深刻な人材不足が叫ばれるシステムエンジニアの世界。社会や企業の急速なIT化が進む中、その需要はますます高まっている。こうした状況はシリコンバレーの企業ばかりでなく、日本でも同様だ。今回はシステムエンジニアを取り巻く社会事情について、これまでの記事から振り返っていく。

需要が高まるシステム「エンジニア」とは?

 エンジニア(engineer)というのは、もともとは「技術者」を意味する英語だ。日本でも外来語の一種として定着しているものの、最近ではエンジニアというと、特に「システムエンジニア(SE)」などIT関係の技術者を指すことが多い。

 システムエンジニアの仕事は主にコンピューターシステムの開発で、提案から設計、開発、テストまでの一連の作業にトータルで関わっている。基本的には専門技術を持つ「理系」の人材だが、クライアントの要望をヒアリングしたり、プログラマーやテスターとの意思疎通を図ったりする必要があるなど「文系」的なコミュニケーションスキル、文章作成スキルなどを求められるのも特徴だ。

 このようにシステムエンジニアには比較的高い水準が求められるものの、そのぶん待遇面も優遇されている。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」から割り出したデータによると、平均年収は550万円超で、これは平均年収より100万円近く高い。

 需要の高さもシステムエンジニアの特徴だ。経済産業省によるとIT人材は2020年時点で37万人不足しているとされ、すでに深刻な人手不足に陥っている。優秀な人材はGAFAなどグローバルIT企業からも引く手数多で、大手企業からベンチャーまで巻き込んだ人材の奪い合いも珍しくない。

新・楽園に集うエンジニアたち

 システムエンジニアが多く集うアメリカ西海岸では、早くから優秀な人材をめぐるIT企業同士の競争が激しさを増している。シリコンバレーの中心といえばパロアルトやマウンテンビューだが、都市型の生活を好む新しい世代のエンジニアが住む「サンフランシスコ」に拠点を移す企業が増えているのだ。

 2012年7月にパロアルトからサンフランシスコへ移転したピンタレストも、そのうちの1社。車を持たない、あるいは自家用車を通勤に使わないサンフランシスコ在住のエンジニアたちを積極的に取り込もうとしている。一方、マウンテンビューのGoogle(当時)、クパチーノのAppleなどの大手企業は、本社からサンフランシスコまで通勤用バスを走らせている。

 サンフランシスコには日本から移り住んだエンジニアも少なくない。徹底した成果主義がとられる先進のIT企業は、優秀なシステムエンジニアにとって理想の環境だ。

深刻化するSE不足

 2016年3月の時点で、すでに日本でもシステムエンジニアの人材不足が深刻化していた。転職サービス「doda(デューダ)」編集長の木下学氏(当時)によると、「SE(システムエンジニア)は退職をほのめかすだけで、年収が100万円近く跳ね上がる例もある」ほどだった。

 こうした背景には、金融業界のシステム統合や電力自由化など巨大なシステム開発計画が相次いでいることが挙げられる。マイナンバーの機能拡充、東京オリンピックに向けたITインフラ整備など、大規模開発は今後も予定されており、システムエンジニアの需要は増加する一方だ。

 派遣のシステムエンジニアですら、時給5000円が相場だという。日本のIT業界が今後も生き残っていくには、より良い条件で人材を確保するのと同時に、省力化や自動化など、できるだけ人手に頼らないシステム作りも必要だ。

ベテランエンジニアにはミスマッチの苦労も

 システムエンジニアの需要は年齢を問わないという。40~50代のベテラン社員だけでなく、60歳近い社員でもエンジニアとして再就職が可能だ。

 とはいえそれらのベテラン勢と、近年のIT企業のニーズがマッチするとは限らない。「理系の研究開発のみに没頭したい」というエンジニアの場合、コミュニケーション能力まで求める若いIT企業になじめないこともあるという。需要が高い職種とはいえ、個人と会社のニーズのマッチングにも注意を払う必要がある。

ソニーがいま欲しい人材は「やんちゃなエンジニア」

 ソニーがエンジニアの募集に力を入れている。2020年度卒採用から約80の採用職種に「理学系の研究開発職」を新設、研究開発領域の採用を20%増やすという。

 同社の安部和志執行役常務によると、求める人物像は「自分の専門分野に限らず、色々なことに好奇心を持つやんちゃなエンジニア」。今後はGAFAなどグローバル企業との競争も意識しつつ、国内外を問わず優秀なエンジニアを積極的に採用していくつもりだ。

エンジニアの9割がベトナム人、AI開発のシナモン

 日本初のAI(人工知能)スタートアップ企業「シナモン」は、低コストで優秀な人が集まるベトナムで人材を確保している。同社で開発にあたるベトナム人の数はホーチミンとハノイを合わせて約90人で、社内のエンジニアの約9割に相当するという。

 エンジニアの出身校は、日本の東京大学にあたるハノイ大学や、東京工業大学に相当するハノイ工科大学などだ。しかも同社が独自に開発した「東大大学院かそれ以上の難度のプログラム」制作テストを経て、生き残った一握りのみが採用される。同社に採用されるエンジニアの給与は「同業者よりも1割高い水準」というが、彼らが働きがいを感じられるよう、マネジメント面にも細かく気を配る。

 今後は台湾、そしてインドでも拠点開発と人材採用を行うという同社。日本発AIベンチャーの今後の成長に期待がかかる。

最後に

 巨大システム開発など、ニーズに対して人材の数が追い付いていないシステムエンジニア。高い能力やスキルが求められる仕事ではあるが、引く手数多で待遇面も平均的な職種をはるかに上回る。

 世界的な人材争奪戦が過熱する中、日本のシステムエンジニアたちがどこで、どのように活躍していくのか楽しみだ。

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