相続人が相続権の一切を放棄する「相続放棄」。主に借金など「マイナスの財産」が残された場合に活用されるが、制度を知らない人たちをめぐる相続トラブルは後を絶たない。一方で近年、相続放棄は「土地問題」をめぐっても注目を集めている。今回はこれらの話題を取り上げた過去記事を紹介する。

「相続放棄」とは

 相続放棄とは、相続人が自分の相続権を放棄する制度だ。たとえばある人が膨大な借金を抱えたまま亡くなった場合、通常ならその借金は「マイナスの財産」として相続人(配偶者や子供、あるいは親など)に相続される。しかし相続放棄の手続きをすれば、相続人はこれらマイナス財産の相続を回避することができる。

 加えて、相続放棄は相続によるトラブルを避ける目的で使われることもある。また自分以外の特定の相続人にすべての財産を承継させる目的で(たとえば事業承継などのケースで)利用されることも少なくない。

 実際、相続放棄の手続きの利用者は年々増えている。裁判所が公表する司法統計によると、2019年に相続放棄が申述(家庭裁判所に申し立て)された件数は22万5415件だった。その前年は21万5320件、さらに前の年は20万5909件という具合で、この数字は年を追うごとに少しずつ増えている。

 相続放棄をするには、相続人は「相続の開始を知った時から3カ月以内」に申述しなければならない。そしていったん相続放棄が認められると、「一切の相続権」がはじめからなかったことになる。このため後からマイナスを上回る「プラスの財産」が見つかってもそれを相続することはできないし、自分に子供がいても、その子供が自分を飛び越えて財産を相続(代襲相続)することもない。もちろん、後から相続放棄を撤回することもできない。

 ちなみに、相続放棄が家庭裁判所に認められないケースもあるという。たとえば相続人が先に財産の一部や全部を処分・消費していた場合や、財産を隠していた場合などがそれにあたる。

 相続放棄によって放棄されるのは「お金」などの動産ばかりではない。家や土地といった不動産も放棄される「一切の財産」に含まれるため、最近では「引き取り手のない不動産(所有者不明土地)」との関係でも、相続放棄が注目されている。

 国土交通省が2016年に行った調査によると、現在「不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない土地の割合は、概ね20%程度」だ(国土交通省「所有者不明土地を取り巻く状況と課題について」より)。所有者のわからない不動産は国や自治体でも自由に処分できないため、公共事業や災害復興工事などに深刻な悪影響を与えているという。しかし相続放棄制度が今後さらに活用されていけば、問題発生をある程度抑制することも可能になると考えられている。

 今回は、これら相続放棄に関する話題を過去記事からたどっていく。

まだまだある庶民を襲う相続の落とし穴

 まず紹介するのは、相続にまつわる失敗に関する記事だ。その中のひとつに「相続財産が全くないから大丈夫」という「ワナ」が取り上げられていた。すでに説明した通り財産にはプラスのものとマイナスのものがあるが、特にマイナスの財産は目に見えにくい。

 もし油断してマイナスの財産を見逃した場合「自分が相続人になったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしないと、親の借金を肩代わりすることになりかねない」ため注意が必要だ。

「保証人」の相続が破産の原因に

 マイナスの財産として特に注意すべきなのが「保証人」だ。親が直接つくった借金でなくても、連帯保証人として他人の借金を肩代わりしているケースもある。記事の中では「亡くなった義母」が親戚の連帯保証人となっていて、その相続人に800万円の督促状が届いたケースが紹介されていた。こうしたトラブルを回避するには、相続を知った時から3カ月以内に相続放棄をしなければならない。

自治体の空き家強制撤去、費用回収できたのはわずか1割

 最後に「空き家」を取り上げた記事を紹介する。上で説明した「所有者不明土地」と同じく、所有者が不明な空き家も全国的に増えている。

 ただし土地の場合と違い、空き家には維持管理の費用や撤去費用が必要だ。この場合、相続人が不明な空き家はもちろん相続放棄されて「所有者のいなくなった空き家」もまた、自治体にとって問題の種となる。実際、2015年から2016年にかけて空き家の強制撤去を実行した自治体のうち、撤去の費用全額を回収できたのはわずか48件中5件、費用にして全体の1割にすぎなかったという。

 こうした状況を踏まえ、総務省では2020年にも「空き家法」の改正を予定していた(記事公開当時)。※空き家法の改正案は2021年の通常国会に提出される予定

最後に

 個人の借金から国や自治体の都市計画まで、幅広い問題に関係している「相続放棄」。不要なトラブルに巻き込まれないためにも、まずは正確な知識が必要だ。財産のあるなしにかかわらず「相続」はほぼすべての人に発生する。「そのとき」が来てから考えるのではなく、いまのうちから相続放棄に興味・関心を持っておきたい。

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