相反する事柄の間で板挟みになった状態を指す「ジレンマ」。ジレンマは単なる学問上の命題ではなく、社会生活や企業活動の中でもしばしば発生している。ここでは現代の企業が直面するジレンマのうち、比較的最近の話題をピックアップして紹介する。

企業活動でもしばしば発生する「ジレンマ」

 「ジレンマ」とはギリシャ語やラテン語に由来する言葉で、相反する二つの事柄の間で板挟みになる、あるいは窮地に陥る状態をいう。

 2人の囚人に黙秘か自白を迫る「囚人のジレンマ」、寒さで凍えるかトゲで傷つけ合うかを選ぶ「ヤマアラシのジレンマ」、大企業がベンチャー企業に後れを取る理由を明かす「イノベーションのジレンマ」などが有名だ。

 ジレンマは企業活動の中でもしばしば発生している。過去の成功体験が新しい改革の障害となったり、経営状況を立て直すための投資削減が成長を阻害したり、顧客に良い品物を届けようとするこだわりが品薄を招いたり……など、事例を挙げていくときりがない。

 今回の記事では、過去に掲載されたさまざまな企業の「ジレンマ」を振り返ってみる。

「山崎55年」1本300万円、サントリーに滲む焦燥

 サントリーが直面しているジレンマは「ウイスキー」関連だ。

 同社のウイスキーは品質の高さから海外でも高く評価され、プレミアムウイスキーのブームをけん引する立役者となった。一方でウイスキーブームは原酒不足の原因となり、供給量(販売数)の減少を招いてしまった。

 高品質なウイスキーの原酒には数年から10年以上の時間がかかるため、目の前の供給不足を解消するのは難しい。いまサントリーは、市場を育てることが自社の機会損失を招くという皮肉な状況に置かれている。

後払い決済のペイディー、詐欺対策が生みだすジレンマ

 フィンテック企業のペイディー(東京・港)が直面するのは、詐欺対策によるジレンマだ。

 同社の決済サービスは、事前登録なしで携帯電話番号とメールアドレスさえあれば利用できる。気軽に利用できることから「クレジットカード番号を入力することに抵抗がある消費者や、カードを持っていない若年層」の人気を集め、ユーザー数を増やしてきた。

 ところが「携帯番号さえあれば」という手軽さを逆手にとられ、不正に入手した携帯番号などを使った詐欺が相次いで発生。同社は「顔認証による本人確認の強化」で対抗するが、この対策により、これまで同社を支持してきた「個人情報をあまり載せたくない」利用者が離れてしまうリスクもあるという。

年初来高値のメルカリを悩ますジレンマ

 メルカリを悩ませているのは「黒字」と「投資」をめぐるジレンマだ。

 2020年に入り成長が鈍っていた同社だが、新型コロナによる巣ごもり需要を受けて急速に売り上げを伸ばしてきた。第4四半期(20年4~6月期)には9億円の黒字を記録しており、日本はもちろん北米でも業績は好調だ。

 成長の理由は巣ごもり需要だけではない。広告宣伝費などの経費削減もまた、黒字化の大きな要因となった。とはいえ経費の削減は、長期的には成長を阻害する原因となりかねない。短期的な業績のために投資抑制を継続するか、成長のために赤字覚悟で投資をするか、メルカリの板挟み状態は続いている。

すかいらーくHD「299円ハンバーグ」の誤算

 すかいらーくホールディングスは、デリバリー事業によるジレンマを抱えている。

 同社はすかいらーくやガストに代表される店舗を全国に展開している。しかし新型コロナの影響で外食産業全体がダメージを受ける中、同社も2020年1~6月期の連結決算で189億円の赤字を記録している。

 その窮地を脱するために力を入れているのが「デリバリー」と「持ち帰りメニュー」だ。巣ごもり需要の影響もあり、デリバリー事業の売り上げは連結売上高の10%、持ち帰りは7%を占めているという。

 だがデリバリーも持ち帰りも店舗内での飲食を伴わない。多数の店舗を持つすかいらーくにとって、これらの分野を強化することは自社の強みを生かせないばかりか、マイナスになりかねないのだ。

コロナで売れる空気清浄機、推しきれぬメーカー

 新型コロナの感染拡大につれて、空気清浄機の売り上げが伸びている。ダイキン工業、シャープ、パナソニックなどの各メーカーも、その恩恵を受けてきた。

 消費者が空気清浄機に期待するのは「新型コロナウイルス」対策だ。当然ながらこの「効果」を強調すればそれだけ売り上げにつながりそうなものだが、各メーカーとも基本的に新型コロナウイルスに関するアピールは行っていない。

 実は現在のところ、家庭で使われる空気清浄機が新型コロナウイルスを不活性化することを証明する客観的なデータは得られていない。「客観性や合理性がないもの」をアピールすることは企業にとってリスクがあり、また消費者庁もそうした表示の適正化を求めている。

 言葉にすれば売れると分かっていても、言葉にすることができない。それが家電メーカーが抱えているジレンマだ。

2700円に値下げの「ahamo」、シンプルな料金は早くも前途多難

 携帯電話の格安料金プラン「ahamo(アハモ)」をスタートするNTTドコモもジレンマを抱えている。

 ahamoの魅力は「音声とデータ通信をセットにしたシンプルな1プランを保ちながら、より魅力的な価格で提供する」ことだ。ところがKDDIやソフトバンクが対抗プランを発表する中、ahamoの魅力を高めようとするドコモは、従来の複雑な料金プランと同様のサービスをahamoにも適用した。

 結果としてahamoと他の料金プランとの差別化が薄れてしまい、「シンプル」なサービスからかけ離れつつあるという。

「水素社会」に立ちはだかる3つの壁

 最後に紹介するのは「水素エネルギー」だ。

 燃やしても二酸化炭素が発生せず、枯渇することのない水素は、「夢のエネルギー」と呼ばれ2050年の炭素中立(カーボンニュートラル)の切り札とされている。すでに国内でも、トヨタが水素を燃料とする乗用車を発表しており、商用車への応用も急がれている。

 しかし水素エネルギーはいまだ発展途上にあり、現時点では「売れば売るほど赤字」という状態だ。また「燃やしても二酸化炭素を出さない」水素だが、現在の産業用水素は天然ガスから作られており、製造過程で二酸化炭素を発生させてしまうという。本当の意味で二酸化炭素を出さない水素エネルギーを生成するためには、もっと需要を増やす必要がある。

 現状では赤字や環境負荷の問題があり、それを解消するにはさらに利用を拡大(=赤字や負荷を拡大)させなければならない……。それが水素エネルギーをめぐるジレンマだ。

最後に

 学問の世界でも、日常生活の中でも直面する「ジレンマ」。新型コロナ拡大で社会が大きく変化する中、新たなジレンマに悩む企業も増えている。さまざまなジレンマを抱える企業たちがどのようにそれを克服していくか、興味を持って見守っていきたい。

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