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企業や商品・サービスに共通イメージを持たせる「ブランディング」。マーケティングにとって重要な活動の1つだが、その手法には豊富なバリエーションがある。ブランディングの意味や目的、効果について解説するとともに、さまざまな業界のブランディング事例を過去記事からピックアップする。

「ブランディング」とはどのようなものか?

 ブランディングとは、企業や商品・サービスについての共通イメージを顧客に持たせる活動のことをいう。「高級車といえばベンツ(ベンツといえば高級車)」のようなイメージはその一例だろう。

 もっともブランディングの目的は「顧客=外」に対するものとは限らない。商品開発やサービス提供に統一感を持たせるため、内側に向けてイメージを発信することもある。あくまで例だが「ベンツは軽自動車を造らない」「ベンツのディーラーでは上質な接客を心がける」といったイメージだ。

 ブランディングにはさまざまな手法がある。マスメディアやWebを使った広告、各種イベント、商品・サービスのデザイン、店舗やスタッフの雰囲気など、ブランディングの対象と接点があるもの全てがブランディングのツールになる。

 一方、自由度が高すぎるためにブランディングに「失敗」する企業も少なくない。間違った相手(対象)にアピールしたり、間違ったイメージを発信したりするといった失敗だ。ブランディングには手間とコストがかかるため、売り上げに全く貢献しないブランディングも失敗といえる。ここではブランディングの際に注意すべき点と、ブランディングの成功事例を中心に紹介する。

売り上げにつながらないブランディングは無意味

 マスメディアとWebの両方でマーケティング実務を経験してきた加藤公一レオ氏によると、ブランディングを含む全ての広告は「マーケティング目標に対する効果を考慮」すべきだという。

 一般に「イメージをつくる」ブランディング広告と、「商品・サービスを売る」一般的な広告(刈り取り広告)は区別される。特に後者の場合、売り上げが広告のコストを上回ることが必須だ。だが加藤氏によると、ブランディング広告も売り上げにつながる必要があるという。

 これは、ブランディング広告と刈り取り広告が「同じもの」という意味ではない。むしろそれぞれ役割が違うため、その特長を生かして売り上げにつなげるということだ。たとえば大規模な通販会社では、「ブランディング広告」によって「刈り取り広告」での売り上げを最大1.5倍に引き上げているという。その際に注意すべきなのは、「ブランディング広告」と「刈り取り広告」でトンマナ(トーン&マナー)を変えることと、それぞれのコスト配分だ。ブランディング広告はあくまで「刈り取り広告による売り上げを最大1.5倍にする」ものなので、コストの比率もそれに応じたもの(刈り取り広告が「2」なら、ブランディング広告は「最大1」)になる。

 ただし、掛け捨て保険のようにその場限りの刈り取り広告に対し、ブランディング広告は積立保険のようにイメージが蓄積されるという。適切に利用することで、長期的に大きな効果を期待できるのがブランディング広告のメリットだ。

釜浅商店が「良理道具」で挑むブランディング

 東京・合羽橋で料理道具を扱う釜浅商店。1908年創業の老舗だが、近年のブランディング戦略により海外でも認知が広がっている。

 ブランディングを行っているのは4代目社長の熊澤大介氏。国内外でデザインの展示会に出展したり、ワークショップイベントを実施したりしているが、その基礎になっているのが「良理道具」というブランドコンセプト。ブランディングのプロとともに自社の「情報を整理」し、釜浅商店として大切にしているものを真剣に考えた上で、導き出した言葉だ。

 「良理道具」というコンセプトは、イベント出展だけでなく店舗の改装や新商品の開発にも反映されている。結果として売り上げも前年比で2割程度上がり(2016年当時)、結果が出たことで従業員のモチベーションも上がったという。

メットライフ生命、家族の動画でブランディング

 メットライフ生命保険が、ブランディングの一環として4種類のネット動画を制作しYouTubeで公開している(16年7月当時)。当初は10万回の再生を目標としていたが、結果として再生回数は110万回を突破した。

 きっかけとなったのは、子育て世代といわれる20~30代の父親や母親を対象とした保険商品の発売だ。ターゲットに合わせて動画のコンセプトを「子どもが撮った映像を両親にサプライズで見せて、家族のきずなを確かめる」ものとし、宣伝臭を出しすぎないよう「商品名や企業名は極力出さず、動画の最後に商品と社名のロゴを出すだけにとどめた」という。

 公開後、ネット上には「家族のきずなについて考えさせられた」「こんな動画を作るメットライフっていい会社だよね」など好意的なコメントが多数寄せられ、新規契約件数も「前年同期比で2割増」になった。加えて、同社は経営統合などで従業員の出身母体や価値観が多様なこともあり、社員同士の「価値観をすり合わせる」効果もあったそうだ。

ヤマハ発、進化したレクサス式ブランディング

 ヤマハが「デザイン」によるブランディングに力を入れている。16年までの2年間に10を超えるコンセプトモデルを発表、海外で多くの賞を受賞しただけでなく、売上高は前年同期比6.2%増、経常利益は28.7%増(ともに15年12月期)など大きな効果を上げている。

 ヤマハがデザインに力を入れ始めたのは14年。トヨタでレクサスブランドの構築を担当した長屋明浩氏をデザイン本部長(現、クリエイティブ本部長)に据え、社内の組織体制も一新した。同社ではデザインによるブランディングをさらに推進するため、デザインの開発と先行デザイン研究の新しい拠点となる「ヤマハモーター イノベーションセンター」を17年2月に開所させている。

資生堂、ブランディングとECマーケティングを統合

 資生堂はLINEを使ったブランディングを進めてきた。その核となるのが顧客一人ひとりに最適なコミュニケーションをするワン・トゥ・ワンマーケティングだ。そのために、自社サイト「ワタシプラス」のLINE公式アカウントとLINEの企業向け販促支援サービス「LINEビジネスコネクト」を組み合わせ、シナリオ型のマーケティングを展開した。

 シナリオ型マーケティングとは、メールの開封の有無といった分岐条件ごとに、特定のアクションを実施する(たとえば特定のメールを配信する)手法だ。これにより約15万人の登録者(16年7月時点)に向けて、それぞれに最適なアプローチをとっている。

最後に

 企業や商品・サービスに共通イメージを持たせるブランディングは、企業にとって売り上げに直結する重要な要素だ。しかしブランディングの効果を最大限に発揮するには、目的に合った方法を選んで行う必要がある。

 すでにブランディングに成功している他社の事例も参考にしながら「自社にとって最適なブランディング」を考えたい。

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