ニッケルは、硬貨やバッテリーに使われるレアメタルだ。しかし今、電気自動車(EV)シフトやウクライナ危機の影響によりニッケルは世界的に不足している。今回はニッケルを活用している企業の動きや、ウクライナ危機がニッケルの供給に与えた影響についてこれまでの記事から振り返る。

バッテリーにも使われるレアメタル「ニッケル」

 ニッケルはレアメタルの一種で、主に硬貨やバッテリーの材料として利用される。近年では特に脱炭素の動きやEVシフトによりニッケルの需要が拡大しているが、一方で需要に対して供給が追いつかない、いわゆるニッケル不足も深刻だ。

 ニッケル不足の原因としては、EVの需要増加とウクライナ危機の影響が挙げられる。ニッケルはEVに使われるリチウムイオン電池の主要な構成要素のため、中国や欧州を中心としたEVシフトにより需要が急激に上昇している。一方、ウクライナへの侵攻により制裁を受けているロシアは世界的なニッケル生産国であり、制裁による供給網の混乱がニッケル不足に拍車をかけている。

 この記事ではニッケルをめぐる企業の動きや、ウクライナ危機がニッケルの供給にどのような影響を与えたのかを、これまでの記事から振り返る。

EV電池、資源高で“レアメタル循環”が競争力に

 自動車業界ではEVシフトをめぐる覇権争いが続いているが、その鍵となるのが車載用蓄電池(EV電池)だ。特にニッケルをはじめとするレアメタルはEV電池の主要な構成要素であり、その価格はEVの製造コストにも大きく影響する。だが2022年に入り、ニッケルの価格は1年半前のほぼ2倍に上昇。これまで予想されてきたEV普及の見通しが危ぶまれている。

リチウムイオン2次電池 リサイクル事業への参入進む

 2030年には年間150万~600万トンのEV電池が廃棄されると考えられているが、使用済みのEV電池は電気が残ったまま粉砕すると火災のおそれがあり、一般のゴミ焼却炉で焼却することもできない。そこで注目されているのが、別の用途に使う「リパーパス」、選別したセルをもう一度電池パックとして使う「リユース」、材料にまで分解したうえで電池製造に利用する「リサイクル」だ。こうした動きは、ニッケルをはじめとするレアメタル不足にも役に立つと考えられる。

ロシア・ウクライナ紛争で「EV生産コスト1000ドル上昇も」

 ウクライナ危機はさまざまな業界に影響を与えている。なかでも深刻なのが自動車業界だ。サプライチェーンの分断による材料不足が世界中の自動車メーカーを直撃している。特にロシアはニッケル産出量で世界第3位、世界全体の5%を占めているだけに、EV生産への影響が懸念されている。

ウクライナ戦争1年 電池材料高騰でEV需要はどうなった?

 ニッケルなどの供給不足や価格高騰によりEVの価格も上昇しており、たとえばテスラの「モデルY」の最廉価グレードは22年末までの1年半で約25%もの値上げとなった。とはいえウクライナ危機が開始から1年たち、ニッケルの価格は下降局面にあるという。理由として挙げられるのは、急騰の反動やEV需要の減速、そしてニッケルやコバルトを使わないリン酸鉄(LFP)系電池など、代替部品の普及だ。

CESで予感、これから日本の製造業に追い風が吹く?

 2023年1月に米ラスベガスで開催された国際見本市「CES2023」では、EV以上に「水素エネルギー」が話題となった。これまでEVシフトの波に押されてきた水素エネルギーだったが、トヨタ自動車やホンダをはじめとする日本企業はこれまで一貫して水素エネルギーの活用に力を入れてきた。それが今になって「最新技術トレンド」として注目されているという。

記者が展望、主要業種の2023年 高まるコスト、滞る消費 逆境が革新迫る

 最後に紹介するのは、ニッケルの相場に関する今後の予測だ。非鉄金属業界では、2023年もEVに欠かせない銅やニッケルの需要は底堅いと見られている。しかし「これらの相場は短期的に弱含む」可能性もあるといい、今後の相場の動きや、それが各社に与える影響が懸念されているという。

最後に

 身近な硬貨から、最先端のEVまで幅広く使われているニッケル。しかしEV電池の需要急増や主要生産国ロシアに対する制裁などの影響で世界的なニッケル不足が続き、自動車業界をはじめとする産業界にダメージを与えている。ニッケル供給不足が今後どうなるかは見通せないままだが、リサイクル技術の向上や代替素材の開発など、これからの各社・各産業界の動きに注目していきたい。

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