全4950文字

ネスレは、ミネラルウオーターやベビーフード、コーヒー、乳製品など、様々な商品を展開する世界最大級の食品・飲料メーカーだ。老舗企業ながら、新たなテクノロジーの取り入れや新規ビジネスに積極的で、注目を集め続けている。本稿では、そんなネスレのここ5年間の取り組みを振り返る。

ネスレの沿革

 ネスレは、スイスのヴヴェイに本社を置く、世界最大の食品・飲料メーカーだ。1866年に設立され、現在はミネラルウオーターやベビーフード、コーヒー、乳製品など多くの製品を取り扱っている。日本支社であるネスレ日本は、1913年、横浜に開設されたのが始まりで、その後1922年に神戸に移転した。この4月から、深谷龍彦氏が代表取締役社長兼CEOを務めている。

ネスレ、人型ロボ採用の本気度

 ネスレは、最新のテクノロジーを積極的に取り入れている。2014年12月1日、東京・有楽町のビックカメラ有楽町店地下1階、ネスレのコーヒーマシン「ネスカフェ」の売り場で、1台のロボットが接客業務を開始した。ソフトバンクの子会社が手掛ける「Pepper」だ。ネスレは、量販店や大型スーパーなど全国数千店舗にネスカフェの売り場を確保している。このうち、15年中には1000カ所にペッパーを配備する考えを示していた。14年当時で、人間の販売員がいるのは50~100カ所。ペッパー採用で“接客”可能な店舗を一気に拡大しようというプランがあった。

ネスレ、抹茶カプセルで栄養を宅配

 テクノロジーだけでなく、同社は新しいビジネスにも積極的だ。15年12月5日には、「ネスレ ウエルネスクラブ」という会員制サービスを北海道エリアで立ち上げている。これは、主に高齢者を対象に、会員の生活習慣に適した健康支援を実施するというもの。実験段階にもかかわらず、わざわざスイスの本社がニュースリリースを配信したほど力を入れていた。最大の特徴は、会員ごとに不足している栄養素を20種類以上、まとめて「抹茶カプセル」に配合して宅配すること。会員はそのカプセルを同社のコーヒーマシン「ネスカフェ ドルチェグスト」にセットし、1日1杯、抹茶を抽出して飲むことで、不足しがちな栄養素を補える。
 なぜ、ネスレ日本は健康支援ビジネスに参入したのか。当時の高岡浩三社長は、「平均寿命は女性で86歳、男性で80歳まで延びたが、元気に生活できる『健康寿命』はそれより10歳ほども少ない。このギャップを解決するところに事業チャンスがある」と話していた。

「地下水取らない」、ネスレが成長へ布石

 さらに、スイスのネスレは環境への配慮も怠らない。16年10月にはメキシコのハリスコ州に子供向け栄養製品の新工場を開設。この工場は、環境技術を幅広く採用した。電力の85%を風力や太陽光で賄い、排水は100%浄化するという。特に注目すべきは水資源の保全で、ネスレは世界の工場で水の使用量を減らす革新的技術を積極的に導入してきた。同社が節水対策に投じた金額は、16年までの10年間で累計約4億スイスフラン(約420億円)に達していた。15年は1940万スイスフランを投資していた。

「脱マスブランド」傾向が悩み

 とはいえ、ネスレにも課題がないわけではない。その1つが消費者の「脱マスブランド」傾向だ。これはネスレに限った話ではない。例えば、ファストフードやファミリーレストランなどの大手チェーンは利用者に安心感がある一方で、「面白みがない」「味が画一的」といった理由で敬遠されがちだ。ネスレも17年、サードウエーブコーヒーの代表格、米ブルーボトルコーヒーを買収。「ネスカフェ」など世界ブランドを持つネスレは、当時業績が伸び悩んでいた。ブルーボトルはこうしたマスブランドが持つ「大量生産の工業製品」とは対極の新鮮なイメージで伸びてきた。

ネスレの健康ビジネスを阻む壁

 また、17年当時は、ネスレが次の成長の柱と位置付ける健康支援ビジネスにも課題が見えていた。ネスレ日本は、食事写真の自動解析など顧客一人ひとりに応じた健康習慣を提案する「ネスレ ウェルネス アンバサダー」サービスを17年3月に始めた。しかし導入した企業の担当者は当時、「最初は珍しさもあって利用者も多かったが、継続するのはなかなか難しい」と漏らしていた。
 そこでネスレは、サービス開始半年後の10月12日に早速リニューアル。カプセルを化粧品会社ファンケルとの共同開発に切り替えた。それまで提供していた4種類のカプセルの栄養素の配合をファンケル監修の下で修正。美容に効果があるとするファンケルが開発した成分を配合した4種のカプセルも追加した。健康に加えて美容に関心が高い層の取り込みが狙いだったという。

ネスレが奇策、宅配値上げに対抗

 ネスレ日本の18年1~6月期業績は、配送コスト上昇に伴う商品値上げなどの影響で、売上高が前年同期比1.8%減、営業利益は同14%減と減収減益だった。高岡社長(当時)は商品の配送コストについて、「以前の2~3倍に膨れ上がっている」と説明していた。
 対策として17年から検討してきたのが、配達作業を“プロ”ではなく個人に任せる新サービス「マチエコ便」だ。従来、コーヒーなどネスレの商品を定期購入する顧客には、宅配便で自宅に届けていた。これに対し、マチエコ便で佐川急便が運ぶのは、ネスレが地域ごとに設ける商品保管所まで。「エコハブ」と呼ぶこの保管所は、ネスレの個人顧客のうち希望者の自宅や個人商店などに置かれる。そこから地域内の商品購入者の自宅までは、運送会社による配送はない。購入者が保管所まで出向いて商品を引き取る仕組みだ。運送会社への運賃は、戸別配送をしなくて済むため大幅に安くなる。

ネスレ・インディア、海外向けに相次ぎ新製品を投入

 グローバル企業であるネスレは、海外展開にも余念がない。ネスレ・インディアは、19年中に2~3ダース(24~36個)の新製品を開発し、南アジアや東南アジア市場に振り向けると発表。また、グーグルと組み、個々の消費者に合わせた健康情報をチャット形式で提供するサービスも始めるとした。

ネスレ日本、人間以外にもEコマース拡大

 さらにネスレ日本も、新しいEコマース事業の全国展開を19年6月から始めた。販売するのは人間向けの商品ではない。病気になったペット向けの「療法食」だ。ペットフード大手の買収を重ね、今では世界最大級のペットフード会社としても知られる同社。ペットの“健康寿命”を延ばしたいと考える飼い主が増えており、療法食の市場は急拡大しているという。こうした動向を踏まえ、ネスレも肥満、腎臓疾患、食物アレルギーなどに配慮した犬猫用の療法食を多数ラインアップする。

米コルゲート、ネスレのスキンケア事業の買収に名乗り

 ネスレは、新規事業を展開する一方、事業売却も進めている。米ブルームバーグ通信は19年3月29日、関係者の話として米消費財メーカーのコルゲート・パルモリーブが、スイス・ネスレのスキンケア事業の買収に名乗りを上げたと報じた。

ネスレ、スキンケア事業の売却で交渉入り

 そのスキンケア事業について、ネスレは19年5月16日に、スウェーデンの投資会社などと交渉入りしたと発表。この売却の背景には、17年に最高経営責任者(CEO)に就任したマーク・シュナイダー氏が進める事業再編戦略があったという。

最後に

 ネスレのここ5年の取り組みを振り返り、同社の現状を考察してきた。ネスレは世界中で商品・サービスを展開するグローバル企業で、テクノロジーや新規事業にも積極的だ。しかし、そこには当然課題もある。インターネットの発達を背景とした、大手ブランド離れなどはその一例だ。現在も、事業再編を進めるネスレの動向から今後も目が離せない。

 さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら