血で血を洗うような、競争の激しい市場を指す「レッドオーシャン」。一般には避けるべきだとされるレッドオーシャンだが、あえてそこに勝負を挑み、成功を収めている企業も少なくない。この記事ではレッドオーシャンにまつわる事例を、「成功例」を中心に紹介する。

激しい競争にさらされる「レッドオーシャン」

 レッドオーシャンとは、血で血を洗う「真っ赤な海」のような競争の激しい市場を指す言葉だ。対義語はブルーオーシャンで、どちらの概念も、2005年に刊行された『ブルー・オーシャン戦略ー競争のない世界を創造する』の中で提唱された。

 レッドオーシャンはニーズが多い一方で参入する企業も多く、価格競争が起こりやすい。このため一般には、「競争がない高成長と高収益の新規需要に満ちたブルーオーシャンを創造する」ことが重要とされている。

 ところが、せっかく開拓したブルーオーシャンが短期間でレッドオーシャンに変化することも珍しくない。たとえば比較的最近までニッチだった「フードデリバリー」業界なども、新型コロナの影響で需要が急拡大した結果、大小さまざまな事業者が参入しレッドオーシャンと化してしまった。

 ネガティブなイメージがつきまとうレッドオーシャン。しかし、そのような市場にあえて飛び込み、勝負を続けている企業は意外なほど多い。今回はそのような企業の事例を、過去記事を通して振り返っていく。

パソコンはまだまだ稼げる、パナソニックが示す秘訣

 レノボ、ヒューレット・パッカード、デルの3強を筆頭に、し烈な価格競争が繰り広げられるパソコン業界。その中で小規模ながらも利益を上げている日本企業がパナソニックだ。

 販売先を法人向けに特化している同社の工場では、顧客による工場訪問を積極的に受け入れている。内容は単なる工場見学ではなく、製造工程やテスト工程の「体験」だ。こうした取り組みの背景には「生産現場を見て、納得してもらったうえで、(購入を)決めてほしい」という思いがある。

 1990年代後半まで低迷が続いた同社のパソコン事業は、顧客と正面から向き合う様々な取り組みにより大きく成長。現在では13インチ未満の国内のモバイルパソコン市場でトップシェアを誇るという。

レッドオーシャンを青にする、ポテチ・たらこスパゲティ

 競争の激しい食品分野でも、あえてレッドオーシャンに飛び込み、その中でブルーオーシャンをつくり出している企業がある。

 たとえば湖池屋。同社は主力商品のポテトチップスに「塩を使わない」新製品を投入し、健康志向で塩分を控えたい中高年や素材の味を楽しみたい若い女性の人気を集めているという。ポテトチップスといえば塩分の摂取が気になるスナックというイメージが定着しているが、発想を変えたことで、これまでにない可能性が開けた一例だ。

 和風パスタの人気店「東京たらこスパゲティ」、レモネード専門店「レモネードbyレモニカ」なども、同じように発想の転換を転換し「ありそうでなかった」商品を提供することで成功を収めているという。

高級食パン「乃が美」にモスが挑戦状、食品も医療も赤い海に

 「高級食パン」分野でも競争が過熱している。2013年に開業した「乃が美」を筆頭に、小規模な専門店から神戸屋、アンデルセンといった大手までが同分野に参入しており、2020年の市場規模は255億円になると見込まれている。

 そのレッドオーシャンに新たに飛び込むのが、モスバーガーを展開するモスフードサービス。首都圏や関西、九州を中心に「約1000店舗」という規模で、1斤600円の高級食パンを販売するという。同社の特徴は「完全予約制」という点だ。予約を受けた分だけメーカーに発注するため廃棄ロスが減り、「本数が少なくても売れた分だけ利益になる」と語る。

ドコモ撤退、出前館は赤字 フードデリバリーは本当に「おいしい」か

 新型コロナの影響により、一気にニーズが拡大した「フードデリバリー」業界。日本では2000年にサービスを始めた出前館や、2016年に国内サービスを開始した「ウーバーイーツ」などが有名だ。

 NTTドコモも2014年から「dデリバリー」と呼ばれるサービスを展開していたが、2021年2月に撤退を決断した。理由は「経営資源の集中」だという。一気にレッドオーシャンと化した分野からリソースを引き上げて、本業の携帯電話事業に充てる考えだ。

 一方で業界をリードするウーバーイーツは、食品だけでなく医薬品を届けるサービスを新たに開始した。出前館も同様に、同社のネットワークをネット通販などに活用する構想を進めている。

日本コカ「檸檬堂」やバルミューダの家電、最後発でも勝てるワケ

 「チューハイ・サワー市場で最後発ながら、全国展開からわずか1年足らずで一定の地位を築いた」のが日本コカ・コーラ。2020年だけで約790万ケースを売り上げた「檸檬堂」は、実は同社にとって初のアルコール飲料だ。

 日本コカ・コーラがこの分野に目を付けたのは「炭酸や果汁など清涼飲料で培ったノウハウが生かせる」ため。アルコール飲料に関する知見は不足していたものの、データに頼らず、開発メンバーたちが全国にある人気の居酒屋やバーに足しげく通うことで補完した。

 家電分野で同様の成功を収めているのが、バルミューダだ。同社は2020年11月に「コードレス型のスティック掃除機」を発売したが、開発にあたり市場調査などのマーケティング活動は一切していないという。同社の製品は、開発者が「自らが消費者」という目線を持つことで生み出されている。家電分野では異色ともいえるが「引き合いは好調」だ。

「ライバル企業は見ていない」 オイシックスが貫く顧客愛

 レッドオーシャンの中でも、あえてライバル企業を気にせず独自のサービスを貫いているのが「オイシックス」だ。同社の主力事業はネットスーパー。この分野は新型コロナの影響でニーズが拡大しており、複数のスーパー大手が攻勢をかけている。

 そのような中で、オイシックスは2020年4~12月期の売上高が前年同期比43%増の747億円を記録し、会員の数も3カ月間で約1万人増加したという。

 同社が掲げるのは徹底した「顧客主義」だ。コロナ禍においても「実際の顧客にインタビューする機会を頻繁に設け」、多い週は100件の声を集めている。ライバルの動向ではなく顧客の声を聞き、サービスの改善に生かすことが同社のレッドオーシャン対策だ。

ヘルスケアの優等生、富士フイルムHD助野社長が明かす勝利の方程式

 医療・ヘルスケア領域もレッドオーシャンの1つ。その中で「優等生」と呼ばれているのが富士フイルムホールディングスだ。

 映画フィルムの国産化を目的として、1934年に設立された同社。その後レントゲン用フィルムでヘルスケア分野に進出し、現在ではX線画像診断装置や内視鏡、超音波診断装置などのメディカルシステムと、バイオ医薬品の開発製造受託で業績を伸ばしている。

 同社では常に「3~5年後に世の中がどう変わっていくのかを自ら分析」している。そして「市場が成長するか」「自分たちの技術がその市場にマッチするか」「競合が増えても勝ち続けられるか」「経験値が生かせるか」という4つの基準に従い、参入分野を決めているという。

時には名誉ある撤退も、メルカリに学ぶ「見切る力」

 レッドオーシャンから引くか、残るかの判断も重要だ。フリマアプリ大手のメルカリは、2018年に英国の市場から撤退した。20年には独自の決済サービス「メルペイ」の運用方針を変え、ドコモとの提携を発表した。

 同社の判断は、赤字が続く米国事業にリソースを集中させるためだという。より規模の大きい市場で勝ち抜くために他の市場を切り捨てるのも、レッドオーシャンを勝ち抜く戦略の1つといえる。

最後に

 さまざまな分野に広がるレッドオーシャン。激しい競争に疲弊する企業がある一方で、着実に勝ち残っている企業も存在している。レッドオーシャンはどの分野にも存在する。またブルーオーシャンが短期間でレッドオーシャンになることもある。他社の成功事例は、どの企業にとっても有益な学びとなるだろう。

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