消費税の引き上げに伴い、低所得者の負担を軽減する目的で導入された「軽減税率」制度。酒類と外食を除く飲食料品の消費税率を8%に据え置くのが主な内容だ。しかし制度の導入やその内容を決めた背景には、政治的な駆け引きが見え隠れする。今回は軽減税率を巡る官邸の動きについて過去記事から振り返る。

消費税増税に伴う「軽減税率」とは

 軽減税率とは、政策上の目的から標準税率よりも低い税率を適用することだ。ただしここ数年の日本で軽減税率という場合、それは消費税の10%への増税に伴い導入される「低所得者向けの負担軽減措置」のことをいう。

 この「軽減税率」制度では、酒類と外食を除く飲食料品、そして定期購読される新聞の消費税率が8%とされる。ちなみに軽減税率は(10%の消費税が導入される)2017年4月から導入される予定だったが、増税が2年半延期されたため、実際には2019年10月からの導入となった。

 低所得者向けの負担軽減措置については、実は軽減税率以外にもいくつかの選択肢があったという。軽減税率の具体的な内容についても、政府や与党間の意見は分かれていた。それが現在の形に落ち着いた背景には、選挙を見据えた政治上の駆け引きがあったという。ここでは過去記事を通し、軽減税率を巡る官邸の動きを中心に追っていく。

軽減税率、「官邸主導」の舞台裏

 2015年10月、消費税増税に伴う負担軽減措置として、食料品などの税率を据え置く「軽減税率」の導入が検討されることになった。政府・与党としてはこれまで「増税分の還付」を軸とする財務省案が有力視されていたが、首相官邸側の強い意向に押し切られた格好だ。

 官邸が軽減税率を推すのには訳がある。ひとつには財務省案に対する世論の反発があるが、それ以上に重視されたのが「公明党への配慮」だという。もともと軽減税率の導入は公明党の看板政策だった。それを無視すれば公明党支持層からの反発を招き、2016年夏の参院選で惨敗するおそれもある。

 とはいえ、軽減税率の具体的な対象品目や経理方式を検討するのはこれからだ。2017年4月の増税が迫る中(当時)、残されている時間は少ない。

低所得者無視の軽減税率論

 軽減税率の対象品目について、自民党と公明党の意見が対立している。「生鮮食品のみ」か「生鮮食品プラス一部の加工食品など」としたい自民党に対し、公明党側は「酒類と外食を除く飲食料品」または「酒類を除く飲食料品」を主張しているためだ。

 両者の主張には、財源の面で大きな開きがある。自民党案に必要な財源は約3400億~4000億円だが、公明党案だと約1兆~1兆3000億円もの財源が必要だ。これほどの差がありながら公明党案を一蹴できない背景には、すでに安全保障法案をめぐって公明党に譲歩を強いてきたという事情がある。これ以上の無理強いは選挙協力に悪影響を及ぼしかねないというわけだ。

 とはいえ議論の本来の目的は「低所得者の負担軽減」のはず。財源を巡る政党間の駆け引きに対する疑問や批判は少なくない。

政権揺さぶる軽減税率の混迷

 自民党と公明党の対立に加え、首相官邸と自民党との間にも意見の相違がある。谷垣禎一幹事長(当時)をはじめとする自民党幹部が主張するのは、まずは「生鮮食品」を対象とし、後日対象品目を拡大する案。これに対して公明党は当初から「加工食品」を追加するよう主張する。この公明党案に理解を示すのが「選挙協力」を重視する菅義偉官房長官で、こうした首相官邸の態度に自民党内から批判の声が上がっているというわけだ。

 2016年度税制改正大綱が決定される12月10日までの合意を目指す当事者。翌年夏に迫る参議院選挙の行方や、ひいては現在の「安倍1強」が揺らぐ可能性もあるだけに、議論の行方が注視される。

軽減税率、「官邸圧勝」の真相

 2015年12月、軽減税率制度の大枠が決定された。官邸の強い意向を受けて、公明党が主張してきた「酒と外食を除く食品全般」が対象とされる。とはいえ1兆円にのぼる財源確保については先送りされ、2016年夏の参議院選挙をにらむ「見切り発車」となった格好だ。

 一見すると「首相官邸の圧勝」で、谷垣氏をはじめとする自民党幹部や財務省が全面的に折れたように見える結果だが、実態はやや異なるという。1兆円の財源確保が先送りされたことにより、今後は「社会保障費の削減」や「消費税率10%超への引き上げ」など、自民党幹部や財務省が主張する案が現実味を帯びてくるのだ。

最後に

 政党間の駆け引きにより紆余曲折(うよきょくせつ)があった軽減税率は、2019年10月にスタートした。対象品目については公明党の主張が通り、財源の1兆円は「社会保障の事務費削減」「総合合算制度の見送り」「たばこ増税と給与所得控除の縮小」「免税事業者への課税」でやりくりされるという。

 とはいえ試算通りに財源をやりくりできるという保証はない。軽減税率の導入により、今後の日本経済がどのような影響を受けていくのか目が離せない。

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