小室哲哉、TRF、安室奈美恵、浜崎あゆみ――。いずれもエイベックスが1990年代、世に送り出した有名アーティストだ。90年代には大きな存在感を示したが、その後の動向はどうか? 過去のニュースを参考に紹介する。

エイベックスの概要、沿革

 エイベックスは、1988年4月11日、創業者である松浦勝人ほか4名が輸入レコードの卸販売業を中核とするエイベックス・ディー・ディーを設立したのが始まり。当時のディスコブームに乗り、「ジュリアナ東京」や「マハラジャ」のコンピレーションアルバム(既発表の音源を何らかの編集意図で集めたアルバム)などをリリースしている。また、小室哲哉とともにダンスと歌を融合させた音楽を、90年代に急成長させたことでも知られている。98年にエイベックスに社名変更し、99年に東証1部へ上場。TRFや安室奈美恵、浜崎あゆみといった有名トップアーティストを次々に輩出し、一大ムーブメントをつくり上げた。

浜崎あゆみ、アルバム全曲先行配信の狙い

 エイベックス所属の代表的アーティストが浜崎あゆみだ。2016年5月11日、彼女のニューアルバム「M(A)DE IN JAPAN」が定額制(サブスクリプション)の音楽配信サービス「AWA」で全曲先行公開されて話題になった。CD発売の1カ月半も前のことだ。AWAは有料の音楽配信サービスだが、アプリをダウンロードすると最初の1カ月間は無料で楽しめる。先行公開はもちろん、サブスクリプションサービスでの配信は、日本では初めての取り組み。アルバム収録曲の再生回数は、16年6月17日までに210万回を記録した。

 浜崎あゆみは16年5月14日から、アルバムと同名の全国ツアーをスタート。当初は5~7月のツアーの間の6月にCDを発売する予定だった。しかし、それでは、ツアーが始まるまでにファンが新曲を聞けない。当時はCD発売の時期を変えるなどの工夫をしていたが、そこで浮上してきたのが、サブスクリプションサービスで全曲を公開するというアイデアだった。海外ではリアーナやビヨンセといった有名アーティストが実施した例があるが、日本ではチャレンジしているアーティストがいなかった。

 この試みは音楽プロモーションの定石を変える可能性を秘めている。それまでは、ラジオで曲をオンエアし、テレビの音楽番組に出て、CDを発売、そしてライブツアーに出るというのが大きな流れだった。今後はラジオやテレビ番組に代わって音楽を広める役割をサブスクリプションサービスが果たす可能性がある。

 将来的にはサブスクリプションサービスで音楽を聴いてもらって、ライブで見て好きになってもらい、初めてCDを買ってもらう――そういう順番の変化が必ず起こると考えたのだ。

ネットの活用で拡大する男性アイドル市場

 ジャニーズ、EXILE、韓流の3極がけん引してきた男性アイドル市場が10年代に入り急拡大を始めた。スターダストプロモーション、ワタナベエンターテインメントなどの大手事務所が、こぞって男性アイドル市場に参入。エイベックスも音楽配信事業だけではなく、新たな取り組みとして男性アイドルにも力を入れた。大手に限らず地方からも男性アイドルグループが続々と誕生した。AKB48グループやももいろクローバーZの人気に火がついた「女性アイドルブーム」と似た空気感となっていた。

 その象徴的なエピソードがある。16年8月末、ジャニーズの人気グループ「Kis-My-Ft2」と名古屋発のアイドルグループ「BOYS AND MEN」が同日にシングル曲を発売したところ、オリコンデイリーランキングでBOYS AND MENが1位を獲得。週間ランキングではKis-My-Ft2が逆転したものの、「発売初日でジャニーズに勝ったグループ」としてBOYS AND MENの名前は一気に知れ渡った。

 男性アイドル市場拡大の理由の一つは、「ネット」の活用だ。男性アイドルの場合、「ジャニーズが出演するときは“暗黙の了解”で他の男性アイドルグループは出られない」(業界関係者)などのハードルがあった。そして、歌番組そのものの減少で、テレビ露出のハードルがさらに高くなった。そこでアイドルたちが移行したのがネットだ。その結果、ネット空間でファンダムを作り上げ、ライブやイベントで収益を上げるモデルが主流になってきた。ネットで活動する男性アイドルグループが顧客の心をつかみファン層を拡大、一気に台頭しているのだ。

過度な期待が生む「使えないAI」、エイベックスは回避

 イノベーションの「手段」のはずのAI(人工知能)が「目的」となった結果、生まれがちなのが開発しても「使えないAI」だ。19年には、華々しい実証実験開始のアナウンスの陰で、性能やコストなどの壁に突き当たる失敗事例も少なくなかった。一方エイベックスでは、陥りがちな落とし穴を回避し、AI活用を軌道に乗せていた。「投資は十分に回収できる」。エイベックスの新事業推進本部の山田真一ゼネラルマネージャーは、AI活用の費用対効果に自信を見せる。「過度に期待せず、世にあるものをうまく使おうと考えた」(山田氏)のが成功の秘訣だった。

 エイベックスは17年夏、ライブ会場の来場者の感情をAIで分析し、来場者の反応を数値化するシステムを開発。実証実験に乗り出した。曲順や演出を変更したときに来場者の反応がどう変わるかを客観的に評価し、イベントの満足度向上につなげようというのだ。

 ライブ会場のステージの両側に高精細な4Kカメラを設置し、ステージ前にいる来場者を撮影する。その映像に映っている人たちの顔画像を切り出し、米マイクロソフトのAIで感情を分析する。それぞれの顔画像について「喜び」「悲しみ」「驚き」「軽蔑」など8種の感情の度合いを推定し、その瞬間の会場全体の感情を即座に数値化する。この処理を1秒などといった短い単位で繰り返して、時間の経過に伴う感情の変化を把握する。

 実証実験を基に19年2月には、アーティストのツアーに同行するスタッフが使える簡易版システムの開発を終えている。外販用のシステムも開発し、この売り上げが立ち始め、開発にかかった費用と(マイクロソフトのAIの)利用料はすぐに回収できると見込んでいる。

エイベックス 加藤氏/新規事業の仕掛け人が語るコンテンツの価値

 20年2月に開催した、日経ビジネス Raise LIVEには、エイベックスで執行役員を務める加藤信介氏が登壇。同氏は、他社との協業などで次々に同社の新規事業を仕掛けるキーパーソンだ。プラットフォーマーが台頭する中、「コンテンツを持っていることの強み」をじっくりと語った。

最後に

 1990年代に多くの有名アーティストを輩出したエイベックスのその後を紹介した。同社はAIなどのテクノロジーへの投資を積極的に進めてきた。ただ、2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大で、ライブやイベントが開催できず、業績が悪化しているのも事実だ。さらにその間、市場としては伸びた音楽配信でも売り上げが減少しており、苦しい状況にある。こうした危機からどうに抜け出すのか、その動向に注目したい。

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