「健康寿命」とは「平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間」。健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を指す。世界保健機関(WHO)が提唱した比較的新しい言葉だが、世界に先駆けて少子高齢化が進む日本では、特に重要な指標として関心を集めている。これまでの記事から、健康寿命に関する企業の取り組みを紹介する。

国も指標とする「健康寿命」

 「健康寿命」とは、世界保健機関(WHO)が2000年に提唱した新しい指標だ。具体的には「平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間」のことを指す(厚生労働省「e-ヘルスネット」より)。

 厚生労働省が掲げる「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」でも、健康寿命は重要な指標の一つとされる。18年9月に公表された「『健康日本21(第2次)』中間評価報告書」によると、日本の健康寿命は男性は72.14年、女性は74.79年(16年時点)となっている。今後、平均寿命の延伸に伴い、健康寿命との差が拡大すれば、医療費や介護給付費がかかり、若い世代の社会保障負担も高まる。このため「持続可能な社会保障制度」を見据えた「新たな国民健康づくり運動」が重要と考えられている。

 厚労省は健康日本21において「現時点でどのような生活習慣病対策を通じて、どの程度生活習慣病を減らすことが可能で、それにより健康寿命がどのくらい延びるかを推定するためのエビデンスが存在せず、今後さらに研究を推進する必要」があるとしている。官民を挙げた研究と取り組みで日本が「健康産業先進国」となり、世界に貢献することが期待されている。

健康産業先進国の日本が世界貢献できる日は近い

 「健康寿命の延伸」を目指す取り組みを通し、日本はいずれ「健康産業先進国」として世界に貢献できるようになると考える人もいる。フィットネスクラブ大手「ルネサンス」の会長、斎藤敏一氏もその一人だ。同社はフィットネスクラブをレジャー産業から健康産業へとシフトさせてきた。

 1990年代のルネサンスの会員は60代が3.3%と少なく、20代、30代の利用が主だった。しかし、シニア向けの施設づくりや施策を進めた結果、シニア世代が増え、「会員の30%くらいが60代以上」(2017年時点)だという。これは国が進める「健康日本21」ともマッチするものだ。

 フィットネスをはじめとする「健康産業」が日本に根付いていけば、日本発のこれらの健康づくりは、アジア・アフリカの人々にとって、ソフトパワーとして受け入れられると、斎藤氏は語る。

「74歳まで働く人生」になってしまうのか?

 16年5月16日に経済産業省で開催された第18回産業構造審議会総会に提出された、次官・若手未来戦略プロジェクトのディスカッションペーパー「21世紀からの日本への問いかけ」に以下のような記述がある。

 「バイオ技術の活用で世界に先んじて健康寿命が延び、 AI・ロボット技術の積極導入によるサポートが可能になれば、高齢者も、支えられる側から、むしろ価値創造側に回ることができる」「今後、AI・バイオ技術の導入で健康寿命が延びれば、高齢者は、知識・智恵を活用した人的資源となるのではないか」。その上で「現役世代2人で高齢世代1人を支える構造を今後も維持できるのではないか」という見方を示している。

 だが、「健康寿命の間はひたすら働き続ける人生が本当によいのだろうか」「そういう人生が楽しいと思える人は多数派なのだろうか」といった、素朴な疑問もでてくる。「引退して悠々自適の生活を送る」という、人生のゴールのイメージは、だんだん遠くなりつつある。もしかするとなくなりつつあるのかもしれない。

ロシアが求める日本の医療協力

 「健康寿命の延伸」に向けた日本の取り組みをロシアが注目している。さまざまな医療問題を抱えるロシアでは「寿命の短さ」が大きな課題で、国民の平均寿命を延ばすためにプーチン大統領みずから、「医師の賃金を引き上げる」と宣言したほどだ。

 16年12月に山口県長門市で開かれた日ロ首脳会談で固まった日ロ経済協力の筆頭項目には健康寿命伸長のための「医療水準の向上」が挙げられている。ロシアで優秀な医療従事者を育成することを狙ったもので、従来のハードに偏った一過性の協力とは異なる。

 最先端の医療技術、予防医療、緩和医療、リハビリテーションなど、日本が得意とする医療産業分野はロシアにとっても大きな価値がある。そして、日本のロシアに対する外交力を高められるチャンスにもなるのだ。

IT長者も巨額資金、「不老薬」は近い?

 IT企業の創業者たちが「老化研究」に関心を寄せている。これまでに、米オラクル創業者のラリー・エリソン氏、米グーグル創業者のラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏、米ペイパル創業者のピーター・ティール氏、米フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏など、多くの「IT長者」が研究費として数億ドルの資金を供出したり、ファンドや賞を設立したりしている。

 研究の究極的な目的は「不老」だが、その過程で健康寿命を延ばせる可能性もあると期待されている。それだけに「抗老化」の研究に、世界中の科学者がしのぎを削っている。世界有数の高齢化社会である日本は不老技術の開発競争で先頭に立つ潜在力がある。だが、米国のようなダイナミズムは残念ながら見られない。このままでは未来の巨大市場を逃すことになる。

MSなど、タブレット付きカートで高齢者を支援

 同じIT企業でも、日本マイクロソフトの取り組みはより現実的だ。同社は富山大学歩行圏コミュニティ研究会や富山市、三協立山と共同で「富山発・高齢者向け ホコケンIoTプロジェクト」を実施している。加齢などで骨や筋肉などが衰えて要介護になるリスクが高まるロコモティブシンドロームを防ぐための取り組みだ。

 プロジェクトの第1弾は16年6月に開催された「タブレット付きまちなかカートを使ってまちなかゆる歩き!!」。富山市の65歳以上を対象としたまち歩きだ。イベントではセンサーを搭載したカートが参加者の歩行情報を収集し、マイクロソフトのクラウドネットワークに送信。それを分析することで高齢者の健康増進などに役立てるという。

 日本マイクロソフト執行役で最高技術責任者の榊原彰氏は「IoTを活用して健康寿命を延ばすこととともに、都市環境の整備にもつなげたい」と語り、今回の取り組みの成果を全国に広げていきたいとした。

住友生命、「健康増進で保険料割引」の商品開発舞台裏

 18年7月、住友生命保険は「毎年の健康診断受診や日々の運動など、継続的な健康増進活動に応じて保険料が変わる」特約サービス「Vitality(バイタリティー)」を発売した。生保各社が注力する「健康増進型保険」の一つだ。加入者の健康状態に応じて保険料を割り引き、健康増進に向けた動機付けとする。なかでもバイタリティーでは、IoT技術を活用して健康増進の取り組み度合いを把握し、保険料を変動させる最先端テクノロジーを使っているのが特徴だ。

 健康寿命を延ばすことが保険料の安さにつながり、保険会社も保険金支払いを抑えられ、国や自治体は医療費の削減につながる。この「三方よし」の保険は営業職員からも好評だという。それだけでなく、この商品の開発によって「縦割りだった部門間のコミュニケーションが活発になった」「お客様を健康にするという、生保としての新しい価値を見いだすこともできた」と橋本雅博社長(当時、現会長)は語っている。

最後に

 国(厚生労働省)が重要な指標の一つとしている「健康寿命」。国民の平均寿命が延びる中、平均寿命と健康寿命の「差」に大きな関心が集まっている。国の取り組みはもちろん、民間企業でも健康寿命を延ばすためのさまざまな取り組みや商品開発が続いている。これらの「健康産業」が、今後どのように発展を遂げていくか要注目だ。

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