を代表する大企業、東芝が上場廃止の危機に直面している(2017年2月当時)。きっかけとなったのは、原子力事業の「のれん」減損額が7125億円に達すると公表されたことだ。「内部統制の不備を示唆する内部通報」を理由に、当日になって決算発表を延期した東芝。詳細な内容については明らかにしていないものの、2015年9月から東証の「特設注意市場銘柄(特注銘柄)」に指定されていることもあり、今後の上場廃止が現実味を帯びている。

 とはいえ東芝ほどの規模を誇る企業が上場廃止されると、株主にとっても再建を目指す東芝にとっても大ダメージとなる。東証は「有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」に上場廃止するとしているが、このルールが東芝に適用されるかどうかに注目が集まっている。

決算再延期で、上場廃止に現実味

 2017年3月14日、東芝が決済開示の再延長を発表した。実はこの日が開示の期限だったこともあり、東証の関係者は「論評に値しない」と手厳しい。

 同社の綱川社長は「新たな気持ちで新生東芝に取り組む。私にとっては再チャレンジだ」と語り再生計画に意欲を示すが、一部のアナリストたちからは「上場廃止の可能性は以前より高まった」との感想が漏れるなど、東芝にとって厳しい状況が続いている。

上場廃止を迫る「2つ」の対立

 経営再生をかけて「フラッシュメモリー事業の売却」手続きを進める東芝。これに対し、2000年から提携関係を結んでいる米ウエスタンデジタルが反発、両者の対立が深刻化している。

 東芝が売却する事業に対しては、韓国のSKハイニックスや台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業、米半導体大手のブロードコムなど10社程度の参入の意思を示している。ウエスタンデジタルも買収交渉に参加したいものの財務面に余力がない。そこで、過去に東芝と交わした「合弁会社の持ち分を変更する際には両社(東芝と旧サンディスク)の合意が必要」との契約書を盾に優先交渉を迫る狙いだ。

 もう一つ、決算を巡るPwCあらた監査法人との対立も東芝にとって頭痛の種となっている。両者は原子力事業での内部統制の不備や経営陣が損失を認識した時期などで意見が食い違っており、対立解消の見通しは立たない。

東芝を上場廃止にしなかった理事長の言い訳

 東芝が上場廃止を回避することになった。東京証券取引所(東証)では2015年秋に東芝を「特設注意市場銘柄(特注銘柄)」に指定していたが、東証を傘下に置く日本取引所の自主規制法人がその解除を決定したのだ。

 とはいえ、今回の決定については疑問の声も上がっている。東芝の臨時株主総会が開かれる「12日前」というタイミングだったこともあり、「決算書が承認されやすいよう大企業に忖度(そんたく)したのでは」と臆測する関係者も少なくない。官邸筋からは「東芝を上場廃止させるな」との圧力もかかっていたといい、自主規制法人の「独立性」が疑問視される事態に発展している。

最後に

 上場廃止の理由や狙いはさまざまだ。また企業にとってメリットとなるケースでも、当事者や関係者に与える影響は大きい。「上場契約違反」による上場廃止ならなおさらだ。

 上場企業の株を保有している一般投資家はもちろんだが、上場企業と取引のある企業に勤めている人、さらには一般消費者であっても、上場廃止関連のニュースに注目しておくべきだろう。

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