朝鮮半島や台湾海峡など日本周辺国・地域の間に緊張感が走る昨今、改めて日本の防衛力の強化が必要とされている。しかし、財源をどうするのか。この記事では日本の防衛費をめぐる最近の話題について、これまでの記事から振り返る。

アジア情勢を背景に増大する日本の「防衛費」

 防衛費とは、国の安全保障を維持するために、自衛隊の運用や装備、施設の整備、研究開発などに充てられる予算のこと。防衛費は国の財政の中で、教育費や社会保障費と並ぶ重要な支出項目の一つとされている。

 日本でも近年、朝鮮半島や台湾海峡など周辺地域での有事に備えて防衛費の増額が続いている。また自衛隊の役割や能力向上を目的とした最新鋭の装備や技術の導入、訓練や演習、さらには米国との同盟関係の維持や、国際的な平和協力活動にも防衛費が投入されている。

 とはいえ防衛費を増額するためには財源の確保が必要だ。増税、国債増発、年金削減などさまざまな手法が考えられるが、いずれも国民生活への影響は避けられず、それだけに反発の声も小さくない。

 この記事では日本の防衛費をめぐる最近の話題について、これまでの記事から振り返る。

軍事費増強急ぐ世界、消える「平和の配当」

 日本の周辺で安全保障上の脅威が増している。特に注目すべきは、いわゆる「台湾有事」だ。2022年10月には中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が「武力行使を放棄せず、あらゆる選択肢を残す」と発言するなど、軍事行動に含みを持たせている。

 またウクライナへの侵攻を続けるロシアは「国家の存続が脅かされる場合には核兵器使用もあり得る」と発言し、北朝鮮も核実験やミサイル実験を繰り返しているのが現状だ。

財政力は抑止力、台湾有事が迫る増税・国債増発・年金削減?!

 こうした危機を抑止するには「防衛費」が欠かせない。具体的には、防衛費を「調達する能力」を示すことが周辺国・地域への武力行使の抑止につながるという。とはいえ先進国トップクラスの国債発行残高を持つ日本が国債の追加発行によって資金を調達できるかは疑問だ。また増税や年金の削減も国民に大きな負担をかけることから、実行は簡単ではない。

シン国家安保戦略、真の「大きな転換」は反撃能力にあらず

 2022年12月に新たな国家安全保障戦略を閣議決定した岸田文雄内閣。特に注目を集めたのは、敵対国のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」だ。専守防衛にこだわってきた日本にとって、反撃能力の保有は「我が国の安保政策の大きな転換点」(岸田首相)といえる。そしてそのための防衛費は、国内総生産(GDP)比2%に相当するという。

1兆円超の防衛増税、「必然」の曖昧決着 税制改正大綱決定の内幕

 与党が決定した2023年度与党税制改正大綱には、23年度から5年間にわたり、防衛費を43兆円程度に増やす方針が明記された。これは現行計画のおよそ1.5倍に相当する。さらに27年度からは年間およそ4兆円の上乗せが必要とされるが、その財源は「歳出削減などで3兆円程度を捻出し、不足する1兆円強を増税で確保する」という。

大転換期の日本の安全保障戦略 外交で「戦わずして勝つ」をどう実現

 一方、防衛費の拡大ばかりが安全保障戦略ではない。外務省の高羽陽安全保障政策課長は「安全保障は防衛よりも広い概念」としたうえで、「外交の力によって脅威の出現を未然に防ぎ、戦わずして勝つことが極めて肝要」と指摘する。

大橋洋治氏「対話が重要なのに、日本と中国でほとんどない 首相がもっと動くべきだ」

 同様の指摘をするのは、ANAホールディングス相談役の大橋洋治氏だ。大橋氏は「強権的な習近平体制に問題があるのは確か」としたうえで、それでも日本は中国と対話すべきだと強調する。中国と地理的に近く、歴史的な関係も深い日本は、欧米とは立場が違うというのがその理由だ。

 一方で同氏は、対話のためには日本が「経済的にも軍事的にも強くならなければならない」と述べ、現実的な路線として「経済的な強さ」を取り戻すことを提案する。

最後に

 緊迫する周辺国・地域の情勢を受けて、防衛力の強化に走る日本。そのためには防衛費の確保は不可欠だ。「国民の協力をお願いしたい」と語る岸田首相だが、年間1兆円を増税で賄うことについて国民の間には抵抗感も少なくない。日本の防衛費が今後どのように推移し、国民生活にどのような影響を与えていくのか、注意深く観察していきたい。

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