IoT技術を取り入れた最先端の都市「スマートシティ」。今回は中国広東省の省都・広州市のスマートシティ構想を中心に、特に日本企業のスマートシティ開発をめぐる課題を過去記事から追っていく。

世界で開発が進む「スマートシティ」とは?

 「スマートシティ」とは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術を取り入れた都市のことだ。再生可能エネルギーの導入や効率的なエネルギー管理を柱とする「スマートエネルギー」をはじめ、自動運転技術を取り入れた「スマートモビリティ」、家庭と都市全体のインフラをインターネットでつなげて効率的に管理する「スマートガバナンス」など、都市を支えるあらゆる分野に最先端技術が生かされている。

 スマートシティは、日本や欧米などの先進国では主に老朽化した都市を再生させる「再開発都市プロジェクト」として構想されることが多い。一方、中国をはじめとする新興国では、新しく都市を形成する「次世代都市プロジェクト」が中心だ。

 とはいえいずれの場合も、国家や自治体、大企業や最先端のITベンチャーなどを巻き込んだ一大プロジェクトとなる場合が多い。技術やノウハウを持つ企業にとっては大きな商機だが、一方で日本企業の動きは鈍く、欧米や新興国の企業に後れを取っているという。ここでは日本企業が抱える課題を中心にスマートシティ関連のトピックを見ていこう。

スマートシティ 3つの落とし穴 日本企業が商機を逃す理由

 中国広東省広州市の郊外で建設が進む「中新広州知識城」。中国とシンガポールの国家共同プロジェクトとして、2011年にスタートしたスマートシティだ。30年の完成時には、123km2の面積に50万人が住む予定だという。

 2つの国家がからむ巨大プロジェクトだけに参加する外資系企業も多い。その大半を占めるのが、ドイツのシーメンス、オランダのフィリップスをはじめとする欧米勢だ。これに対し、日本から参加しているのは日立製作所のみ。

 優れた技術とノウハウを持つはずの日本企業がスマートシティ建設に参入できない背景には3つの理由があるという。

リスク回避を優先 乗り遅れ目立つ

 1つ目の理由は、極端にリスクを恐れる体質だ。「走りながら考えるのが中国流の都市開発」であるのに対し、日本企業は「プロジェクトの具体像が判明するまで動けない」という。途中で計画が変更になった場合の責任の所在を気にするあまり、初期段階では積極的に関与したがらないのだ。

 日本企業の現地駐在員は「具体像が分かったときには、もはや参入余地はほとんどない」と不満を口にするものの、進んでリスクを取りにいく海外企業との差は開く一方だ。

電力に固執し狭まる視野

 2つ目の理由は「スマートシティ=先端エネルギー技術の集積」という固定観念だ。日本国内で行われているスマートシティ関連プロジェクトはいずれも「エネルギー関連の新技術導入ありき」で進められているという。また東日本大震災の教訓から、「スマートシティには再生可能エネルギーとスマートグリッド(次世代送電網)が不可欠」というイメージも強い。

 これに対して広州知識城では「先端エネルギー技術を導入するのは、環境対応の都市を実現するための手段の1つにすぎない」と先の現地駐在員はいう。光ファイバーや電子政府などのICT(情報通信技術)、情報インフラを活用したエコシティ、教育・研究機関を呼び込むラーニングシティなど、知識集約型の産業を積極的に開発するのが全体のコンセプトだ。

 エネルギー分野に固執するあまり、自ら参入機会を見逃しているのが日本企業の課題と言える。

ノウハウこそ重要 単品売りは薄利

 3つ目の理由は、リスク回避のために「単品技術」を売ろうとする思考パターンだという。具体的にはマスタープランなどの大枠に関与する代わり、スマートメーターやHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)などの単品を納入するという小売業者的な発想だ。

 しかし単品の商品は買いたたかれることが多く、大きな利益にはならない。そもそも広州知識城を開発する中国側が求めているのは、モノではなくノウハウだ。つまり本当に必要とされているのはスマートメーターなどの単品ではなく、それを活用する都市運営プランだという。

 中国に詳しいコンサルタントによると、「日本人は一緒にビジョンを考えてくれない」と不満を口にする中国人は多いという。日本企業がスマートシティ開発に参加するには、基本的な発想から変えていく必要がある。

スマートシティは手段にすぎない

 広州知識城の開発目的について、中国側の幹部は「スマートシティは、知識集約型の人材や企業に来てもらうための手段であって目的ではない」と語る。人と企業に「社会に付加価値を与える活動」ができる場を提供することで、広州の産業構造を転換したいのだという。

 この目的を達成するため、開発にあたっては海外の企業にも広く門戸が開かれている。実際、ドイツのシーメンス、スイスのABB、オランダのフィリップス、日本の日立製作所などを含め、2011年12月時点で64の企業・組織が参加を決めているという。日立以外の日本企業にも積極的に働きかけているといい、製品の販売(納入)だけでなくプロジェクトへの参加も期待されている(2011年当時)。

スマートシティに本腰 東芝、9000億円構想

 もちろん日本国内に目を向けると、スマートシティに積極的な企業は少なくない。その中の1つが東芝だ。2011年度時点で4000億円の事業規模を、15年度に9000億円まで拡大するという。

 すでにフランスのリヨン市など20のプロジェクトに参画を表明しているが、今後は中東や東南アジアにも進出し、「電力設備を効率化するシステム」や「省エネにつながる情報サービス」などを開発・提供していく予定だ。

スマートシティ狙う「温度差発電」 IoTでも実験始まる

 ベンチャー企業が開発する「新技術」もスマートシティ開発に生かされている。その1つが、シリコンバレーに拠点を置くマトリックス・インダストリーズが開発した発電システムだ。

 といっても、同社が開発したのは「充電不要なスマートウオッチ」だ。肌に接触する面の温度と外気温の温度差を利用して発電し、フルカラーディスプレーやGPSを搭載したスマートウオッチに給電する仕組みだという。この発電の仕組みが注目を集めている。

 すでにパキスタンの電力会社が「火力発電所のタービンの動作を監視するセンサー」の電源としてテスト活用しており、成果が出ればすべての火力発電所に拡大していくという。時間帯や天候、場所に関係なく効率的に発電できる仕組みはIoTにとっても必須技術であり、同社の技術はスマートシティのあらゆる分野で活用できると期待されている。

最後に

 急速な人口拡大が続く中、エネルギー効率が高く、環境負荷の低いスマートシティ構想の実現は欠かせないだろう。すでに世界各地でスマートシティの研究が進み、本格的な開発も始まりつつある。日本人の思考パターンや日本企業の体質など、スマートシティ開発への参加を阻害する要素は少なくない。だが日本の技術を未来に残すためにも、問題の認識と自己変革が早急に求められる。

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