添削式の通信教育講座「進研ゼミ」で圧倒的な知名度を誇るベネッセ。長年にわたり日本の教育関連サービスをけん引してきた同社だが、2014年の個人情報漏洩事件によって大きなダメージを受けた。複数の「経営のプロ」が立て直しを図るものの、先行きは依然として見通せない。今回は過去記事の中から、事件の影響と経営者交代に関する話題を取り上げる。

個人情報漏洩事件で話題を集めた「ベネッセ」

 ベネッセの創業は1955年までさかのぼる。福武書店として創業した同社は、出版事業に加え添削式通信教育講座の「進研ゼミ」により急成長。有名予備校「お茶の水ゼミナール」の買収やパソコン教室「アビバ」の支援など、総合的な教育事業を手がけてきた。なお95年に「ベネッセコーポレーション」へと社名を変更、さらに2009年には持株会社に移行し「ベネッセホールディングス」へと商号変更している。

 ベネッセで大規模な個人情報漏洩事件が発生したのは2014年のことだ。約3500万件分の個人情報(登録会員の氏名、生年月日、住所、電話番号など)が持ち出され、他社などに売却されていた。個人情報を持ち出したのは下請会社の派遣社員だ。同社の個人情報はグループ企業の「シンフォーム」が管理していたが、十分なセキュリティー対策がなされないまま、外部の下請け会社に業務委託されていたのだという。

 被害を受けた顧客には図書カードなどの「おわび」や受講料減額といった補償が行われ、これによりベネッセホールディングスは約260億円の特別損失を計上した。同社の顧客離れは深刻で、事件当時約400万人だった会員数は事件の翌年には271万人に、さらに16年には243万人まで減少し原田泳幸会長兼社長(当時)辞任の一因となった。 17年以降は再び黒字へと転換し会員数も増加傾向の同社だが、それでも回復のペースは期待値に届いていないという。ここでは事件に関するトピックを中心に過去記事を振り返っていく。

ベネッセ、蘇生かけ原田氏登用

 個人情報漏洩事件が起こる前、主力サービス「進研ゼミ」の会員数が前年を大きく割り込む(13年2月当時)など、成長に陰りが見えていたベネッセ。外部取締役の原田泳幸氏を14年6月21日付でベネッセホールディングス会長兼社長に迎えた。

 原田氏はアップルの日本法人や日本マクドナルドホールディングスのトップを歴任してきた経営のプロフェッショナル。同社の収益構造を変えるキーマンとして期待がかかるが、「個性が強烈な原田さんの抜てきは劇薬。不協和音が生じる可能性もある」との指摘もあり、どのような采配を取るかに注目が集まっていた。

ベネッセ、情報流出の重い代償

 14年6月に発覚したベネッセの個人情報漏洩。当初は最大で2070万件の顧客情報が流出した可能性を指摘されていた(同年7月当時)。「子供が集まるイベントを開催して個人情報を集める」という独自手法で業界をリードしてきた同社だが、年間数十億円を投じて収集した経営資産が他社に流れただけでなく、市場での信頼も失う結果となった。

 この不祥事は、当時就任したばかりの原田会長兼社長にとって大きな試練となった。「DMに代わる新たな顧客獲得の手法」を見いだせない中で、成長戦略への影響が懸念された。

ベネッセ、情報管理体制に“抜け”

 ベネッセの情報管理体制について、情報セキュリティーの専門家は「管理の甘さ」を指摘する。個人情報を扱う部屋への一般社員の立ち入りを厳しく制限する一方で、当時、派遣社員によるスマホの持ち込みを見逃していたからだ。

 企業の雇用形態が変化して下請けや派遣社員の活用が増える中、情報機密を扱う企業にはしっかりした管理の仕組みと体制づくりが求められる。具体的には、身体検査や持ち物検査による外部記憶装置の持ち込みの制限や、データのダウンロードに承認プロセスを設けるなど、「制限」や「運用体制の見直し」が必要になるという。情報漏洩対策についての周知も重要だ。

ベネッセ原田社長、改革挫折で涙の引責辞任

 16年6月、ベネッセコーポレーションの原田泳幸会長兼社長(当時)が辞任した。17年3月期を含め3期連続の減収減益となる見通しとなった責任を取る形だ。アップルやマクドナルドで手腕を発揮してきた同氏だが、「国内過去最大級となった約3500万件もの個人情報漏洩事件」(16年5月時点)のダメージは深刻だった。

 事件発生以前の就任時から「DM依存体質からの脱却」を目指してきた原田氏。事件を機に取り組みを加速させたものの、DMに代わる決定打は見いだせなかった。iPadとデジタル教材を組み合わせた新サービスも思うように伸びないなど、挫折の中で会社を去ることになった。

ベネッセ“また”トップ交代、新社長が語る深層

 16年10月、ベネッセホールディングスの福原賢一社長(当時)が退任し、安達保氏が新社長に就任することとなった。前社長の原田氏退任からわずか3カ月という慌ただしい人事だが、福原氏は「一刻も早く、経営体制を強化する必要があると判断」したと説明する。

 新社長の安達氏は、長年にわたり外資系投資ファンドで企業再生などを手がけてきた「経営のプロ」だ。主力サービスである進研ゼミの収益性が悪化する中、現場のペースや市場のニーズに寄り添った改革を進めていくという。

迷走ベネッセ創業家・福武氏がついに口を開いた

 原田氏や安達氏など外部の「経営のプロ」を経営トップに推してきたのは、ベネッセ創業家の2代目、福武總一郎名誉顧問だ。その理由について「(社内を)変えるにはああいう人が必要」と語るが、一方で自身は海外で生活しており「教育には興味がない」「日本への未練は全くない」という。一部には、同氏のこうした傾向をベネッセ不振の一因とする声もある。

 ベネッセコーポレーションの現社長・安達氏は、福武氏について「あまり会社のことに深く入ってこられない。そういう意味では資本と経営の分離ができている」と評価する。一方で今後はあらためて「理念の継承」に力を入れ、社員や幹部の教育に努めていくという。

ベネッセが「進研ゼミ」で再び「脱・DM依存」目指す

 19年3月期の連結業績で増収増益を達成したベネッセ。しかし主力サービス「進研ゼミ」の新規会員獲得数は目標値を大きく割り込んだままだ。

 もともとDMの有効活用によって会員を増やしてきたベネッセ。脱DMを掲げた原田氏が改革に失敗した後は、現社長の安達氏が「もう一度DMの良さを生かす路線」で同社を黒字に戻した。しかし会員獲得数が依然として伸び悩んでいることから、今後は再び「脱・DM依存」を目指すという。

最後に

 高い知名度と豊富な会員数で成長を遂げてきたベネッセ。個人情報漏洩事件や経営方針の迷走などネガティブな要素もある中、安達社長の下で経営改革を進めている。

 日本を代表する教育関連企業として、ベネッセの復活に注目と期待が集まっている。

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